第1章 第3話 - 美香編
恵ちゃんの妊娠騒動から数日後。俺は相変わらずアダルトコーナーでバイト中だった。
「山田くん、最近女の子関係で忙しいのね〜」
美由紀リーダーがニヤニヤしながら言ってきた。
「え、なんでそんなこと...」
「顔に書いてあるのよ。『女の子に振り回されてます』って」
「そ、そんなこと書いてないですよ!」
「童貞君は分かりやすいのよね〜」
美由紀さんにからかわれながら、俺はエロDVDの整理を続けた。確かに最近、雫のことや恵ちゃんのことで頭がいっぱいだ。
(俺、どうしちゃったんだろうな...)
翌日の昼休み、俺はいつものように屋上でタバコを吸ってた。すると、小さな足音が聞こえてきた。
「あ、けーちゃん」
振り返ると、金井美香ちゃんがちょこちょこと歩いてくる。相変わらず身長が小さくて、ミニスカートが似合ってる。
「お、美香ちゃん。どうしたの?」
「けーちゃんに聞きたいことがあって〜」
美香ちゃんの可愛い声に、俺の心臓がちょっとドキッとした。この子はいつも可愛い声で話すから、男子の間では「天使の声」とか呼ばれてる。
「何?」
美香ちゃんは俺の隣に座った。小さな体がちょこんと座ってる姿が、なんか子犬みたいで可愛い。
「翔くんのことなんだけど...」
「翔ちゃんの?」
「翔くんって、彼女いるのかな?」
うわ、来た。この手の質問。
「え、翔ちゃんの彼女?」
「うん。気になっちゃって〜」
美香ちゃんが上目遣いで俺を見つめる。その瞬間、俺の理性が少し揺らいだ。
(この子の上目遣い、反則だろ...)
「翔ちゃんに直接聞いてみたら?」
「でも、直接は恥ずかしいの〜」
美香ちゃんがもじもじしてる。その仕草がまた可愛くて、俺は困ってしまった。
「翔ちゃんは...確か今はフリーだと思うけど」
「本当?」
美香ちゃんの顔がパッと明るくなった。
「でも、俺もよく分からないから、確実じゃないよ」
「そっか〜。でも教えてくれてありがとう♪」
美香ちゃんが俺に微笑みかける。その笑顔に、また心臓がドキッとした。
(やべぇ、この子可愛すぎる...)
「ねえ、けーちゃん」
「なに?」
「けーちゃんは彼女いるの?」
「え?」
突然の質問に、俺はタバコを落としそうになった。
「い、いないよ」
「そうなんだ〜。意外」
「意外って?」
「だって、けーちゃんって優しいし、頼りになるから、モテそうなのに」
モテそうって言われて、俺は照れまくった。
「そ、そんなことないよ」
「本当に?」
美香ちゃんが俺をじーっと見つめる。
「本当だって」
「じゃあ、けーちゃんはどんな女の子がタイプなの?」
またしても困る質問。最近この手の質問ばっかりだ。
「うーん...」
「雫ちゃんみたいな子?それとも恵ちゃんみたいな子?」
(え、なんで雫と恵ちゃんの名前が出てくるんだ?)
「べ、別に特にないよ」
「ふーん」
美香ちゃんは何か考え込んでる様子だった。
「でもね、私思うんだ」
「何を?」
「けーちゃんって、実は結構モテてるんじゃない?」
「は?」
「だって、雫ちゃんもけーちゃんといつも一緒だし、恵ちゃんも最近けーちゃんを頼りにしてるでしょ?」
確かに言われてみれば...でも、それはただの友達関係だと思う。
「それは友達だからだよ」
「本当にそうかな〜?」
美香ちゃんがニヤニヤしてる。なんか意味深な笑顔だ。
「女の子の気持ちって、男の子には分からないものなのよ〜」
「そ、そうなの?」
「そうよ〜。私だって...」
「え?」
「あ、なんでもない♪」
美香ちゃんが慌てて誤魔化した。
(今、何か言いかけた?)
「美香ちゃん、何か言いたそうだったけど...」
「ううん、なんでもないの」
美香ちゃんは顔を赤くして立ち上がった。
「あ、そろそろ授業だから戻るね〜」
「あ、うん」
美香ちゃんがちょこちょこと去っていく。その後ろ姿を見ながら、俺は首をかしげた。
(なんか変だったな...)
放課後、俺は翔ちゃんと圭吾と一緒に帰ってた。
「なあ、けーちゃん」
「ん?」
「昼休み、美香ちゃんと話してたでしょ?」
圭吾がニヤニヤしながら言った。
「あ、うん。ちょっとね」
「何の話?」
「翔ちゃんに彼女がいるかどうか聞かれた」
「俺の?」
翔ちゃんが振り返った。
「うん。美香ちゃん、翔ちゃんのこと気になってるみたい」
「へぇ〜」
翔ちゃんは特に驚いた様子もない。
「美香ちゃん、可愛いよね」
圭吾が言った。
「確かに可愛いけど...」
翔ちゃんが何か言いかけて止めた。
「けど何?」
「いや、なんでもない」
最近、翔ちゃんがよく言いかけて止める。何か気になることでもあるのかな。
「でも、美香ちゃんがけーちゃんに相談するって、珍しいよね」
圭吾の指摘に、俺も思った。
「そうだね。普段あんまり話さないのに」
「もしかして、美香ちゃんもけーちゃんのこと...」
「は?」
「いや、なんでもない」
圭吾まで言いかけて止めた。
(みんな何なんだよ...)
翌日、俺は翔ちゃんに美香ちゃんの件を伝えた。
「美香ちゃんが俺のこと?へぇ〜」
翔ちゃんは特に驚いた様子もない。
「翔ちゃんは美香ちゃんのこと、どう思うの?」
「可愛いとは思うけど...俺のタイプじゃないかな」
「そうなんだ」
「美香ちゃんには悪いけど、俺は年上の女性の方が好みなんだ」
翔ちゃんはそう言って苦笑いした。
数日後、俺は廊下で美香ちゃんとすれ違った。
「あ、美香ちゃん」
「...」
美香ちゃんは俺を見ても、いつものように手を振ってこなかった。なんか元気がない。
「美香ちゃん、どうしたの?」
「...なんでもないよ」
美香ちゃんの声がいつもより小さい。そして、そのまま行ってしまった。
(なんか様子がおかしいな...)
昼休み、俺は翔ちゃんに聞いてみた。
「翔ちゃん、美香ちゃんと話した?」
「あ、うん。昨日告白されたよ」
「え?」
「でも、俺はお断りした」
翔ちゃんがバツが悪そうに言った。
「そっか...それで美香ちゃんが落ち込んでるのか」
「悪いことしたかな」
「仕方ないよ、気持ちは無理できないし」
でも、美香ちゃんの落ち込んだ顔を思い出すと、なんか胸が痛くなった。
放課後、俺は美香ちゃんを見つけて声をかけた。
「美香ちゃん」
「...けーちゃん」
美香ちゃんは振り返ったけど、いつもの元気な笑顔じゃなかった。
「今日、時間ある?」
「え?」
「ちょっと話そうよ。喫茶店でも行かない?」
「でも...」
「なんでも奢るから」
俺がそう言うと、美香ちゃんの顔が少し明るくなった。
「本当?」
「本当だよ」
例の喫茶店に着くと、いつものウェイトレスさんがやってきた。また俺の顔をじーっと見てる。
「...またいらっしゃいましたね」
「あ、はい...」
「今度は小さな女の子と」
うわ、完全にプレイボーイ認定されてる。ウェイトレスさんの視線が冷たい。
「ご注文は?」
「えーっと...」
美香ちゃんがメニューを見て、目を輝かせた。
「ドデカパフェ!」
「え?」
「このお店の名物でしょ?食べてみたかったの〜」
美香ちゃんがいつもの可愛い声で言った。少し元気になったみたいで安心した。
「ドデカパフェ1つとコーヒーお願いします」
ウェイトレスさんはまた冷たい視線で俺を見て去っていった。
(俺、なんか悪者扱いされてる...)
「けーちゃん、ありがとう」
「どういたしまして」
「翔くんのこと、聞いた?」
美香ちゃんが小さな声で聞いてきた。
「うん...」
「振られちゃった」
美香ちゃんが寂しそうに笑った。
「でも、仕方ないよね。気持ちは無理できないもの」
「美香ちゃん...」
「私、翔くんのこと本当に好きだったの。でも、叶わない恋だったんだね」
美香ちゃんの目に涙が浮かんでいた。
その時、ウェイトレスさんがドデカパフェを持ってきた。
「お待たせしました」
相変わらず冷たい態度だったけど、美香ちゃんがパフェを見て目を輝かせてるのを見ると、少し顔がほころんだ。
「わぁ〜、大きい〜!」
美香ちゃんがスプーンでパフェをつつく。その仕草がいつもの可愛い美香ちゃんに戻ってて、俺はホッとした。
「美味しい〜♪」
「よかった」
「けーちゃんも食べる?」
「いや、俺はいいよ」
美香ちゃんが美味しそうにパフェを食べてる姿を見てると、なんか心が温かくなった。
「ねえ、けーちゃん」
「ん?」
「ありがとう。こうやって話聞いてくれて」
「いえいえ」
「けーちゃんって、本当に優しいのね」
美香ちゃんが俺を見つめる。その瞳に、また何か特別な感情が揺れてるのが見えた。
「美香ちゃん...」
「私、やっぱりけーちゃんのこと...」
「美香ちゃん」
俺は慌てて遮った。
「今は翔ちゃんのことで辛いでしょ?そういう時に、俺のことなんて考えなくていいよ」
「でも...」
「まずは元気になることが大事だよ」
美香ちゃんは少し考えてから、小さくうなずいた。
「そうね...ありがとう、けーちゃん」
「ごちそうさまでした♪」
美香ちゃんがパフェを完食して、いつもの可愛い笑顔を見せた。
(よかった、少し元気になったみたい)
お会計の時、ウェイトレスさんがボソッと言った。
「女の子を泣かせちゃダメよ」
「え?」
「何でもありません」
ウェイトレスさんは冷たく言い放って去っていった。
(俺、完全に誤解されてる...)
翌日、美香ちゃんは少し元気になったみたいだった。でも、翔ちゃんへの失恋の傷はまだ深そうだった。
昼休み、俺は屋上で一人タバコを吸ってた。
「けーちゃん」
雫の声がした。振り返ると、雫がやってきた。
「あ、雫」
「昨日、美香ちゃんと喫茶店にいたんだって?」
「あ、うん。翔ちゃんに振られて落ち込んでたから」
「そうなの...優しいのね、けーちゃんは」
雫の声に、なんか複雑な感情が混じってるように聞こえた。
「美香ちゃん、可哀想だった。翔ちゃんのこと、本当に好きだったみたいで」
「そっか...」
雫は何か考え込んでる様子だった。
「雫?」
「何でもないの。けーちゃんは優しいから、みんなけーちゃんを頼りにするのね」
「そんなことないよ」
「でも、恵ちゃんも美香ちゃんも、最近けーちゃんとよく話してるでしょ?」
雫の指摘に、俺は少し困った。確かに最近、女の子と話すことが多くなった。
「それは...困ってる時に相談されただけだよ」
「けーちゃんって、女の子の心が分かるのね」
「そんなことないって」
でも、雫の表情を見てると、なんか機嫌が悪そうだった。
(もしかして、雫も嫉妬してるのかな...?)
そう思うと、少し嬉しくなった。
家に帰る途中、俺は今日の出来事を整理してみた。
・翔ちゃんに振られて落ち込む美香ちゃん
・美香ちゃんを慰めるために喫茶店に誘った俺
・それを知って複雑な表情をする雫
(俺の周りの人間関係、なんか微妙になってきてる...)
でも、美香ちゃんの落ち込んだ顔を見てられなくて、つい声をかけてしまった。これって友達として当然のことだよな。
(雫も、俺が美香ちゃんを慰めたことを理解してくれるといいんだけど...)
家に着いてスマホを見ると、美香ちゃんからLINEが来てた。
『今日はありがとう♪ 元気出たよ〜』
続けて恵ちゃんからも。
『けーちゃん、明日また相談があるの。お時間ある?』
そして雫からは何も来てなかった。
(雫...やっぱり機嫌悪いのかな...)
俺は複雑な気持ちでベッドに横になった。美香ちゃんも恵ちゃんも大切な友達だけど、心の奥で一番気になるのはやっぱり雫だ。
(雫との関係、ギクシャクしちゃってるな...)
でも、困ってる友達を放っておくわけにはいかない。これからも、みんなの相談に乗ってあげたいと思う。
(雫にも、いつか俺の気持ちを分かってもらえるかな...)