第3章 第3話 - 夏祭りの夜
ついに夏祭り当日がやってきた。
朝から暑くて、クーラーをガンガンにかけても汗が止まらない。こんな日に浴衣なんて着て大丈夫だろうか。まあ、女の子たちも同じ条件だし、気にしても仕方ないか。
「けーちゃん、お疲れ様!」
大型リサイクルショップのアダルトコーナーでのバイトが終わって外に出ると、美由紀リーダーが手を振ってる。
「お疲れ様でした。今日はありがとうございました」
「はいはい。それより、今日は祭りよね?女の子と行くの?」
「はい。まあ、みんなで行くことになったんですけど」
「みんなで?あらあら、大変ね」
美由紀リーダーがニヤニヤ笑っている。この人、絶対何か知ってるだろう。
「まあ、頑張りなさい。女の子の浴衣姿は特別よ?浴衣の下は下着つけないから、男の子はドキドキしちゃうのよね。心の準備しておきなさい」
「え!?下着つけないって、マジですか!?」
俺は思わず大声を出してしまった。通りすがりの人が振り返る。
「あらあら、知らなかったの?浴衣は伝統的にそういうものなのよ。特に今日みたいに暑い日はね」
美由紀リーダーがにやにやしながら続ける。
「だから男の子は浴衣の女の子を見ると、いつもよりドキドキしちゃうのよ。けーちゃんも気をつけなさいね」
「そ、そんなこと言われても...どうすればいいんですか!?」
俺の顔が真っ赤になっているのが自分でも分かる。これから雫たちの浴衣姿を見ることになるのに、そんなこと知ってしまったら...
「そうそう、これ」
美由紀リーダーが急に立ち止まって、車のトランクから段ボール箱を取り出した。
「何ですか、それ?」
「必要でしょ?」
美由紀リーダーがにっこり笑いながら段ボール箱を俺に押し付けてくる。
受け取って中を覗いてみると...
「うわああああ!!!」
俺は思わず大声を出してしまった。段ボール箱の中にコンドームがぎっしり詰まってる。
「び、美由紀さん!なんでこんなものを!?」
「あら、浴衣の女の子たちと夏祭りでしょ?備えあれば憂いなしよ」
美由紀リーダーがさらっと答える。
「で、でも俺そんなつもりじゃ...」
「男の子はみんなそう言うのよ。でも女の子の方から誘われることもあるからね」
「え?」
「特に浴衣の夜はロマンチックだから、何が起こるかわからないわよ」
美由紀リーダーがウインクする。
「と、とりあえず持って帰りますけど...前にもらったコンドームも一つも減ってないのに...」
俺は顔を真っ赤にしながら段ボール箱を抱えた。
「ふふふ、若いって良いわね。頑張って!」
美由紀リーダーは手を振りながら去っていく。
残された俺は、段ボール箱を抱えながら、これからの夏祭りが急に恐ろしくなってきた。
(この段ボール、どこに隠そう...)
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夕方、祭り会場で待ち合わせ。
俺は無難に白いTシャツに黒いパンツで来たんだけど、みんなの浴衣姿を見て完全に浮いてることに気づく。
「うわぁ...」
まず目に飛び込んできたのが雫の浴衣姿だ。
濃い青色の浴衣に白い帯、髪は普段のポニーテールじゃなくて、きちんとまとめ髪にしている。うちわを片手に持っていて、普段とは全然違う上品な雰囲気だ。
でも美由紀リーダーの言葉が頭をよぎる。浴衣の下は...本当に何も着けてないのか?いや、考えるな、考えるな!
「け、けーちゃん!」
雫が俺に気づいて手を振る。その仕草でさえ、浴衣だと何か特別に見えてしまう。
「お、雫、似合ってるじゃん」
「そ、そうかな?慣れないから歩きにくくて...」
雫が照れ笑いしながら答える。か、可愛すぎるだろ...
「けーちゃーん!」
美香の声で振り返ると、ピンクの浴衣を着た美香が小走りでやってくる。普段から可愛い美香だけど、浴衣だとさらに可愛さが増している。
小走りで揺れる浴衣の裾を見て、また例の話が頭に浮かぶ。ダメだ、美香のことでそんなこと考えちゃいけない!
「美香も似合ってるなぁ」
「えへへ、ありがとう!けーちゃんと一緒にお祭り回るの楽しみ♪」
美香がぺろっと舌を出してウインクする。うう、これは反則だ...
「あら、みなさんお疲れ様です」
上品な声で振り返ると、麗華が現れた。
深い紫の高級そうな浴衣に金の帯、髪飾りまで完璧にコーディネートされている。さすがお嬢様、格が違う。
でも麗華も...やっぱり?いやいや、お嬢様がそんなはずない。でも美由紀リーダーは「みんな」って言ってたよな...
「麗華、すごく綺麗じゃん」
「ありがとうございます。着付けに3時間かかりましたの」
3時間って...さすがだな。
「みんなー!」
恵の大きな声で全員の注目が集まる。
恵は赤い浴衣で、胸元が...いや、見てはいけない。でも浴衣だと普段以上に色っぽく見えてしまう。
恵のダイナマイトボディに浴衣って、これで下着つけてないって本当なのか?想像しただけで鼻血が出そうだ。
「恵、派手だなぁ」
「そう?もっと派手でも良かったかも♪」
恵がくるっと回って見せる。うう、目のやり場に困る...
「あの、皆さん」
雪の控えめな声。振り返ると、薄い緑色の浴衣を着た雪がおしとやかに立っている。普段の清楚なイメージにぴったりで、まさに大和撫子って感じだ。
清楚な雪まで...いや、雪は絶対そんなことないよな。でも浴衣の伝統って...
「雪も似合ってるじゃん」
「ありがとうございます...でも、歩きにくくて」
雪が困ったような笑顔を浮かべる。
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翔と圭吾もやってきて、みんな揃った。
「うわー、女子の浴衣姿やばくない?」
圭吾が興奮してる。
「ほんまやなぁ。みんな綺麗やん」
翔も感心してる。俺も同感や。
「じゃあ、行きましょうか!」
雫の提案でみんなで祭り会場に向かう。
でも歩いてる間、なんか変な雰囲気や。恵が俺の右側にぴったりくっついて歩いてるし、美香も左側から腕に絡んでくる。
「け、けーちゃん、腕組んでもいい?歩きにくいの」
美香が上目遣いで見上げてくる。
「あ、うん...」
美香の細い腕が俺の腕に絡む。柔らかくて、なんかドキドキする。
「あー、ずるい!私も!」
恵も反対側から腕を組んでくる。
「ちょ、ちょっと...」
俺、完全に両手に花状態じゃん。でも雫の方を見ると、何か複雑そうな表情している。
「...」
雫が無言で前を歩いている。やばい、これはまずい雰囲気だ。
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祭り会場に着くと、すごい人だった。
「すげー、すごい人がいるじゃん」
「夏祭りって感じだなぁ」
屋台がずらっと並んでいて、いい匂いがしている。
「何から食べる?」
翔が聞く。
「たこ焼き!」
「焼きそば!」
「かき氷!」
みんなでわいわい言いながら屋台を回る。でも俺はずっと雫のことが気になってた。
さっきから雫、俺と何か距離を置いている感じがする。美香や恵と一緒にいたからかな。
「雫、何か食べたいものある?」
俺が声をかけると、雫はちょっと驚いたような顔をする。
「え?あ、うん...りんご飴とかどうかな」
「おお、らしいな。買ってくるよ」
俺がりんご飴の屋台に向かうと、後ろから美香がついてくる。
「私も一緒に行く♪」
「あ、うん」
「りんご飴二つください」
俺が屋台のおじさんに声をかけた。
「はい、雫」
「ありがとう、けーちゃん」
雫が嬉しそうに微笑む。この笑顔が見たかったんだ。
「私のは?」
美香がじっと見てる。
「え?美香の分も買ったよ」
俺がもう一つのりんご飴を美香に渡すと、美香が嬉しそうに手を叩いた。
「やったー!ありがとう、けーちゃん♪」
(最初から二つ買っておいてよかった)
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みんなで屋台を回っていたら、いつの間にか俺と雫だけになっていた。
「あれ?みんなは?」
「翔くんと恵ちゃんは射的のコーナーに行ったし、圭吾くんはくじ引きにハマってるし、美香ちゃんと麗華ちゃんと雪ちゃんはかき氷食べに行った」
「そっか。じゃあ俺たちも何かしようか」
「うん」
雫と二人きりになると、何かほっとする。
「雫、浴衣似合ってるなぁ」
「そ、そうかな?けーちゃんにそう言ってもらえると嬉しい」
雫が照れながら答える。
「でも歩きにくそうだな」
「うん、普段と勝手が違うから」
雫が苦笑いする。
「無理しなくてもいいよ。疲れたら言って」
「ありがとう、けーちゃん」
雫が嬉しそうに笑う。やっぱり雫といると落ち着くな。
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二人で金魚すくいをしていたら、美香がやってきた。
「あ、見つけた!けーちゃん、雫ちゃん、何してるの?」
「金魚すくい。美香もやる?」
「うん、やりたい!」
美香が俺の隣にぴったりくっついて座る。
「けーちゃん、教えて♪」
美香が甘えるような声で言う。
「え、あ、うん...」
俺が教えていると、雫が何か不機嫌そうになっている。
「雫も一緒にやろうよ」
「...うん」
雫の返事が素っ気ない。
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その後も、恵や麗華が合流して、何かみんなで行動することになった。
翔と圭吾も戻ってきたけど、二人とも財布がペラペラになってる。
「翔ちゃん、どうしたの?」
雫が心配そうに聞いた。
「射的で散財した...恵に景品取ってあげようと思ったんだけど、全然当たらなくて」
翔がげんなりした顔をしてる。
「俺もくじ引きで50000円使っちゃった。飴ちゃんばっかり当たるんだよ」
圭吾が袋いっぱいの飴を抱えながら言った。
「50000円って...絶対当たり入ってないぞ!」
俺も驚いた。祭りの屋台って本当に恐ろしいな。
「でも楽しかったからいいんだ」
翔が苦笑いしてる。
でも俺としては、雫と二人きりの時間がほしいんだけど、なかなかそうならない。
「花火の時間だよ」
翔が時計を見て言う。
「おお、もうそんな時間か」
みんなで花火が見える場所に移動する。
花火が打ち上がると、夜空に綺麗な花が咲く。
「うわぁ、綺麗〜」
女子たちが歓声を上げている。
俺も空を見上げていたけど、ふと雫の方を見ると、雫も花火を見上げていて、浴衣姿がシルエットになってすごく綺麗だった。
横顔の美しい雫を見ていると、また美由紀リーダーの言葉が頭をよぎる。でも今はそんなこと考えちゃダメだ。
「雫...」
俺が呟くと、雫がこっちを向く。
「何?」
「いや...綺麗だなぁって」
「花火が?」
「それも含めて」
雫の顔が真っ赤になる。
「な、何それ...」
でもそのとき、美香が俺の腕を引っ張る。
「けーちゃん、あっちの花火も見て!」
美香に気を取られてる間に、雫はまた距離を置いてしまった。
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花火が終わって、みんなでゆっくり帰ることになった。
でも俺は雫とちゃんと話したくて、機会を伺っていた。
「あ、雫、ちょっと」
俺が雫を呼び止めると、雫は立ち止まる。
「何?」
「今日、何か距離感おかしかったよな。俺、何かしたかな」
雫は少し考えてから答える。
「...別に、けーちゃんは何も悪くないよ」
「でも明らかに避けられてた気がするんだけど」
「そんなことない」
雫は否定するけど、表情が曇っている。
「雫、正直に言って。何か気に障ること言った?」
雫はしばらく黙ってから、小さな声で答える。
「...けーちゃんが、みんなと仲良くしてるの見てて、なんか...」
「なんか?」
「私だけじゃダメなのかなって思った」
雫の言葉に、俺はドキッとする。
「雫...」
「でも、みんながけーちゃんを好きなのわかるし、けーちゃんだって...」
「ちょっと待て」
俺は雫の言葉を遮る。
「俺は雫が一番だよ」
「え?」
雫が驚いた顔をする。
「確かにみんな可愛いし、優しいし、魅力的だ。でも俺にとって特別なのは雫だけだ」
「けーちゃん...」
雫の目に涙が浮かんでいる。
「だから、そんな風に思わないでほしい。俺が一番一緒にいたいのは雫だから」
「本当?」
「本当」
雫がほっとしたような笑顔を浮かべる。
「良かった...私、心配になっちゃって」
「ごめん、気づかなくて」
「ううん、けーちゃんは悪くないよ」
雫が首を振る。
「でも今度からは、もっとちゃんと雫のこと見てるから」
「うん...ありがとう」
雫が嬉しそうに笑う。
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その後、俺と雫は手をつないで歩こうとした時、美香が駆け寄ってきた。
「あ、けーちゃん!私も一緒に帰る!」
美香が息を切らしながら俺たちの前に現れた。
「美香ちゃん、翔くんたちは?」
雫が聞いた。
「翔くんと恵ちゃんは先に帰っちゃったし、麗華ちゃんと雪ちゃんは迎えが来てたの」
美香が少し寂しそうに言った。
「そっか...じゃあ一緒に帰ろうか」
雫が優しく言うと、美香の顔がパッと明るくなった。
「やったー!けーちゃんと雫ちゃんと一緒だ♪」
美香が俺の空いてる方の腕に抱きついてきた。
「あの、美香ちゃん...」
雫が困ったような顔をしてる。
「いいじゃない、友達でしょ?けーちゃんも嫌じゃないよね?」
美香が上目遣いで俺を見つめる。
「あ、うん...」
俺は困ってしまった。両腕に女の子が一人ずつって、これはこれでドキドキするけど、雫との時間を邪魔された感じもする。
でも美香を突き放すわけにもいかないし...
結局、俺は雫と美香に両側から挟まれながら歩くことになった。
浴衣の雫と手をつないでいるなんて、何か夢みたいだ。
美由紀リーダーの話を思い出すと、なんだかドキドキしてしまう。でも雫との時間が幸せで、変なことは考えたくない。
「今日は楽しかった」
雫が言う。
「俺も。雫の浴衣姿、すごく可愛かったよ」
「もう、恥ずかしい...」
雫が俯く。
「でも本当だよ。惚れ直したよ」
「けーちゃんのばか...」
雫が小さく笑う。
そのとき、一日中気になっていたことが頭をよぎって、俺はつい口に出してしまった。
「そういえば雫、浴衣の下って...下着つけてないの?」
パチン!
雫の手が俺の頬を打った。
「何聞いてるのよ、バカ!」
雫の顔が真っ赤になっている。
「い、いや、バイト先のリーダーがそう言ってたから気になって...」
「そんなの人それぞれよ!デリカシーないなぁ、もう!」
雫がぷりぷり怒っている。でもその表情がまた可愛くて、俺はなんだか嬉しくなってしまった。
夏祭りの夜、俺と雫の関係は少し深くなった気がする。
でも同時に、他の女子たちの気持ちも分かって、何か複雑な気分でもあった。
まあ、とりあえず今は雫と一緒にいられることが幸せだ。
明日のことは明日考えよう。
夏祭りの夜は、そんな感じで更けていった。