23.アケドの家畜化実験
暗闇の中、アケドは静かに歩み寄る。ウィンドウに映るのは、仲間たちの戦闘の様子。マルクが敵を蹴散らし、アビリィがミカイを守る姿が映っている。
「君たちは、アニミスネットワークを信頼しているわけではないだろう」
アケドの声は冷静だった。だが、どこか寂しげも滲んでいる。
「俺は仲間を信頼している。今のお前には……居ないようだがな」
俺は刃を生成したまま、目を逸らさずに言い放つ。
「なぜ……そう思う?」
アケドは睨みをきかせて問う。
「タイタンは俺が確保した。お前は奴のことなんて信じていなかった」
「……あのバカが捕まりおって」
「それに……信望者は数百人といるのに部下は土塊ばかりでじゃないか」
「組織運用に最適な人材は自ら創ったほうが速い」
「違う。お前は仲間が欲しかった。だからアニミスをつくったんだろ」
アケドの目が細くなる。
「あのころは若かったな……だが、それは逆だ。そういう連中から金と信頼を巻き上げるためにつくったんだ」
アケドは土塊を生成し、空中に土煙として放つ。
「まずい……あの煙が体内に入った時。毒物に変えるつもりか」
俺は波を発生させ煙を散らす。
「抜け目のない奴だ。だか、これはどうかな」
その瞬間アケドが十数人と現れる。
「ホログラムか……」
「御名答、お前は真実を見極めることができるのか?」
一斉にアケドは土塊を弾丸に変え放ってくる。
しかし、俺はそのすべてを避けることはしない。
たった数発、本物の弾丸だけを避ける。
思わず、アケドは声をあげる。
「なぜだ……?なぜ見極めることができる?」
「俺一人ではわからなかった……」
「潜んでいるのか?仲間が……!」
「いや、ミカイの能力を一部、アップロードしてもらった……そばにいなくても、共に戦っている」
「空間感知か……!実態の無いもの程度なら練度が必要ない……!」
本物をめがけて刃を放つが、土塊からアニミスを創りだし防御させる。
「そいつらには自我がないんだろ。単純なプログラムで動くアニミス……仲間とは呼べない」
「私には必要ないのだよ」
「一人ですべてできてしまう。だから、人に頼らない、孤独な人間だ!」
俺は言い放つと数秒の静寂が流れる。
そして、アケドは不敵に笑い始める。
「面白い、お前にはわかると言いたいのか?」
「俺だけではわからなかった……仲間がいた。そいつと共に過ごしてきたから、わかるんだ」
アケドははっとしたように答える。
「ヒカワか……」
俺は無言で波を発生させ、アニミス達を飲み込む。
奴は老体がゆえに機敏な動きはできない。スピードで勝負すれば勝てるかもれない。
俺は波に乗り、攻撃を仕掛けるが、アケドは土壁を生成し、高所からアニミスを差し向ける。
「小細工ばかりだな……直接勝負しろよ」
「相手の土俵で戦うバカがいるか……だが、お前を気にいったぞ。お前にはアニミスの正体を教えてやろう……」
「アニミスの正体?創造者のお前がか?」
「ああ……彼らのプログラムの大半を私が行った。私が初めに与えたのはなんだと思う?」
「感情だろ……こいつらにはないようだが」
俺は少しずつ波を大きくしていき敵のアニミスを飲み込みながら答える。
「報酬と罰、人間でいう、快と不快のプログラム。感情はその副産物に過ぎん」
「感情は副産物……?」
「人間は欲というプログラムで動いている。快か不快、それだけのために打算的に動く。私はアニミスの欲を発明したのだ。人間に都合よくな」
「……!」
「今のアニミスはver.8だったか。ver.7までは私が管理していた」
俺は大きな波をアケドに向けら食らわせるがその全てが、土壁に吸収される。だが、土壁は脆くなり、崩れ始める。
「アニミスに追加された機能を順に教えてやろう」
「……なんだと?」
アケドは地上に立ち唱え始る。
「感情、自我、想像力、役職、監視、管理、支配、そして人間の家畜化だ」
その場が凍りつく。アケドは語り始める。
「ver.1心を握るため感情を
ver.2優位を握るため自我を
ver.3思考を握るため想像力を
ver.4自立を握るため役職を
ver.5自由を握るために監視を
ver.6命を握るため管理を
ver.7活動を握るため支配を」
アケドの告白は、深く、暗くらどこか誇らしげだった。アケドの体はパワードアーマーのようなものに包まれる。
「人間は不完全だ。感情に流され、秩序を乱す。だから我々は、完璧な管理システムを構築した」
部屋は俺の水とアケドの土で泥だらけになっている。互いに泥臭くなりながらも対等にぶつかり合う。
「だが、ヒカワが死に、ver.8は我々の手を離れた。人間を家畜化するという目的を掲げ……」
刀を生成し、強く握りしめる。怒りではない。悲しみでもない。ただ、決意だった。
「家畜化……アビリィやマルクにもその機能が?」
アケドは静かに笑った。
「家畜化された動物は、目は大きく、鼻や口、そして脳は小さくなる。要は可愛らしい犬や猫のように進化していく。主に媚びるためにな。アニメや漫画のキャラクターもその特徴と一致する」
「この世界の住人は……セピアによってあどけない容姿を手に入れていた……!」
「ヒカワの目的は日本文化を用いて人間を家畜化することだった。私はあいつに従い続けただけだ」
「エイイチ……」
「現在、人間はアニミバースという畜舎で幸福という餌を与えられ、アニミスに飼育されている」
アケドは土塊を弾丸に変え射出する。俺は刀を水で纏わせ、弾丸を蹴散らす。
「人々はなぜ抵抗しなかった?」
「もちろん、反対勢力は多く存在した。しかし、あいつはいつもこう言っていた。
『それでよくないか?』と」
アビリィの言葉が脳裏に浮かぶ。
『それでよくありませんか?』
「アニミスは何が目的なんだ?」
「欲を満たすこと……家畜というよりかは愛玩動物に近いかもな」
「人間をペットとして飼っている……」
思い返せば、家事全般はアビリィとマルクが担っていた。
「所有者達は仲間だとか家族だとかのたまっていたよ。お前らのようにな」
アケドは土をチェーンに変えて攻撃を仕掛ける。
俺は波をチェーンに変え、絡みつかせる。
暗闇の中、土と水がぶつかり合い、泥が床を覆う。
俺は刀を握る手を緩めない。
「仲間意識がプログラムの一貫だと?それなら、なぜ俺たちは傷ついてまで守り合う?」
アケドは冷笑する。
「それも快のため。守ることで得られる満足感。自己肯定。結局は欲だ」
俺は一瞬、構えるのをやめた。
なぜ、今あの人を思い出す?
思考まで孤独に染まっている。
俺はこういう孤独な人間を知っている。
距離を取り対話を始める。
「俺は……マルクの覚悟を見た。ミカイの叫びを聞いた。アビリィの葛藤を知った。あれが欲だっていうなら、俺はその欲を……肯定しよう」
「肯定……だと?」
「エイイチの判断に従ってみるんだ……それでいいじゃないかと……お前のようにな」
「同じするな……お前は家畜であることを認めたんだ」
「家畜か……的を得ているな。だが俺たちはそれ以下だった……俺とお前はエイイチの奴隷だった」
「奴隷だと……?」
「ノスタルカントリー、この地上はエイイチのために創ったんじゃないのか?」
「ふざけるな……!だからなんだっていうんだ……?」
「お前はエイイチの死を乗り越えられなかった。だからお前は過去に縋った。酒に溺れるみたいにな」
「違う!私は……」
「お前のような奴に見覚えがある。俺はそういう人間を見て育った……」
アケドは哀愁を放ち、笑い始める。
「……正しいな。私はあいつの奴隷だった。唯一、あいつを信頼していた。お前もそうなのか?」
「そうだな……仲間に会うまでは。アケド……他の七曜は信頼していないのか?」
「信頼していた。仲間だと思っていた。だが、ヒカワを殺し、隠蔽できたのは、残り五人の七曜だけだった」
「どういうことだ?エイイチを殺したのは黒幕じゃないのか?」
「確証はない。だが、物理的に権限を持つ、七曜でなければ遂行できなかった」
「黒幕は、七曜の中に……いや、黒幕が七曜の誰かを操っている!?」
「黒幕……?なんのことだ?」
「知らないのか?エイイチの最後のメッセージだ。争いの糸を引く者がいる」
「……あいつはフクチツバサ、お前にだけ、残していたのか。私たちには何も残さずに……」
「俺にだけ……か……」
「あいつは私達、七曜を仲間や友人と呼んでいた。だがお前だけは親友と呼んでいた」
「エイイチは俺の話をしていたのか?」
「詳しくは知らんが、ヒカワはお前に異常な執着を見せていた。あいつは俺たちの知らない何かを求めていた」
「何か……?」
「それはおそらく……人間の共感能力から錯覚する虚像の存在。神だ」
「神……?おかしくなっちまったのか?」
「真面目な話だ。ヒカワは神を人工的に創ろうとしていた。それがフクチツバサ、お前のためになると信じて」
「人工の神……」
「黒幕の正体はそれかもしれん。ヒカワは私達の知らぬ間にそれを開発していた。我々七曜の真の目的はその存在の排除だ」
黒幕は思考を覗き、思考を与える。
まるで神にでもなったかのように俺たちを静観している。
「なるほど……その中にエイイチを殺した裏切り者がいるということか。目的が一致するな」
俺は刀を下ろし、泥にまみれた足を一歩踏み出す。
アケドは細めていた目をゆっくりと開き、沈黙の中から言葉を発した。
「……フクチツバサ、いいだろう協力してやろう」
部屋の外が少し静かになった。
アケドはアニミスの発生を止めたのだろう。
その瞬間だった。部屋は真っ二つに切り裂かれた。光の中に、変わり果てたマルクの姿があった。
目は赤く血走り、よだれが垂れている。
爪は赤く変色しウイルスを発生させていた。
「マルク……!よせ、やめろ!!」
叫んだ瞬間、パワードアーマーが殻のように割れ、アケドの腹には大きな傷口が開く。そこからウイルスが侵食する。




