第1章 第4話 - 麗華編
美香ちゃんの件から数日後。俺は相変わらずアダルトコーナーでバイト中だった。
「山田くん、今日は早く帰れそうね」
美由紀リーダーが在庫チェックをしながら言った。
「ありがとうございます」
「学校はどう?女の子関係は落ち着いた?」
「まあ、なんとか...」
実際は全然落ち着いてない。雫との関係はギクシャクしたままだし、恵ちゃんからは相変わらず相談LINEが来るし、美香ちゃんは元気になったけどなんか意味深な視線を送ってくる。
「童貞君は大変ね〜」
「だから童貞って言わないでください!」
美由紀さんにからかわれながら、俺は今日も平和にバイトを終えた。
翌日、俺は学校の図書館にいた。プログラミングの課題がどうしても分からなくて、参考書を漁ってたんだ。
「うーん、やっぱりわからん...」
俺が頭を抱えてると、図書館の奥から足音が聞こえてきた。振り返ると、白川麗華ちゃんがこっちに歩いてくる。
相変わらずモデルみたいなスタイルで、高身長に巨乳、ショートカットが似合ってる。完全に俺には手の届かない高嶺の花だ。
(うわ、マジで来やがった。今日は参考書読んでるだけなのに、なんでこんな美人が...)
「あら、けーちゃん」
麗華ちゃんが俺に気づいて声をかけてきた。普段あんまり男子と話さない麗華ちゃんが、なぜか俺とは普通に会話してくれる。
「あ、麗華ちゃん。お疲れさま」
「お疲れさま。何してるの?」
「プログラミングの課題なんだけど、全然分からなくて」
麗華ちゃんが俺の隣に座った。高級な香水のいい匂いがする。
「どれどれ...」
麗華ちゃんが俺のノートを覗き込む。その時、麗華ちゃんの胸が俺の腕に当たった。
(うわあああああ、柔らかいいいいい!!!神様ありがとうございます!!!)
俺は心臓がバクバクして、顔が真っ赤になった。鼻血が出そうだ。
「けーちゃん、顔赤いわよ?まるでトマトみたい」
「あ、いや、その...」
「もしかして熱でもある?」
麗華ちゃんが心配そうに俺の額に手を当てた。お嬢様らしい上品な手だった。今度は額に触れられて、さらに顔が赤くなる。
「だ、大丈夫です!」
(大丈夫じゃねぇ!俺のライフはゼロよ!)
「そう?でも無理しちゃダメよ」
麗華ちゃんの優しさに、俺はさらにドキドキした。
「この問題ね...」
麗華ちゃんは俺の課題を見ながら、スラスラと解き方を説明してくれた。頭がいいんだな、この人。
「すげー、麗華ちゃんって頭いいんだね」
「お嬢様学校にいた時の名残りよ」
「お嬢様学校?」
「私、中学まで私立のミッション系女子校にいたの。でも、IT関係に興味があって、この専門学校に来たのよ」
「へー、そうなんだ」
麗華ちゃんの意外な一面を知って、俺は興味深く聞いていた。
「でも、男の子と話すのは苦手なの。みんななんか...怖くて」
「怖い?」
「私の体型を見る目が...なんか嫌らしいの」
確かに、麗華ちゃんのスタイルを見てる男子は多い。俺も含めて。
(いや、俺も普通に見てるけどな。今もちょっと見てたし。でも麗華ちゃんには絶対バレちゃダメだ)
「でも、けーちゃんは違うのよね」
「え?」
(違わねぇよ!俺も立派な男だ!)
「けーちゃんは私を普通に見てくれるから、話しやすいの」
麗華ちゃんの言葉に、俺は冷や汗をかいた。完全に騙してる。
(麗華ちゃん、それは大誤解です...)
「そんなことないよ。麗華ちゃんは...」
「なに?」
「えーっと...上品で素敵だと思う」
麗華ちゃんの頬が少し赤くなった。
「ありがとう。けーちゃんって優しいのね」
(また優しいって言われた...)
俺はなんか照れくさくなって、視線を逸らした。
「でも、けーちゃんも大変そうね」
「え?」
「最近、雫さんや恵さん、美香さんとよく一緒にいるでしょ?」
「あ、うん...」
「みんなけーちゃんを頼りにしてるのね」
麗華ちゃんの指摘に、俺は苦笑いした。
「なんか、相談事が多くて」
「相談事?」
「まあ、いろいろと...」
詳しく説明するわけにもいかず、俺は曖昧に答えた。
「けーちゃんって、女の子の気持ちが分かるのかしら」
「そんなことないよ」
「でも、みんながけーちゃんに相談するってことは、そういうことでしょ?」
麗華ちゃんは何か考え込んでる様子だった。
「麗華ちゃん?」
「実は...私も相談があるの」
「え?」
突然の相談に、俺は驚いた。
「どんな相談?」
麗華ちゃんは少し恥ずかしそうに言った。
「私、男の子とどう接すればいいか分からないの」
「どういうこと?」
「ミッション系の女子校にいた時は女の子ばかりだったから、男の子と話すのが本当に苦手で...特に男の子と二人きりになると緊張しちゃって」
「でも、俺とは普通に話してるじゃない」
「それが不思議なの。けーちゃんとは、なぜか緊張しないのよ。そばに女の子がいる時は大丈夫なんだけど、男の子と二人きりだと普通はダメなの」
麗華ちゃんがじっと俺を見つめる。その瞳に、何か特別な感情が揺れてるのが見えた。
「麗華ちゃん...」
「お願い。けーちゃん、私に男の子との接し方を教えて」
「え、えーっと...」
俺は困ってしまった。俺だって女の子との接し方なんて全然分からないのに。
「俺なんかが教えられることなんて...」
「でも、けーちゃんは自然体で接してくれるでしょ?それが知りたいの」
麗華ちゃんの真剣な目に、俺は何も言えなくなった。
「わ、分かった。できる範囲で...」
「ありがとう♪」
麗華ちゃんが嬉しそうに微笑んだ。その笑顔に、俺の心臓がまたドキッとした。
図書館を出る時、俺たちは偶然雫と出くわした。
「あ...」
雫は俺と麗華ちゃんが一緒にいるのを見て、明らかに動揺した。
「雫さん、お疲れさま」
麗華ちゃんが上品に挨拶する。
「あ、麗華ちゃん...お疲れさま」
雫の声がなんかギクシャクしてる。
「けーちゃん、今日はありがとう。また相談に乗ってね」
麗華ちゃんはそう言って去っていった。残された俺と雫の間に、気まずい空気が流れた。
「また相談?」
雫の声が冷たい。
「あ、うん。勉強のことで...」
「そう」
雫はそれだけ言って、俺を置いて行ってしまった。
(あー、また誤解されてる...)
俺は溜息をついて、複雑な気持ちで家路についた。
翌日の昼休み、俺は屋上でタバコを吸ってた。すると麗華ちゃんがやってきた。
「けーちゃん」
「あ、麗華ちゃん」
「昨日の続きなんだけど...」
「相談?」
「そう。実際に男の子と話す練習をしたいの」
「練習?」
「私、人とのコミュニケーションが苦手で...特に男の子は全然ダメなの」
麗華ちゃんが情けなさそうな顔をした。
「でも、社会に出たら男性とも仕事するでしょ?だから慣れておきたいの」
確かにIT業界は男性が多いからな。
「それで、けーちゃんに練習相手になってもらいたいの」
「練習相手?」
「男の子とのコミュニケーションの練習よ」
麗華ちゃんの提案に、俺は戸惑った。
「でも、俺も人とのコミュニケーションは得意じゃないよ」
「それでいいの。等身大の男の子との会話がしたいから」
(等身大って...)
俺は苦笑いした。
「分かった。できる範囲で手伝うよ」
「ありがとう♪」
麗華ちゃんが嬉しそうに手を叩いた。
「それじゃあ、今度の休日、一緒に出かけない?」
「え?」
「実践練習よ。街中で男性と自然に会話できるようになりたいの」
「街中で?」
「そう。お買い物とか、カフェとか...」
(それって、デート...?)
俺の顔が赤くなった。
「ど、どこに行けばいいかな?」
「任せるわ。けーちゃんが普段行くような場所でいいの」
(普段行く場所って...アダルトコーナーは絶対ダメだろうし、ネカフェもオタクバレするし、本屋のエロ本コーナーも論外だし...俺の普段の行動範囲、全部アウトじゃねぇか!)
「じゃあ、駅前のカフェとか?」
「それでいいわ。今度の日曜日はどう?」
「日曜日...大丈夫です」
「やった♪楽しみ♪」
麗華ちゃんが嬉しそうにはしゃいでる姿を見て、俺も少し嬉しくなった。
でも同時に、これが雫にバレたらどうなるかと思うと不安だった。
日曜日、俺は約束の駅前で麗華ちゃんを待ってた。しばらくすると、私服の麗華ちゃんがやってきた。
「お待たせ♪」
うわ、私服の麗華ちゃん、めちゃくちゃ可愛い。ワンピースがスタイルを際立たせてて、男性の視線を一身に集めてる。
「あ、お疲れさま...じゃなくて、こんにちは」
「こんにちは♪今日はよろしくお願いします」
麗華ちゃんが上品にお辞儀する。
「じゃあ、どこに行こうか?」
「けーちゃんのおすすめを教えて」
俺は麗華ちゃんを例の喫茶店に案内した。
「素敵なお店ね」
「よく来るんだ」
俺たちは奥のテーブル席に座った。すると、案の定いつものウェイトレスさんがやってきた。
「いらっしゃいませ...」
ウェイトレスさんが俺の顔を見て、明らかに表情が変わった。
「...またいらっしゃいましたね」
「あ、はい...」
ウェイトレスさんの視線が麗華ちゃんに移る。今度はモデルみたいな美女と来てる俺を見て、さらに冷たい表情になった。
「今度は...随分とお綺麗な方と」
うわ、完全に呆れられてる。プレイボーイ認定が確定した。
「ご注文は?」
「コーヒーをお願いします」
「私も同じで」
ウェイトレスさんは冷たい視線で俺を見ながら、メモを取った。
「かしこまりました」
去り際に、ボソッと聞こえるように言った。
「お盛んですこと...」
(俺、完全に誤解されてる...)
麗華ちゃんは上品すぎて、ウェイトレスさんの嫌味に気づいてない様子だった。
注文を済ませて、俺たちは向かい合って座った。
「それで、何から練習する?」
「そうね...まずは自然な会話から」
「自然な会話?」
「男の子と話す時、いつも緊張しちゃうの。でも、けーちゃんとは不思議と緊張しないのよね」
「そうなの?」
「そう。だから、けーちゃんとの会話を参考にしたいの」
麗華ちゃんが真剣な顔で俺を見つめる。
「でも、俺も普通に緊張してるよ」
「え?」
「麗華ちゃんみたいな美人と二人きりで話すなんて、めちゃくちゃ緊張する」
俺が正直に言うと、麗華ちゃんは少し驚いた顔をした。
「本当?」
「本当だよ。でも、麗華ちゃんが話しやすい人だから、なんとか会話できてる」
「そうなの...私も、けーちゃんが優しいから話しやすいのかも」
コーヒーが運ばれてきた。
「ところで、麗華ちゃんはなんでIT系に興味を持ったの?」
「実は...ゲームがきっかけなの」
「ゲーム?」
「RPGが大好きで、特にドラクエとかFFとか...」
「マジで?俺もめっちゃ好きだ!」
俺は興奮して身を乗り出した。
「本当?最新のFFはもうプレイした?」
「もちろん!でも、あのラスボス戦は難しすぎない?」
「分かる!俺も10回くらい死んだ」
「私は15回よ」
麗華ちゃんが恥ずかしそうに笑った。
「それで、ゲームを作る側に興味を持ったの。プログラミングが面白くて、論理的に物事を組み立てるのが好きなの」
「へー、すげー!俺はプレイするだけで精一杯だよ」
「でも、けーちゃんはゲームうまそう」
「そんなことないよ。麗華ちゃんの方が絶対うまいって」
「今度一緒にプレイしない?オンラインで」
「いいね!やろうやろう!」
俺と麗華ちゃんは、ゲームの話で盛り上がった。お嬢様なのにゲーマーって、ギャップが萌える。
「意外だったな」
「何が?」
「お嬢様がゲーム好きって」
「よく言われるわ。実は、年の離れたお兄様の影響なの」
「お兄さん?」
「10歳年上なんだけど、昔からゲームが大好きで。小さい頃からお兄様と一緒にプレイしてたの」
「へー、そうなんだ」
「お兄様が大学生の時に、RPGの面白さを教えてくれて。『麗華も一緒にやろう』って」
麗華ちゃんが懐かしそうに微笑んだ。
「それからハマっちゃって。ミッション系の女子校でも、こっそりゲームしてたの」
「こっそり?」
「周りの子にはとても言えないもの。『品がない』って言われそうで」
「でも、ゲームも立派な文化だよ」
「そう言ってくれるのは、けーちゃんとお兄様だけよ」
麗華ちゃんが嬉しそうに答える。
「将来はゲーム関係の仕事がしたいの。でも、そのためには男性とも自然に話せるようにならないと」
「そうだね」
「それで、今日はけーちゃんに相談があるの」
「今度は何?」
麗華ちゃんが少し恥ずかしそうに言った。
「実は...男の子とお付き合いしたことがないの」
「え?」
俺は思わずコーヒーを噴き出しそうになった。
「女子校だったから、男の子との出会いがなくて」
「そ、そうなんだ...」
(麗華ちゃんがまだ恋愛未経験って...)
「でも、私の親友は正反対なの」
「親友?」
「彩香って子なんだけど、小学校からの幼馴染で...その子はもう30人以上の男性と経験があるのよ」
「さ、30人???」
俺は思わずコーヒーを吹き出した。麗華ちゃんにかからなくてよかった。
「目標は100人だって言ってて、今も4人の男性と同時にお付き合いしてるの」
「よ、4人も???」
俺の声が完全に裏返った。
「今は本命の大学の先輩のアパートに入り浸ってるって」
(なんだそいつ、化け物か?いや、もはや伝説の生き物レベルだろ。俺なんて童貞一筋18年なのに...)
「それで、彩香にも相談したんだけど、『麗華は真面目すぎる』って言われちゃって」
「あー...」
「『もっと積極的に行かないとダメ』って。でも、私にはとても彩香みたいには...」
麗華ちゃんが困った顔をしてる。
「それで、もし良かったら...」
「なに?」
「けーちゃんに、恋愛について教えてもらいたいの」
「れ、恋愛???」
俺の声が完全に変声期の中学生レベルまで裏返った。
「私、本当に何も分からないの。男の子がどんなことを考えてるのか、どうやってアプローチすればいいのか...」
(おいおいおい、ちょっと待てよ!俺だって童貞なのに、そんなこと教えられるわけない!これは詐欺だ!返金してくれ!)
「あ、あの、麗華ちゃん...」
「お願い。けーちゃんしか頼める人がいないの」
麗華ちゃんが上目遣いで俺を見つめる。その瞬間、俺の理性が吹っ飛んだ。
「わ、分かった...」
なぜか承諾してしまった俺。童貞なのに恋愛指南とか、RPGで言えばレベル1でラスボスに挑むようなもんだ。
「ありがとう♪」
麗華ちゃんが嬉しそうに微笑んだ。
「でも、俺も恋愛は初心者だから、あんまり期待しないでね」
「そんなことないでしょ?最近、女の子にモテてるじゃない」
「モテてるって...」
「雫さんも恵さんも美香さんも、みんなけーちゃんを頼りにしてるのよ」
麗華ちゃんの指摘に、俺は困った。
「あれは友達としてだよ」
「本当に?」
「本当だって」
「でも、女の子の心は複雑なのよ。友達として始まっても、いつの間にか特別な感情に変わることもあるの」
(特別な感情って...まさか麗華ちゃんも?)
俺は動揺した。
「麗華ちゃん、もしかして...」
「なに?」
「いや、なんでもない」
俺は首を振った。麗華ちゃんは俺なんかに特別な感情を抱くわけがない。
でも、麗華ちゃんの視線が、なんか意味深に感じられた。
「ねえ、けーちゃん」
「なに?」
「今度、二人で映画でも見に行かない?」
「え?」
「恋愛の勉強よ。映画を見て、男女の関係について勉強したいの」
(それって、デートじゃ...)
「え、えーっと...」
「ダメかしら?」
麗華ちゃんが少し寂しそうな顔をした。
「だ、ダメじゃないけど...」
「やった♪」
麗華ちゃんが手を叩いて喜んだ。
(俺、何を承諾してるんだ...完全に自分のキャパ超えてる。これ絶対炎上案件だろ...)
お会計の時、麗華ちゃんが財布を出そうとしたので、俺が止めた。
「いいよ、俺が払う」
「でも...」
「今日は俺が誘ったようなものだから」
「ありがとう。次は私が払うわね」
(次って...また会うのか。俺の人生、いつからこんなにイベントフラグが立つようになったんだ?)
俺は複雑な気持ちになった。
喫茶店を出ると、麗華ちゃんが俺の腕に軽く触れた。
「今日はありがとう。とても勉強になったわ」
「そ、そうかな」
「また今度、映画の件よろしくお願いします」
麗華ちゃんがウインクしてみせた。その仕草に、俺の心臓がドキッとした。
家に帰る途中、俺は今日の出来事を整理してみた。
・麗華ちゃんとのカフェデート(練習という名目で)
・麗華ちゃんからの恋愛相談
・次回の映画の約束
(これって、俺と麗華ちゃんが付き合ってるように見えるんじゃ...)
でも、麗華ちゃんにとっては勉強だから、深く考えちゃダメだ。
(雫に知られたら、また誤解されるな...)
俺は複雑な気持ちでスマホを見ると、雫からLINEが来てた。
『けーちゃん、今日はお疲れさま。明日話があるから』
(話って何だろう...まさか今日のことがバレた?)
俺は不安になりながら、ベッドに横になった。
麗華ちゃんとの時間は楽しかったけど、雫との関係がさらにギクシャクしそうで心配だった。
(俺、どうなっちゃうんだろう...)