第1章 第2話 - 恵編
田崎事件から1週間後。学校では相変わらず田崎が女子から完全スルーされてて、なんか可哀想になってきた。でも自業自得だからなー。
俺は今日もアダルトコーナーでバイト中。エロDVDの整理とか、正直18歳の童貞には刺激が強すぎる職場である。
「山田くん、お疲れさま〜」
美由紀リーダーが声をかけてきた。
「あ、お疲れさまです」
「今日早く終わったから、コーヒーでも飲む?」
「え、いいんですか?」
「たまには息抜きしなさい。童貞君」
「ど、童貞って言わないでください!」
美由紀さんは笑いながら自販機でコーヒーを買ってくれた。28歳の大人の女性から童貞呼ばわりされるのは、なかなかに恥ずかしい。
「学校の彼女、どうなの?」
「彼女じゃないですよ。ただの友達です」
「ふーん。でも気になってるんでしょ?」
(バレてる...)
「い、いや、そんなことは...」
「男の子って分かりやすいのよねー」
美由紀さんにからかわれながら、俺はコーヒーをすすった。雫のことを考えると、確かに最近胸がソワソワする。これって恋なのかな...
バイト終わって家に帰ると、LINEにメッセージが来てた。
『けーちゃん、明日ちょっと相談があるの。お時間ある? 恵』
恵ちゃんから?珍しい。普段は翔ちゃんや圭吾とばっかり話してるのに。
『大丈夫っすよ。どこで会います?』
『学校の近くのカフェでどうかな?放課後に』
『了解です』
翌日の放課後、約束のカフェで恵ちゃんを待ってた。しばらくすると、いつものワンピース姿でやってきた。相変わらず胸元がすごいことになってて、目のやり場に困る。
「けーちゃん、お疲れさま〜」
「あ、お疲れさまです」
恵ちゃんは俺の向かいに座った。ワンピースの胸元から谷間がチラチラ見えて、俺は必死に視線を逸らした。
「何か飲み物頼む?」
「コーヒーで大丈夫よ〜」
俺がウェイトレスさんを呼ぼうとした時、恵ちゃんが突然言った。
「あ、やっぱりドデカパフェにしよ!」
「え?」
「このお店の名物でしょ?せっかくだし〜」
ウェイトレスさんがやってきた。あ、この人雫と来た時と同じ人だ。
「ご注文は?」
「ドデカパフェ1つとコーヒー1つお願いします」
ウェイトレスさんが俺の顔をじーっと見つめる。
「...あ、この前も来てましたよね?」
「あ、はい」
「確か、ポニーテールの女の子と一緒に」
「え、ええ...」
ウェイトレスさんの視線が恵ちゃんに移る。そして俺を見て、明らかに冷たい表情になった。
「...かしこまりました」
うわ、完全に睨まれてる。浮気男認定されてる。
恵ちゃんは気づいてないのか、相変わらずニコニコしてる。
「ドデカパフェ楽しみ〜」
(やべぇ、ウェイトレスさんに完全に誤解されてる...)
コーヒーが運ばれてきた時も、ウェイトレスさんの視線が痛い。
「お待たせしました」
声のトーンが明らかに冷たい。ドデカパフェを置く時も、ちょっと乱暴だった。
(俺、なんか悪いことしてる気分になってきた...)
「それで、相談って?」
「実はね...」
恵ちゃんは少し困ったような顔をした。
「こないの...」
「え?」
「あ、ごめん。『来ないの』って意味よ。生理が」
ブホッ!
俺は思わず水を噴き出しそうになった。
「え、え、えええ???」
その時、ウェイトレスさんがドデカパフェとコーヒーを持ってやってきた。
「お待たせしました」
声のトーンが明らかに冷たい。ドデカパフェを置く時も、ちょっと乱暴だった。
恵ちゃんは相変わらず気づかず、パフェを見て目を輝かせてる。
「わぁ〜、大きい〜!」
「もう1週間も遅れてるの。どうしよう...」
恵ちゃんがパフェを食べながら真剣な顔で俺を見つめてくる。
(ちょ、ちょっと待て。なんで俺にそんな話を???)
「あ、あの、恵ちゃん...それって俺に相談することなの?」
「だって、けーちゃんって優しいし、真面目だから相談しやすいの」
優しいって言われるのは嬉しいけど、この相談内容はヤバすぎる。
「でも、そういうのって女友達に相談した方が...」
「雫ちゃんたちには言いづらいのよ〜。みんな真面目だから」
(俺だって真面目だよ!というか童貞だよ!)
「それで...もしかして妊娠の可能性が?」
「うん...可能性はあるかも」
恵ちゃんはあっけらかんとした表情で言った。
(この人、なんでそんなに平然としてるんだ?)
「あの...お相手は?」
「最近だと翔くんと圭吾くんかなー」
「は???両方???」
「うん。先月あたりに」
俺の脳みそがフリーズした。翔ちゃんと圭吾、両方と?この人マジで天然なのか?
「あ、でも田崎くんとも...」
「田崎も!?」
「うん。田崎くんが落ち込んでたから、慰めてあげたの」
(慰め方がそれって...)
俺は完全に混乱した。恵ちゃんの恋愛事情、複雑すぎる。
「それで、けーちゃんはどう思う?」
「ど、どうって言われても...」
「妊娠してたらどうしよう?」
恵ちゃんが不安そうな顔をしてる。確かにこれは大問題だ。
「とりあえず、検査薬で調べてみた方がいいんじゃない?」
「そうよね。でも一人で買うのは恥ずかしいの」
「え?」
「けーちゃん、一緒に来てくれる?」
「えええええ?俺が???」
「お願い!」
恵ちゃんが上目遣いで俺を見つめる。その瞬間、理性が吹っ飛びそうになった。
(やべぇ、この人可愛すぎる...)
「わ、分かりました」
なぜか承諾してしまった俺。童貞の悲しい性である。
「ありがとう〜!けーちゃんって本当に優しいのね」
恵ちゃんは嬉しそうに微笑んで、ドデカパフェをスプーンでつついた。
「このパフェ美味しい〜。ごちそうさま!」
「え?」
「お会計お願いします♪」
(ちょっと待て、いつの間に俺が払うことになってるんだ???)
でも恵ちゃんの笑顔を見てると、なぜか断れない。雫の時と同じパターンじゃないか。
「は、はい...」
(俺、また奢らされてる...)
結局俺たちは、駅前のドラッグストアに向かった。恵ちゃんと一緒に妊娠検査薬を買いに行く18歳童貞。シチュエーションがカオスすぎる。
「あの...恵ちゃん」
「なあに?」
「俺が一緒にいて、変に誤解されない?」
「大丈夫よ〜。けーちゃんは私の大事な友達だもの」
友達か...なんか複雑だ。
ドラッグストアに着くと、恵ちゃんは迷わず妊娠検査薬コーナーに向かった。俺は周りの視線が気になって仕方ない。
「どれがいいかしら?」
「し、知らないよ...」
「店員さんに聞いてみる?」
「やめて!」
恵ちゃんは何個か手に取って比較検討してる。俺はもう恥ずかしくて死にそうだった。
「これにするわ」
レジで会計する時、店員のおばちゃんが俺たちを見て微笑んだ。
「お若いのに大変ね」
(違うんです!俺じゃないんです!)
心の中で必死に叫んだが、もちろん声には出せない。
会計を済ませて外に出ると、恵ちゃんが俺の腕に抱きついてきた。
「けーちゃん、ありがとう!」
柔らかい胸が俺の腕に当たって、心臓が爆発しそうになった。
「あ、あの、恵ちゃん...」
「なに?」
「検査、いつするの?」
「今から家でするわ。結果出たら連絡するね」
「そ、そうですか...」
恵ちゃんと別れて家に帰る途中、俺は自分の状況を整理してみた。
・翔ちゃんと圭吾と田崎と関係のある恵ちゃん
・その恵ちゃんの妊娠騒動に巻き込まれた俺
・しかも一緒に検査薬を買いに行った俺
(俺、何してるんだ...)
家に着いてスマホを見ると、雫からLINEが来てた。
『けーちゃん、今日恵ちゃんと一緒にいたでしょ?』
うわ、バレてる。
『あ、ちょっと相談されて...』
『何の相談?』
(これは言えない...)
『えーっと、勉強の相談です』
『ふーん。恵ちゃん、けーちゃんを頼りにしてるのね』
なんか雫の文面が少し冷たい気がする。まさか嫉妬?
『別に大したことじゃないよ』
『そっか。お疲れさま』
雫とのやり取りが終わって、しばらくしてから恵ちゃんからLINEが来た。
『けーちゃん、陰性だったよ〜!』
ホッとした。でも同時に、ちょっと複雑な気分でもあった。
『よかったですね』
『本当にありがとう!今度お礼するからね』
『いえいえ、気にしないでください』
『けーちゃんって本当にいい人〜。誰かさんとは大違い』
誰かさんって、翔ちゃんや圭吾のことかな。確かに、もし俺が恵ちゃんと関係を持ってて妊娠の可能性があったら、もっとパニックになってると思う。
でも恵ちゃんは、なんであんなに平然としてるんだろう。恋愛に対する考え方が、俺とは全然違う。
翌日、学校で翔ちゃんと圭吾に会った。
「よお、けーちゃん。昨日恵ちゃんと一緒だったんだって?」
圭吾がニヤニヤしながら言った。
「え、なんで知ってるの?」
「恵ちゃんから聞いたよ。『けーちゃんに相談に乗ってもらった』って」
「相談?何の?」
翔ちゃんも興味深そうに聞いてくる。
「いや、大したことじゃないよ」
「へぇ〜。恵ちゃん、最近けーちゃんを頼りにしてるよね」
圭吾の言葉に、翔ちゃんが少し複雑な表情をした。
「まあ、恵は誰にでも親しくするからな」
「そうそう。でも、けーちゃんには特別優しいかも」
(特別って...まさか俺のこと気になってるってこと?)
そんなわけないよな。俺は童貞だし、恋愛経験ゼロだし。恵ちゃんみたいな美人が俺なんかを...
「けーちゃん、顔赤いぞ?」
「え、そんなことないよ」
「恵ちゃんのこと考えてたんじゃない?」
圭吾の指摘に、俺は慌てて否定した。
「考えてないよ!」
「まあ、恵はちょっと...」
翔ちゃんが何か言いかけて止めた。
「ちょっと何?」
「いや、何でもない」
翔ちゃんの歯切れが悪い。何か言いたそうだったけど、結局何も言わなかった。
昼休み、俺は屋上でタバコを吸ってた。すると恵ちゃんがやってきた。
「けーちゃん、いた〜」
「あ、恵ちゃん。お疲れさま」
「昨日は本当にありがとう。おかげで安心したわ」
「いえいえ」
恵ちゃんは俺の隣に座った。相変わらずワンピースの胸元がすごいことになってて、目のやり場に困る。
「ねえ、けーちゃん」
「なに?」
「私のこと、どう思う?」
突然の質問に、俺はタバコを落としそうになった。
「え、どうって...」
「翔くんや圭吾くんは、私のこと軽い女だと思ってるみたい」
恵ちゃんの声が少し寂しそうだった。
「そんなことないと思うけど...」
「でも、けーちゃんは違うよね。私を責めたりしない」
恵ちゃんが俺を見つめてくる。その瞳に、何か複雑な感情が揺れてるのが見えた。
「俺は...恵ちゃんがどんな人であっても、友達だから」
「友達...」
恵ちゃんは小さくつぶやいた。
「けーちゃんは優しいのね。でも、それだけかしら?」
「え?」
「私、けーちゃんともっと仲良くなりたいの」
恵ちゃんが俺に身を寄せてきた。甘い香水の匂いがして、頭がクラクラする。
「あ、あの、恵ちゃん...」
「けーちゃんは、私みたいな女の子は嫌い?」
「嫌いじゃないけど...」
「じゃあ、私とも...」
その時、屋上のドアが開いて雫が現れた。
「あ...」
雫は俺と恵ちゃんの距離の近さに気づいて、明らかに動揺した。
「あ、雫ちゃん」
恵ちゃんは何事もなかったように立ち上がった。
「邪魔しちゃったかしら?」
「いや、別に...」
俺は慌てて立ち上がった。雫の表情が何だか冷たい。
「そう。じゃあ、私は教室に戻るわね」
恵ちゃんはそう言って去っていった。残された俺と雫の間に、気まずい空気が流れた。
「雫...」
「別に何も言わないわよ。けーちゃんが誰と仲良くしようと自由だし」
雫の声が明らかにトゲトゲしい。
「いや、違うんだ。恵ちゃんは...」
「もういいの。私も教室に戻る」
雫はそう言って、俺を置いて去っていった。
(あー、完全に誤解されてる...)
でも、恵ちゃんが俺に何を言おうとしてたのかも気になる。まさか、俺のことを...
(いやいや、そんなわけない)
俺は頭を振って、そんな考えを打ち消した。恵ちゃんみたいな美人が、俺みたいな童貞を相手にするわけがない。
でも、胸の奥に小さな期待があるのも事実だった。理想の巨乳スリム体型の恵ちゃんが、もし俺のことを...
(だめだめ、そんなこと考えちゃ)
俺は残りのタバコを吸い終えて、複雑な気持ちで教室に戻った。
放課後、俺は恵ちゃんに呼び止められた。
「けーちゃん、さっきはごめんなさい」
「え?」
「雫ちゃんに誤解されちゃったよね」
「まあ、ちょっと...」
「私、けーちゃんを困らせるつもりじゃなかったの」
恵ちゃんは申し訳なさそうな顔をしてる。
「いいよ、気にしないで」
「でも、私の気持ちは本当なの」
「気持ち?」
「けーちゃんのこと、素敵だなって思ってる」
恵ちゃんが真剣な顔で俺を見つめる。
「俺なんか...」
「翔くんや圭吾くんは、私の体しか見てない。でも、けーちゃんは違う」
「恵ちゃん...」
「私のことも、ちょっとは気になる?」
俺は答えに困った。確かに恵ちゃんは魅力的だし、理想の体型だ。でも、雫のことを考えると...
「恵ちゃんは魅力的だと思うよ。でも、俺には...」
「雫ちゃんがいるから?」
「いや、雫とは...」
「まだ付き合ってないんでしょ?」
恵ちゃんの指摘に、俺は言葉に詰まった。
「だったら、私にもチャンスはあるよね?」
恵ちゃんが俺の手を取った。柔らかくて温かい手だった。
「あ、あの...」
「考えておいて。私、本気だから」
恵ちゃんはそう言って、俺の頬にキスをして去っていった。
俺は頬を押さえながら、その場に立ち尽くした。
(え、え、え?今何が起こった???)
頬がまだ温かい。恵ちゃんの唇の感触が残ってる。
(恵ちゃんが俺に...本気って...)
理想の体型の美女から告白された。童貞の俺には信じられない出来事だった。
でも、心の奥で雫の顔が浮かんでくる。昼休みの時の、冷たい表情の雫。
(俺、どうすればいいんだ...)
家に帰っても、恵ちゃんのことが頭から離れなかった。理想と現実の間で、俺の心は揺れ動いていた。