表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/31

第1章 第2話 - 恵編

 田崎事件から1週間後。学校では相変わらず田崎が女子から完全スルーされてて、なんか可哀想になってきた。でも自業自得だからなー。


 俺は今日もアダルトコーナーでバイト中。エロDVDの整理とか、正直18歳の童貞には刺激が強すぎる職場である。


「山田くん、お疲れさま〜」


 美由紀リーダーが声をかけてきた。


「あ、お疲れさまです」


「今日早く終わったから、コーヒーでも飲む?」


「え、いいんですか?」


「たまには息抜きしなさい。童貞君」


「ど、童貞って言わないでください!」


 美由紀さんは笑いながら自販機でコーヒーを買ってくれた。28歳の大人の女性から童貞呼ばわりされるのは、なかなかに恥ずかしい。


「学校の彼女、どうなの?」


「彼女じゃないですよ。ただの友達です」


「ふーん。でも気になってるんでしょ?」


(バレてる...)


「い、いや、そんなことは...」


「男の子って分かりやすいのよねー」


 美由紀さんにからかわれながら、俺はコーヒーをすすった。雫のことを考えると、確かに最近胸がソワソワする。これって恋なのかな...


 バイト終わって家に帰ると、LINEにメッセージが来てた。


『けーちゃん、明日ちょっと相談があるの。お時間ある? 恵』


 恵ちゃんから?珍しい。普段は翔ちゃんや圭吾とばっかり話してるのに。


『大丈夫っすよ。どこで会います?』


『学校の近くのカフェでどうかな?放課後に』


『了解です』


 翌日の放課後、約束のカフェで恵ちゃんを待ってた。しばらくすると、いつものワンピース姿でやってきた。相変わらず胸元がすごいことになってて、目のやり場に困る。


「けーちゃん、お疲れさま〜」


「あ、お疲れさまです」


 恵ちゃんは俺の向かいに座った。ワンピースの胸元から谷間がチラチラ見えて、俺は必死に視線を逸らした。


「何か飲み物頼む?」


「コーヒーで大丈夫よ〜」


 俺がウェイトレスさんを呼ぼうとした時、恵ちゃんが突然言った。


「あ、やっぱりドデカパフェにしよ!」


「え?」


「このお店の名物でしょ?せっかくだし〜」


 ウェイトレスさんがやってきた。あ、この人雫と来た時と同じ人だ。


「ご注文は?」


「ドデカパフェ1つとコーヒー1つお願いします」


 ウェイトレスさんが俺の顔をじーっと見つめる。


「...あ、この前も来てましたよね?」


「あ、はい」


「確か、ポニーテールの女の子と一緒に」


「え、ええ...」


 ウェイトレスさんの視線が恵ちゃんに移る。そして俺を見て、明らかに冷たい表情になった。


「...かしこまりました」


 うわ、完全に睨まれてる。浮気男認定されてる。


 恵ちゃんは気づいてないのか、相変わらずニコニコしてる。


「ドデカパフェ楽しみ〜」


(やべぇ、ウェイトレスさんに完全に誤解されてる...)


 コーヒーが運ばれてきた時も、ウェイトレスさんの視線が痛い。


「お待たせしました」


 声のトーンが明らかに冷たい。ドデカパフェを置く時も、ちょっと乱暴だった。


(俺、なんか悪いことしてる気分になってきた...)


「それで、相談って?」


「実はね...」


 恵ちゃんは少し困ったような顔をした。


「こないの...」


「え?」


「あ、ごめん。『来ないの』って意味よ。生理が」


 ブホッ!


 俺は思わず水を噴き出しそうになった。


「え、え、えええ???」


 その時、ウェイトレスさんがドデカパフェとコーヒーを持ってやってきた。


「お待たせしました」


 声のトーンが明らかに冷たい。ドデカパフェを置く時も、ちょっと乱暴だった。


 恵ちゃんは相変わらず気づかず、パフェを見て目を輝かせてる。


「わぁ〜、大きい〜!」


「もう1週間も遅れてるの。どうしよう...」


 恵ちゃんがパフェを食べながら真剣な顔で俺を見つめてくる。


(ちょ、ちょっと待て。なんで俺にそんな話を???)


「あ、あの、恵ちゃん...それって俺に相談することなの?」


「だって、けーちゃんって優しいし、真面目だから相談しやすいの」


 優しいって言われるのは嬉しいけど、この相談内容はヤバすぎる。


「でも、そういうのって女友達に相談した方が...」


「雫ちゃんたちには言いづらいのよ〜。みんな真面目だから」


(俺だって真面目だよ!というか童貞だよ!)


「それで...もしかして妊娠の可能性が?」


「うん...可能性はあるかも」


 恵ちゃんはあっけらかんとした表情で言った。


(この人、なんでそんなに平然としてるんだ?)


「あの...お相手は?」


「最近だと翔くんと圭吾くんかなー」


「は???両方???」


「うん。先月あたりに」


 俺の脳みそがフリーズした。翔ちゃんと圭吾、両方と?この人マジで天然なのか?


「あ、でも田崎くんとも...」


「田崎も!?」


「うん。田崎くんが落ち込んでたから、慰めてあげたの」


(慰め方がそれって...)


 俺は完全に混乱した。恵ちゃんの恋愛事情、複雑すぎる。


「それで、けーちゃんはどう思う?」


「ど、どうって言われても...」


「妊娠してたらどうしよう?」


 恵ちゃんが不安そうな顔をしてる。確かにこれは大問題だ。


「とりあえず、検査薬で調べてみた方がいいんじゃない?」


「そうよね。でも一人で買うのは恥ずかしいの」


「え?」


「けーちゃん、一緒に来てくれる?」


「えええええ?俺が???」


「お願い!」


 恵ちゃんが上目遣いで俺を見つめる。その瞬間、理性が吹っ飛びそうになった。


(やべぇ、この人可愛すぎる...)


「わ、分かりました」


 なぜか承諾してしまった俺。童貞の悲しい性である。


「ありがとう〜!けーちゃんって本当に優しいのね」


 恵ちゃんは嬉しそうに微笑んで、ドデカパフェをスプーンでつついた。


「このパフェ美味しい〜。ごちそうさま!」


「え?」


「お会計お願いします♪」


(ちょっと待て、いつの間に俺が払うことになってるんだ???)


 でも恵ちゃんの笑顔を見てると、なぜか断れない。雫の時と同じパターンじゃないか。


「は、はい...」


(俺、また奢らされてる...)


 結局俺たちは、駅前のドラッグストアに向かった。恵ちゃんと一緒に妊娠検査薬を買いに行く18歳童貞。シチュエーションがカオスすぎる。


「あの...恵ちゃん」


「なあに?」


「俺が一緒にいて、変に誤解されない?」


「大丈夫よ〜。けーちゃんは私の大事な友達だもの」


 友達か...なんか複雑だ。


 ドラッグストアに着くと、恵ちゃんは迷わず妊娠検査薬コーナーに向かった。俺は周りの視線が気になって仕方ない。


「どれがいいかしら?」


「し、知らないよ...」


「店員さんに聞いてみる?」


「やめて!」


 恵ちゃんは何個か手に取って比較検討してる。俺はもう恥ずかしくて死にそうだった。


「これにするわ」


 レジで会計する時、店員のおばちゃんが俺たちを見て微笑んだ。


「お若いのに大変ね」


(違うんです!俺じゃないんです!)


 心の中で必死に叫んだが、もちろん声には出せない。


 会計を済ませて外に出ると、恵ちゃんが俺の腕に抱きついてきた。


「けーちゃん、ありがとう!」


 柔らかい胸が俺の腕に当たって、心臓が爆発しそうになった。


「あ、あの、恵ちゃん...」


「なに?」


「検査、いつするの?」


「今から家でするわ。結果出たら連絡するね」


「そ、そうですか...」


 恵ちゃんと別れて家に帰る途中、俺は自分の状況を整理してみた。


 ・翔ちゃんと圭吾と田崎と関係のある恵ちゃん

 ・その恵ちゃんの妊娠騒動に巻き込まれた俺

 ・しかも一緒に検査薬を買いに行った俺


(俺、何してるんだ...)


 家に着いてスマホを見ると、雫からLINEが来てた。


『けーちゃん、今日恵ちゃんと一緒にいたでしょ?』


 うわ、バレてる。


『あ、ちょっと相談されて...』


『何の相談?』


(これは言えない...)


『えーっと、勉強の相談です』


『ふーん。恵ちゃん、けーちゃんを頼りにしてるのね』


 なんか雫の文面が少し冷たい気がする。まさか嫉妬?


『別に大したことじゃないよ』


『そっか。お疲れさま』


 雫とのやり取りが終わって、しばらくしてから恵ちゃんからLINEが来た。


『けーちゃん、陰性だったよ〜!』


 ホッとした。でも同時に、ちょっと複雑な気分でもあった。


『よかったですね』


『本当にありがとう!今度お礼するからね』


『いえいえ、気にしないでください』


『けーちゃんって本当にいい人〜。誰かさんとは大違い』


 誰かさんって、翔ちゃんや圭吾のことかな。確かに、もし俺が恵ちゃんと関係を持ってて妊娠の可能性があったら、もっとパニックになってると思う。


 でも恵ちゃんは、なんであんなに平然としてるんだろう。恋愛に対する考え方が、俺とは全然違う。


 翌日、学校で翔ちゃんと圭吾に会った。


「よお、けーちゃん。昨日恵ちゃんと一緒だったんだって?」


 圭吾がニヤニヤしながら言った。


「え、なんで知ってるの?」


「恵ちゃんから聞いたよ。『けーちゃんに相談に乗ってもらった』って」


「相談?何の?」


 翔ちゃんも興味深そうに聞いてくる。


「いや、大したことじゃないよ」


「へぇ〜。恵ちゃん、最近けーちゃんを頼りにしてるよね」


 圭吾の言葉に、翔ちゃんが少し複雑な表情をした。


「まあ、恵は誰にでも親しくするからな」


「そうそう。でも、けーちゃんには特別優しいかも」


(特別って...まさか俺のこと気になってるってこと?)


 そんなわけないよな。俺は童貞だし、恋愛経験ゼロだし。恵ちゃんみたいな美人が俺なんかを...


「けーちゃん、顔赤いぞ?」


「え、そんなことないよ」


「恵ちゃんのこと考えてたんじゃない?」


 圭吾の指摘に、俺は慌てて否定した。


「考えてないよ!」


「まあ、恵はちょっと...」


 翔ちゃんが何か言いかけて止めた。


「ちょっと何?」


「いや、何でもない」


 翔ちゃんの歯切れが悪い。何か言いたそうだったけど、結局何も言わなかった。


 昼休み、俺は屋上でタバコを吸ってた。すると恵ちゃんがやってきた。


「けーちゃん、いた〜」


「あ、恵ちゃん。お疲れさま」


「昨日は本当にありがとう。おかげで安心したわ」


「いえいえ」


 恵ちゃんは俺の隣に座った。相変わらずワンピースの胸元がすごいことになってて、目のやり場に困る。


「ねえ、けーちゃん」


「なに?」


「私のこと、どう思う?」


 突然の質問に、俺はタバコを落としそうになった。


「え、どうって...」


「翔くんや圭吾くんは、私のこと軽い女だと思ってるみたい」


 恵ちゃんの声が少し寂しそうだった。


「そんなことないと思うけど...」


「でも、けーちゃんは違うよね。私を責めたりしない」


 恵ちゃんが俺を見つめてくる。その瞳に、何か複雑な感情が揺れてるのが見えた。


「俺は...恵ちゃんがどんな人であっても、友達だから」


「友達...」


 恵ちゃんは小さくつぶやいた。


「けーちゃんは優しいのね。でも、それだけかしら?」


「え?」


「私、けーちゃんともっと仲良くなりたいの」


 恵ちゃんが俺に身を寄せてきた。甘い香水の匂いがして、頭がクラクラする。


「あ、あの、恵ちゃん...」


「けーちゃんは、私みたいな女の子は嫌い?」


「嫌いじゃないけど...」


「じゃあ、私とも...」


 その時、屋上のドアが開いて雫が現れた。


「あ...」


 雫は俺と恵ちゃんの距離の近さに気づいて、明らかに動揺した。


「あ、雫ちゃん」


 恵ちゃんは何事もなかったように立ち上がった。


「邪魔しちゃったかしら?」


「いや、別に...」


 俺は慌てて立ち上がった。雫の表情が何だか冷たい。


「そう。じゃあ、私は教室に戻るわね」


 恵ちゃんはそう言って去っていった。残された俺と雫の間に、気まずい空気が流れた。


「雫...」


「別に何も言わないわよ。けーちゃんが誰と仲良くしようと自由だし」


 雫の声が明らかにトゲトゲしい。


「いや、違うんだ。恵ちゃんは...」


「もういいの。私も教室に戻る」


 雫はそう言って、俺を置いて去っていった。


(あー、完全に誤解されてる...)


 でも、恵ちゃんが俺に何を言おうとしてたのかも気になる。まさか、俺のことを...


(いやいや、そんなわけない)


 俺は頭を振って、そんな考えを打ち消した。恵ちゃんみたいな美人が、俺みたいな童貞を相手にするわけがない。


 でも、胸の奥に小さな期待があるのも事実だった。理想の巨乳スリム体型の恵ちゃんが、もし俺のことを...


(だめだめ、そんなこと考えちゃ)


 俺は残りのタバコを吸い終えて、複雑な気持ちで教室に戻った。


 放課後、俺は恵ちゃんに呼び止められた。


「けーちゃん、さっきはごめんなさい」


「え?」


「雫ちゃんに誤解されちゃったよね」


「まあ、ちょっと...」


「私、けーちゃんを困らせるつもりじゃなかったの」


 恵ちゃんは申し訳なさそうな顔をしてる。


「いいよ、気にしないで」


「でも、私の気持ちは本当なの」


「気持ち?」


「けーちゃんのこと、素敵だなって思ってる」


 恵ちゃんが真剣な顔で俺を見つめる。


「俺なんか...」


「翔くんや圭吾くんは、私の体しか見てない。でも、けーちゃんは違う」


「恵ちゃん...」


「私のことも、ちょっとは気になる?」


 俺は答えに困った。確かに恵ちゃんは魅力的だし、理想の体型だ。でも、雫のことを考えると...


「恵ちゃんは魅力的だと思うよ。でも、俺には...」


「雫ちゃんがいるから?」


「いや、雫とは...」


「まだ付き合ってないんでしょ?」


 恵ちゃんの指摘に、俺は言葉に詰まった。


「だったら、私にもチャンスはあるよね?」


 恵ちゃんが俺の手を取った。柔らかくて温かい手だった。


「あ、あの...」


「考えておいて。私、本気だから」


 恵ちゃんはそう言って、俺の頬にキスをして去っていった。


 俺は頬を押さえながら、その場に立ち尽くした。


(え、え、え?今何が起こった???)


 頬がまだ温かい。恵ちゃんの唇の感触が残ってる。


(恵ちゃんが俺に...本気って...)


 理想の体型の美女から告白された。童貞の俺には信じられない出来事だった。


 でも、心の奥で雫の顔が浮かんでくる。昼休みの時の、冷たい表情の雫。


(俺、どうすればいいんだ...)


 家に帰っても、恵ちゃんのことが頭から離れなかった。理想と現実の間で、俺の心は揺れ動いていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ