第3章 第5話 - 麗華の海の家招待
美香との一件から数日後、夏の暑さは一段と厳しくなっていた。
エアコンの効いた教室でも、外から伝わってくる熱気で皆うんざりしている。
「暑い...もう無理...」
雫が机に突っ伏している。
「本当だよな。まだ7月中旬なのに、この暑さって異常だろ」
俺も扇子で風を送りながら答える。
「そうそう!こんな日は海に行きたいよね!」
美香が突然立ち上がった。
「海!」
雫の目がキラリと光る。
「海いいね!泳ぎたい!」
「私も海行きたい!」
女子たちが一斉に盛り上がり始めた。
「でも海って、どこに行けばいいんだろう?」
恵が首をかしげる。
「電車で1時間くらいのところにビーチあるよね」
翔が言う。
「でも混んでそうだなぁ」
圭吾が難しい顔をする。
そんな盛り上がりを、麗華が上品に聞いていた。
「あの...」
麗華がおずおずと手を上げる。
「何?麗華ちゃん」
雫が振り返る。
「うちの別宅が海のそばにありますの。もしよろしければ、皆さん泊まりに来ませんか?」
麗華の提案に、教室が一瞬静まり返った。
「え?」
「別宅って...」
「海のそば?」
みんなが麗華を見つめる。
「はい。伊豆の方に小さな別荘がございまして、プライベートビーチもありますの」
麗華が少し恥ずかしそうに説明する。
「プライベートビーチ!?」
美香が目を輝かせる。
「それってすごくない?」
雫も興奮している。
「プライベートビーチって...テレビでしか見たことない」
圭吾が呟く。
「俺たちが行っていいレベルじゃないだろ」
翔も困惑してる。
「でも、お金とか...」
俺が心配になって言いかけると、麗華が首を振る。
「お金のことは気になさらず。父が『友達を呼びなさい』とよく言っておりますし」
「本当に?」
恵が確認する。
「はい。むしろ、一人で過ごすより皆さんと一緒の方が楽しそうですの」
麗華が微笑む。
「やったー!」
「海だ海だ!」
「プライベートビーチだって!」
教室が一気にお祭り騒ぎになった。
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「でも泊まりって、いつ頃?」
翔が現実的な質問をする。
「来週の土日はいかがでしょうか?一泊二日で」
麗華が提案する。
「土日か...バイトあるなぁ」
俺が困った顔をする。
「けーちゃん、バイト休めない?」
雫が上目遣いで見てくる。
「うーん...」
俺が悩んでいると、麗華が口を開いた。
「お金は気になさらず。こちらで、すべて手配しますから」
「いや、でもそれは...」
「お願いします」
麗華が深々と頭を下げる。
「麗華...」
麗華の真剣な様子に、俺は驚いた。普段の上品で控えめな麗華とは違って、とても切実に見えた。
「分かった。バイト、休めるか頼んでみる」
「本当ですか?」
麗華の顔がパッと明るくなる。
「ありがとうございます!」
「麗華ちゃん、嬉しそう」
雫が微笑む。
「はい、とても楽しみですの」
麗華が嬉しそうに答える。
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放課後、俺は大型リサイクルショップで美由紀リーダーに相談していた。
「海?別荘?」
美由紀リーダーが興味深そうに聞く。
「はい。クラスの友達のお嬢様の別荘に泊まりで」
「あらあら、モテモテじゃない♪」
美由紀リーダーがニヤニヤする。
「そういうんじゃないです」
「でも女の子の水着姿が見られるのよね?」
「そ、そういう下心で行くわけじゃ...」
「嘘つき。男の子なんてそんなものよ」
美由紀リーダーが笑う。
「とりあえず、土日のバイト代わってもらえませんか?」
「いいわよ。青春よ青春!」
美由紀リーダーが快く了承してくれた。
「ありがとうございます」
「でも気をつけなさいよ。海って開放的になりがちだから、避妊だけはちゃんとするのよ!」
「は、はい...」
美由紀リーダーの言葉に、俺の顔が赤くなる。
「それといつもの渡すから、必要なら使いなさい」
また段ボールでコンドームを渡された。前にもらったのもまったく使って無いんだよな・・・
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翌日、学校ではみんな海の話で持ちきりだった。
「水着どうしよう」
「日焼け止め買わなきゃ」
「別荘って食事はどうなるの?」
女子たちが相談している。
「食事もご用意いたしますの。シェフがおりますから」
麗華がさらりと言う。
「シェフ!?」
「どんな別荘なの...」
みんなが驚いている。
「そんなに大げさなものではございませんよ」
麗華が謙遜するけれど、みんなの驚きは収まらない。
「麗華ちゃんって、本当にお嬢様なんだね」
雫が感心している。
「恥ずかしいですの...」
麗華が頬を染める。
「麗華ちゃんの『大げさじゃない』の基準がわからない」
俺が苦笑いする。
「だって私たちの『小さな家』とは違うレベルだもん」
美香も笑ってる。
「でも楽しみ!みんなで海なんて初めて」
美香がはしゃいでいる。
「そうだね。楽しみだな」
俺も本当にそう思った。
でも同時に、水着姿の女子たちのことを考えると、ドキドキしてしまう。
美由紀リーダーの言葉通り、俺も男なんだなと実感する。
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当日の朝、俺たちは駅で待ち合わせをした。
「おはよう!」
「おはよう」
みんな大きなバッグを持って集合している。
「麗華ちゃんは?」
雫が辺りを見回す。
「あ、来た来た」
翔が指差す方向を見ると、麗華が現れた。
「皆さん、お待たせいたしました」
麗華が上品に挨拶する。
「おはよう、麗華ちゃん」
「電車で行くんだよね?」
美香が確認する。
「はい。伊豆まで特急で2時間ほどですの」
麗華が答える。
「2時間かぁ、結構遠いんだね」
恵が言う。
「でも電車の旅も楽しそう」
雫が嬉しそうに言う。
「指定席を取っておりますので、ゆっくりしていただけます」
麗華が言うと、みんなで改札へ向かった。
「グリーン車!?」
圭吾が驚く。
「ちょっと奮発いたしました」
麗華が少し照れながら答える。
「圭吾、口開いてるぞ」
翔がツッコむ。
「俺、生まれて初めてグリーン車乗る...」
圭吾が感動で泣きそうになってる。
「写真撮っていい?親に見せたいんだ」
圭吾がスマホを取り出す。
「何撮るんだよ」
「座席!この高級そうなシート!」
圭吾が興奮してシートを撫でてる。
「なんかすごいことになってきた」
圭吾が小声で呟く。
「本当だな。俺たちの身分じゃグリーン車なんて...」
俺も同感だった。
「おしぼりまで違うじゃん!」
圭吾がおしぼりを大事そうに眺めてる。
「おしぼりって何だよ」
翔がツッコむ。
「湿ったタオルだよ!グリーン車に付いてたんだ!」
圭吾が大事そうにタオルを抱えてる。
「そんなもんかよ」
俺も呑れた。
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電車は快適に海に向かって走っていく。
「景色きれい」
雫が窓の外を見ている。
「もうすぐ着きますよ」
麗華が言う。
「楽しみだなぁ」
恵がウキウキしている。
電車が海沿いの路線に入ると、美しい海岸線が見えてきた。
「うわぁ、海だ!」
美香が歓声を上げる。
「きれい...」
雫も見とれている。
やがて電車は伊豆の駅に到着した。
「着きましたね」
麗華が立ち上がる。
「駅からはどうするの?」
翔が聞く。
「お迎えが来ておりますの」
麗華が答えると、改札を出たところに黒いスーツを着た男性が立っていた。
「お疲れ様でした、お嬢様」
「田中さん、ありがとうございます。こちら、学校のお友達です」
麗華がみんなを紹介する。
「田中と申します。白川家でお世話になっております」
田中さんが丁寧に挨拶する。
「お車をご用意しております」
駅前に大型のバンが停まっているのが見えた。
「おお、大きい車だ」
「みんなで乗れそうだね」
みんなが安心したような声を上げる。
「恐縮ですが、荷物をお預かりいたします」
田中さんがてきぱきと荷物を車に積み込む。
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車で別荘に向かう途中、さらに美しい海岸線が見えてきた。
「電車からも綺麗だったけど、ここはもっと綺麗」
雫が感動している。
「プライベート感があるね」
翔も景色に見入っている。
やがて車は立派な門構えの別荘に到着した。
「着きましたよ」
田中さんが車を停める。
「ここが麗華ちゃんの別荘?」
雫が信じられないという顔をしている。
「はい。小さな家ですが」
麗華が謙遜するけれど、どう見ても小さくない。
立派な洋館で、目の前には本当にプライベートビーチが広がっている。
「すごい...」
「まるでホテルみたい」
みんなが圧倒されている。
「小さな家って...うちのマンションより大きいんじゃないか」
圭吾が呟く。
「俺のアパートの10倍はありそうだな」
翔も驚いてる。
「麗華ちゃんの『小さな』の基準がよくわからない」
俺も困惑してる。
「さあ、中へどうぞ」
麗華が案内してくれる。
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別荘の中はさらに豪華だった。
「お疲れ様でした、お嬢様」
別荘にはメイドさんやシェフまでいた。
「ただいま帰りました。こちら、学校のお友達です」
麗華がみんなを紹介する。
「初めまして。白川家でお世話になっております、山田と申します」
シェフが挨拶してくれる。
「よろしくお願いします」
俺たちも慌てて挨拶する。
「お部屋の方はご用意させていただきました」
メイドさんが案内してくれる。
「男性の方はこちら、女性の方はこちらでございます」
それぞれ別の棟に案内される。
「すげー、一人一部屋だ」
圭吾が驚いている。
「ベッドでけぇ!俺の部屋全部入りそう」
圭吾がベッドに飛び込む。
「圭吾、はしゃぎすぎだろ」
翔が苦笑いしてる。
「でも気持ちはわかる。この部屋、俺のアパートより設備いいもん」
俺もベッドの豪華さに驚いてる。
「本当にお嬢様だったんだな」
翔も感心している。
「でも麗華、なんで俺たちなんかを」
俺が疑問に思って呟く。
「友達だからだろ」
翔が答える。
「そうだけど...」
でも俺には、麗華の表情に何か特別なものを感じていた。
単なる友達としての招待以上の、何かがあるような気がした。
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昼食後、いよいよ海に入ることになった。
「着替えてきます」
女子たちが先に自分の部屋へ向かう。
「俺たちも着替えよう」
男子も自分の部屋で海パンに着替える。
「楽しみだなぁ」
圭吾がにやにやしている。
「何考えてるんだ」
翔が呆れている。
「いや、だって水着姿が...」
「お前なぁ」
俺も苦笑いする。
でも正直、俺も楽しみだった。
特に雫の水着姿。どんな感じなんだろう。
着替えを済ませてビーチに出ると、女子たちはまだ部屋にいた。
「遅いな」
「女の子は時間かかるからな」
男子だけで先に海を眺めていると、ようやく女子たちが現れた。
「お待たせ!」
最初に現れたのは恵だった。
赤いビキニがとても映えている。さすがダイナマイトボディ、迫力がすごい。
「うわぁ...」
圭吾が見とれている。
「圭吾、鼻血出てるぞ」
翔が慌てて指摘する。
「え!?マジで!?」
圭吾が慌てて鼻を押さえる。
「ティッシュ、ティッシュ!」
俺も慌てて探してる。
続いて美香が現れた。
ピンクの可愛いビキニで、小柄な体型がとても愛らしい。
「美香、可愛い」
翔が素直に褒める。
「えへへ、ありがとう」
美香が嬉しそうに笑う。
そして雫が現れた。
水色のビキニを着た雫を見て、俺の心臓が止まりそうになった。
普段は隠れている雫の体のラインが、はっきりと見える。
確かに胸は小さいけれど、引き締まった体つきがとても美しい。そして何より、雫のふとももがボリューミーで、陸上部で鍛えられた健康的な太さが魅力的だった。
目が離せない。
「雫...」
俺が見とれていると、雫が恥ずかしそうに俯く。
「そんなに見ないでよ」
「あ、ごめん」
俺が慌てて視線を逸らそうとするが、どうしても雫のふとももに目が行ってしまう。
最後に麗華が現れた。
白いビキニを着た麗華は、まさにモデルのようだった。
高身長で抜群のスタイル、そして上品な美しさ。
「すげー...」
圭吾が呟く。
「麗華、綺麗だな」
翔も感心している。
「あれ?圭吾、また鼻血出てない?」
俺が心配になる。
「大丈夫!もう慣れた!」
圭吾が鼻にティッシュを詰めながら答える。
「慣れるなよ」
翔がツッコむ。
でも麗華は少し恥ずかしそうにしている。
「皆さん、どうぞごゆっくり」
「ありがとう、麗華」
俺が答える。
麗華が俺を見つめる視線に、何か特別なものを感じた。
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海ではみんなで楽しく過ごした。
ビーチバレーをしたり、海に入って泳いだり。
「けーちゃん、泳ぎ上手だね」
雫が感心している。
「昔水泳部だったからな」
「そうなんだ」
雫が嬉しそうに笑う。
「雫も上手じゃないか」
「陸上部だったから、体力だけは」
二人で並んで泳いでいると、とても気持ちが良かった。
「うわあああああ!」
突然圭吾の叫び声が聞こえる。
「どうした?」
俺が振り返ると、圭吾が浮き輪にしがみついて必死に泳いでる。
「泳げないの忘れてた!」
「今さらかよ!」
翔が慌てて救助に向かう。
一方で、麗華は少し離れたところから俺たちを見ている。
「麗華も一緒に泳ごうよ」
俺が声をかけると、麗華は嬉しそうに近づいてきた。
「ありがとうございます」
三人で泳いでいると、麗華が俺に話しかけてきた。
「けーちゃんは、どちらの海がお好みですか?」
「どちらって?」
「静かな海と、賑やかな海と」
麗華の質問に、俺は考える。
「どっちも好きだけど、今日みたいに友達と一緒の海が一番好きかな」
俺の答えに、麗華が微笑む。
「そうですね。私も今日が一番楽しいです」
麗華の笑顔を見て、俺はドキッとした。
普段の上品な麗華とは違って、とても自然で可愛らしい笑顔だった。
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夕方、ビーチでバーベキューをすることになった。
シェフが用意してくれた豪華な食材に、みんな大興奮。
「すごい肉だ」
「海老もある」
「これ、高級食材ばっかりじゃない?」
「麗華ちゃん、ありがとう」
雫が感謝の気持ちを伝える。
「いえいえ、皆さんに楽しんでいただけて嬉しいです」
麗華が嬉しそうに答える。
「この肉、俺の1週間分のバイト代より高そうだな」
圭吾が肉を大事そうに眺めてる。
「圭吾、そんなこと言うなよ」
翔が苦笑いしてる。
「でも本当にすごいよね。シェフが焼いてくれるし」
俺も感心してる。
バーベキューを楽しんでいると、夕日が海に沈み始めた。
「きれい...」
雫が見とれている。
「本当だな」
俺も夕日を見ながら答える。
「こんな夕日、初めて見るかも」
美香が感動している。
「毎日見てても飽きませんの」
麗華が言う。
「羨ましいな」
恵が羨ましそうに言う。
「皆さんも、また来てくださいね」
麗華が真剣な表情で言う。
「本当に?」
「はい。とても楽しいです」
麗華の言葉に、みんなが嬉しそうにする。
でも俺には、麗華の言葉に特別な意味があるような気がした。
特に俺に対する視線が、何か訴えかけているような。
---
夜、部屋で休んでいると、麗華がやってきた。
「けーちゃん、少しお話しできますか?」
「ああ、もちろん」
俺は麗華について、別荘の庭に出た。
海を見ながら、麗華が口を開く。
「今日は楽しかったです」
「俺も。招待してくれてありがとう」
「いえ...実は」
麗華が言いかけて止まる。
「実は?」
「私、あまり友達がいなくて」
麗華が寂しそうに言う。
「え?」
「男の方が苦手だし、女の方も...私のことを『お嬢様』って距離を置かれることが多くて」
麗華の告白に、俺は驚いた。
「でも圭吾なんて、鼻血出すほど喜んでたよ」
俺が苦笑いしながら言う。
「あれは...距離を置かれてるというより、違う意味で...」
麗華が困ったような笑顔を浮かべる。
「でも皆さんは違います。特にけーちゃんは」
「俺?」
「普通に接してくださるでしょう?特別扱いしないで」
麗華が俺を見つめる。
「そうかな」
「だから...」
麗華が何か言いかけた時、雫の声が聞こえた。
「けーちゃん?」
雫が庭に現れた。
「あ、雫」
「麗華ちゃんも一緒だったんだ」
雫が安心したような顔をする。
「はい。少しお話を」
麗華が上品に答える。
「そうなんだ。じゃあ私も混ぜて」
雫が近づいてくる。
「もちろんです」
三人で海を見ながら話していると、麗華が言った。
「明日の朝も海に入りましょうね」
「うん、楽しみ」
雫が答える。
でも俺には、麗華の本当に言いたかったことが途中で終わってしまった気がした。
麗華は俺に何を伝えようとしていたのだろう。
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その夜、俺は自分の部屋でなかなか眠れずにいた。
今日一日のことを振り返ると、色々なことがあった。
麗華の豪華な別荘、みんなの水着姿、特に雫のふとももの魅力に見とれてしまったこと。
そして麗華の意外な一面と、何か言いたそうにしていた表情。
「複雑だな...」
俺がベッドの上で天井を見上げていると、隣の部屋から変な音が聞こえてくる。
「うーん、うーん」
圭吾の声だ。
「何してるんだ、あいつ」
俺が気になってると、ドアがノックされた。
「はい」
「けーちゃん、起きてる?」
雫の声だった。
「ああ、起きてるよ」
「ちょっと話したいことがあるんだけど...」
俺はドアを開けた。雫が短パン姿で立っている。
「どうした?」
「少し散歩しない?眠れなくて」
「ああ、いいよ」
俺も部屋着のまま、雫と一緒に別荘の庭に出た。
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夜の海は昼間とは全然違って見えた。
月明かりに照らされた波が、ゆっくりと砂浜に打ち寄せている。
「きれいだね」
雫が海を見ながら言う。
「本当だな」
俺も海を眺める。
「今日は楽しかった」
雫が言う。
「俺も。麗華の別荘、すごかったな」
「うん。でも...」
雫が言いかけて止まる。
「でも?」
「麗華ちゃん、けーちゃんのこと...」
雫がもじもじしている。
「何?」
「好きなんじゃないかなって思う」
雫の言葉に、俺はドキッとした。
「え?」
「女の子の勘っていうか...麗華ちゃん、けーちゃんを見る目が特別だもん」
雫が少し寂しそうに言う。
「そんなことないだろ」
「でもさっき、二人で話してたでしょ?」
雫が俺を見つめる。
「ああ...ちょっとな」
「何の話?」
雫が気になるという顔をする。
「友達のことで悩んでるって」
「そう...」
雫が納得していない様子だった。
---
「雫」
俺が雫の名前を呼ぶ。
「何?」
「俺は雫が一番だから」
俺がはっきりと言うと、雫の顔がぱっと明るくなった。
「本当?」
「本当だよ。夏祭りの時も言ったじゃないか」
「うん...でも、心配になっちゃって」
雫が正直に答える。
「心配しなくていいよ。俺の気持ちは変わらない」
「ありがとう、けーちゃん」
雫が嬉しそうに笑う。
「でも麗華ちゃんも可愛いよね」
雫が急に言う。
「え?」
「水着姿、すごく綺麗だった。モデルみたい」
雫が素直に言う。
「まあ、綺麗だとは思うけど」
「けーちゃんも見とれてたでしょ?」
雫がじっと俺を見る。
「い、いや...」
「嘘つき。男の子なんだから当然よ」
雫が苦笑いする。
「でも俺が一番見とれてたのは雫だよ」
俺が本心を言うと、雫の顔が真っ赤になった。
「も、もう...恥ずかしいこと言わないでよ」
「でも本当だから」
「...ありがとう」
雫が小さく答える。
---
二人で海を見ながら歩いていると、別荘の方から人影が見えた。
「あれ?誰かいる」
雫が指差す。
よく見ると、麗華が一人でテラスに立っている。
「麗華ちゃん?」
雫が声をかけると、麗華が振り返った。
「あら、お二人とも」
麗華が驚いたような顔をする。
「眠れないの?」
雫が心配そうに聞く。
「はい...少し考え事をしていて」
麗華が答える。
「私たちも眠れなくて散歩してたの」
雫が説明する。
「そうでしたの。お邪魔でしたね」
麗華が申し訳なさそうに言う。
「そんなことないよ。一緒にいよう」
雫が優しく言う。
「ありがとうございます」
麗華が嬉しそうに答える。
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三人でテラスに座って海を眺めていると、麗華が口を開いた。
「私、こんなに楽しい夜は初めてですの」
「本当?」
雫が驚く。
「はい。いつもは一人でしたから」
麗華が寂しそうに言う。
「寂しくなかった?」
雫が心配そうに聞く。
「慣れていましたので...でも今日、皆さんと過ごして気づきました」
麗華が俺たちを見る。
「何に?」
俺が聞く。
「友達がいるって、こんなに幸せなことなんですね」
麗華の言葉に、俺と雫は胸が温かくなった。
「麗華ちゃん...」
雫が感動している。
「私たちも友達でいてくれて嬉しいよ」
俺が素直に答える。
「ありがとうございます」
麗華が涙ぐんでいる。
「今度は私たちの家にも遊びに来てよ」
雫が提案する。
「本当ですか?」
「もちろん!」
雫が元気よく答える。
「ありがとうございます。ぜひお伺いします」
麗華が嬉しそうに答える。
---
その時、別荘の中から声が聞こえた。
「あー、みんなどこ行った?」
恵の声だった。
「ここにいるよー」
雫が手を振る。
すぐに恵、美香、翔、圭吾がテラスにやってきた。
「あ、いたいた」
美香が安心している。
「みんな眠れないの?」
恵が聞く。
「夜の海が綺麗で」
麗華が答える。
「本当だ、すごく綺麗」
翔が感心している。
「せっかくだから、みんなで夜の海を楽しもうよ」
圭吾が提案する。
「いいね!」
美香が賛成する。
みんなで海辺に降りて、夜の海を満喫した。
波の音を聞きながら、みんなでおしゃべりしたり、星を見上げたり。
「明日帰っちゃうのが惜しいね」
美香が言う。
「本当だね」
雫も同感だった。
「また来てくださいね。いつでも歓迎いたします」
麗華が真剣に言う。
「本当に?」
「はい。今度は夏休み中にでも」
麗華の提案に、みんなが盛り上がった。
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翌朝、みんなで朝の海を楽しんだ後、別荘を後にすることになった。
「本当にありがとうございました」
俺たちが感謝の気持ちを伝える。
「こちらこそ、楽しい時間をありがとうございました」
麗華が深々と頭を下げる。
「また絶対来るからね」
雫が約束する。
「お待ちしております」
麗華が嬉しそうに答える。
駅まで田中さんに送ってもらい、電車に乗り込んだ。
「楽しかったね」
みんなが口々に言う。
「麗華ちゃんって、本当にいい子だよね」
雫が感心している。
「ああ、見た目は近寄りがたいけど、実はすごく優しくて寂しがり屋なんだな」
俺も同感だった。
「でも一番印象に残ったのは圭吾の鼻血かな」
翔がニヤニヤしてる。
「あれは仕方ないだろ!男なんだから!」
圭吾が必死に弁解してる。
「二回も出してたもんね」
雫が笑ってる。
でも同時に、麗華の俺への感情も少し気になっていた。
雫の言う通り、麗華は俺のことを特別に思っているのかもしれない。
でも俺の気持ちは決まっている。
雫が一番大切だ。
それは変わらない。
電車が街に向かって走っていく中、俺は窓の外の景色を眺めながら、静かにそう思った。