表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/31

第3章 第3話 - 夏祭りの夜

 ついに夏祭り当日がやってきた。


 朝から暑くて、クーラーをガンガンにかけても汗が止まらない。こんな日に浴衣なんて着て大丈夫だろうか。まあ、女の子たちも同じ条件だし、気にしても仕方ないか。


「けーちゃん、お疲れ様!」


 大型リサイクルショップのアダルトコーナーでのバイトが終わって外に出ると、美由紀リーダーが手を振ってる。


「お疲れ様でした。今日はありがとうございました」


「はいはい。それより、今日は祭りよね?女の子と行くの?」


「はい。まあ、みんなで行くことになったんですけど」


「みんなで?あらあら、大変ね」


 美由紀リーダーがニヤニヤ笑っている。この人、絶対何か知ってるだろう。


「まあ、頑張りなさい。女の子の浴衣姿は特別よ?浴衣の下は下着つけないから、男の子はドキドキしちゃうのよね。心の準備しておきなさい」


「え!?下着つけないって、マジですか!?」


 俺は思わず大声を出してしまった。通りすがりの人が振り返る。


「あらあら、知らなかったの?浴衣は伝統的にそういうものなのよ。特に今日みたいに暑い日はね」


 美由紀リーダーがにやにやしながら続ける。


「だから男の子は浴衣の女の子を見ると、いつもよりドキドキしちゃうのよ。けーちゃんも気をつけなさいね」


「そ、そんなこと言われても...どうすればいいんですか!?」


 俺の顔が真っ赤になっているのが自分でも分かる。これから雫たちの浴衣姿を見ることになるのに、そんなこと知ってしまったら...


「そうそう、これ」


 美由紀リーダーが急に立ち止まって、車のトランクから段ボール箱を取り出した。


「何ですか、それ?」


「必要でしょ?」


 美由紀リーダーがにっこり笑いながら段ボール箱を俺に押し付けてくる。


 受け取って中を覗いてみると...


「うわああああ!!!」


 俺は思わず大声を出してしまった。段ボール箱の中にコンドームがぎっしり詰まってる。


「び、美由紀さん!なんでこんなものを!?」


「あら、浴衣の女の子たちと夏祭りでしょ?備えあれば憂いなしよ」


 美由紀リーダーがさらっと答える。


「で、でも俺そんなつもりじゃ...」


「男の子はみんなそう言うのよ。でも女の子の方から誘われることもあるからね」


「え?」


「特に浴衣の夜はロマンチックだから、何が起こるかわからないわよ」


 美由紀リーダーがウインクする。


「と、とりあえず持って帰りますけど...前にもらったコンドームも一つも減ってないのに...」


 俺は顔を真っ赤にしながら段ボール箱を抱えた。


「ふふふ、若いって良いわね。頑張って!」


 美由紀リーダーは手を振りながら去っていく。


 残された俺は、段ボール箱を抱えながら、これからの夏祭りが急に恐ろしくなってきた。


(この段ボール、どこに隠そう...)


 ---


 夕方、祭り会場で待ち合わせ。


 俺は無難に白いTシャツに黒いパンツで来たんだけど、みんなの浴衣姿を見て完全に浮いてることに気づく。


「うわぁ...」


 まず目に飛び込んできたのが雫の浴衣姿だ。


 濃い青色の浴衣に白い帯、髪は普段のポニーテールじゃなくて、きちんとまとめ髪にしている。うちわを片手に持っていて、普段とは全然違う上品な雰囲気だ。


 でも美由紀リーダーの言葉が頭をよぎる。浴衣の下は...本当に何も着けてないのか?いや、考えるな、考えるな!


「け、けーちゃん!」


 雫が俺に気づいて手を振る。その仕草でさえ、浴衣だと何か特別に見えてしまう。


「お、雫、似合ってるじゃん」


「そ、そうかな?慣れないから歩きにくくて...」


 雫が照れ笑いしながら答える。か、可愛すぎるだろ...


「けーちゃーん!」


 美香の声で振り返ると、ピンクの浴衣を着た美香が小走りでやってくる。普段から可愛い美香だけど、浴衣だとさらに可愛さが増している。


 小走りで揺れる浴衣の裾を見て、また例の話が頭に浮かぶ。ダメだ、美香のことでそんなこと考えちゃいけない!


「美香も似合ってるなぁ」


「えへへ、ありがとう!けーちゃんと一緒にお祭り回るの楽しみ♪」


 美香がぺろっと舌を出してウインクする。うう、これは反則だ...


「あら、みなさんお疲れ様です」


 上品な声で振り返ると、麗華が現れた。


 深い紫の高級そうな浴衣に金の帯、髪飾りまで完璧にコーディネートされている。さすがお嬢様、格が違う。


 でも麗華も...やっぱり?いやいや、お嬢様がそんなはずない。でも美由紀リーダーは「みんな」って言ってたよな...


「麗華、すごく綺麗じゃん」


「ありがとうございます。着付けに3時間かかりましたの」


 3時間って...さすがだな。


「みんなー!」


 恵の大きな声で全員の注目が集まる。


 恵は赤い浴衣で、胸元が...いや、見てはいけない。でも浴衣だと普段以上に色っぽく見えてしまう。


 恵のダイナマイトボディに浴衣って、これで下着つけてないって本当なのか?想像しただけで鼻血が出そうだ。


「恵、派手だなぁ」


「そう?もっと派手でも良かったかも♪」


 恵がくるっと回って見せる。うう、目のやり場に困る...


「あの、皆さん」


 雪の控えめな声。振り返ると、薄い緑色の浴衣を着た雪がおしとやかに立っている。普段の清楚なイメージにぴったりで、まさに大和撫子って感じだ。


 清楚な雪まで...いや、雪は絶対そんなことないよな。でも浴衣の伝統って...


「雪も似合ってるじゃん」


「ありがとうございます...でも、歩きにくくて」


 雪が困ったような笑顔を浮かべる。


 ---


 翔と圭吾もやってきて、みんな揃った。


「うわー、女子の浴衣姿やばくない?」


 圭吾が興奮してる。


「ほんまやなぁ。みんな綺麗やん」


 翔も感心してる。俺も同感や。


「じゃあ、行きましょうか!」


 雫の提案でみんなで祭り会場に向かう。


 でも歩いてる間、なんか変な雰囲気や。恵が俺の右側にぴったりくっついて歩いてるし、美香も左側から腕に絡んでくる。


「け、けーちゃん、腕組んでもいい?歩きにくいの」


 美香が上目遣いで見上げてくる。


「あ、うん...」


 美香の細い腕が俺の腕に絡む。柔らかくて、なんかドキドキする。


「あー、ずるい!私も!」


 恵も反対側から腕を組んでくる。


「ちょ、ちょっと...」


 俺、完全に両手に花状態じゃん。でも雫の方を見ると、何か複雑そうな表情している。


「...」


 雫が無言で前を歩いている。やばい、これはまずい雰囲気だ。


 ---


 祭り会場に着くと、すごい人だった。


「すげー、すごい人がいるじゃん」


「夏祭りって感じだなぁ」


 屋台がずらっと並んでいて、いい匂いがしている。


「何から食べる?」


 翔が聞く。


「たこ焼き!」


「焼きそば!」


「かき氷!」


 みんなでわいわい言いながら屋台を回る。でも俺はずっと雫のことが気になってた。


 さっきから雫、俺と何か距離を置いている感じがする。美香や恵と一緒にいたからかな。


「雫、何か食べたいものある?」


 俺が声をかけると、雫はちょっと驚いたような顔をする。


「え?あ、うん...りんご飴とかどうかな」


「おお、らしいな。買ってくるよ」


 俺がりんご飴の屋台に向かうと、後ろから美香がついてくる。


「私も一緒に行く♪」


「あ、うん」


「りんご飴二つください」


 俺が屋台のおじさんに声をかけた。


「はい、雫」


「ありがとう、けーちゃん」


 雫が嬉しそうに微笑む。この笑顔が見たかったんだ。


「私のは?」


 美香がじっと見てる。


「え?美香の分も買ったよ」


 俺がもう一つのりんご飴を美香に渡すと、美香が嬉しそうに手を叩いた。


「やったー!ありがとう、けーちゃん♪」


(最初から二つ買っておいてよかった)


 ---


 みんなで屋台を回っていたら、いつの間にか俺と雫だけになっていた。


「あれ?みんなは?」


「翔くんと恵ちゃんは射的のコーナーに行ったし、圭吾くんはくじ引きにハマってるし、美香ちゃんと麗華ちゃんと雪ちゃんはかき氷食べに行った」


「そっか。じゃあ俺たちも何かしようか」


「うん」


 雫と二人きりになると、何かほっとする。


「雫、浴衣似合ってるなぁ」


「そ、そうかな?けーちゃんにそう言ってもらえると嬉しい」


 雫が照れながら答える。


「でも歩きにくそうだな」


「うん、普段と勝手が違うから」


 雫が苦笑いする。


「無理しなくてもいいよ。疲れたら言って」


「ありがとう、けーちゃん」


 雫が嬉しそうに笑う。やっぱり雫といると落ち着くな。


 ---


 二人で金魚すくいをしていたら、美香がやってきた。


「あ、見つけた!けーちゃん、雫ちゃん、何してるの?」


「金魚すくい。美香もやる?」


「うん、やりたい!」


 美香が俺の隣にぴったりくっついて座る。


「けーちゃん、教えて♪」


 美香が甘えるような声で言う。


「え、あ、うん...」


 俺が教えていると、雫が何か不機嫌そうになっている。


「雫も一緒にやろうよ」


「...うん」


 雫の返事が素っ気ない。


 ---


 その後も、恵や麗華が合流して、何かみんなで行動することになった。


 翔と圭吾も戻ってきたけど、二人とも財布がペラペラになってる。


「翔ちゃん、どうしたの?」


 雫が心配そうに聞いた。


「射的で散財した...恵に景品取ってあげようと思ったんだけど、全然当たらなくて」


 翔がげんなりした顔をしてる。


「俺もくじ引きで50000円使っちゃった。飴ちゃんばっかり当たるんだよ」


 圭吾が袋いっぱいの飴を抱えながら言った。


「50000円って...絶対当たり入ってないぞ!」


 俺も驚いた。祭りの屋台って本当に恐ろしいな。


「でも楽しかったからいいんだ」


 翔が苦笑いしてる。


 でも俺としては、雫と二人きりの時間がほしいんだけど、なかなかそうならない。


「花火の時間だよ」


 翔が時計を見て言う。


「おお、もうそんな時間か」


 みんなで花火が見える場所に移動する。


 花火が打ち上がると、夜空に綺麗な花が咲く。


「うわぁ、綺麗〜」


 女子たちが歓声を上げている。


 俺も空を見上げていたけど、ふと雫の方を見ると、雫も花火を見上げていて、浴衣姿がシルエットになってすごく綺麗だった。


 横顔の美しい雫を見ていると、また美由紀リーダーの言葉が頭をよぎる。でも今はそんなこと考えちゃダメだ。


「雫...」


 俺が呟くと、雫がこっちを向く。


「何?」


「いや...綺麗だなぁって」


「花火が?」


「それも含めて」


 雫の顔が真っ赤になる。


「な、何それ...」


 でもそのとき、美香が俺の腕を引っ張る。


「けーちゃん、あっちの花火も見て!」


 美香に気を取られてる間に、雫はまた距離を置いてしまった。


 ---


 花火が終わって、みんなでゆっくり帰ることになった。


 でも俺は雫とちゃんと話したくて、機会を伺っていた。


「あ、雫、ちょっと」


 俺が雫を呼び止めると、雫は立ち止まる。


「何?」


「今日、何か距離感おかしかったよな。俺、何かしたかな」


 雫は少し考えてから答える。


「...別に、けーちゃんは何も悪くないよ」


「でも明らかに避けられてた気がするんだけど」


「そんなことない」


 雫は否定するけど、表情が曇っている。


「雫、正直に言って。何か気に障ること言った?」


 雫はしばらく黙ってから、小さな声で答える。


「...けーちゃんが、みんなと仲良くしてるの見てて、なんか...」


「なんか?」


「私だけじゃダメなのかなって思った」


 雫の言葉に、俺はドキッとする。


「雫...」


「でも、みんながけーちゃんを好きなのわかるし、けーちゃんだって...」


「ちょっと待て」


 俺は雫の言葉を遮る。


「俺は雫が一番だよ」


「え?」


 雫が驚いた顔をする。


「確かにみんな可愛いし、優しいし、魅力的だ。でも俺にとって特別なのは雫だけだ」


「けーちゃん...」


 雫の目に涙が浮かんでいる。


「だから、そんな風に思わないでほしい。俺が一番一緒にいたいのは雫だから」


「本当?」


「本当」


 雫がほっとしたような笑顔を浮かべる。


「良かった...私、心配になっちゃって」


「ごめん、気づかなくて」


「ううん、けーちゃんは悪くないよ」


 雫が首を振る。


「でも今度からは、もっとちゃんと雫のこと見てるから」


「うん...ありがとう」


 雫が嬉しそうに笑う。


 ---


 その後、俺と雫は手をつないで歩こうとした時、美香が駆け寄ってきた。


「あ、けーちゃん!私も一緒に帰る!」


 美香が息を切らしながら俺たちの前に現れた。


「美香ちゃん、翔くんたちは?」


 雫が聞いた。


「翔くんと恵ちゃんは先に帰っちゃったし、麗華ちゃんと雪ちゃんは迎えが来てたの」


 美香が少し寂しそうに言った。


「そっか...じゃあ一緒に帰ろうか」


 雫が優しく言うと、美香の顔がパッと明るくなった。


「やったー!けーちゃんと雫ちゃんと一緒だ♪」


 美香が俺の空いてる方の腕に抱きついてきた。


「あの、美香ちゃん...」


 雫が困ったような顔をしてる。


「いいじゃない、友達でしょ?けーちゃんも嫌じゃないよね?」


 美香が上目遣いで俺を見つめる。


「あ、うん...」


 俺は困ってしまった。両腕に女の子が一人ずつって、これはこれでドキドキするけど、雫との時間を邪魔された感じもする。


 でも美香を突き放すわけにもいかないし...


 結局、俺は雫と美香に両側から挟まれながら歩くことになった。


 浴衣の雫と手をつないでいるなんて、何か夢みたいだ。


 美由紀リーダーの話を思い出すと、なんだかドキドキしてしまう。でも雫との時間が幸せで、変なことは考えたくない。


「今日は楽しかった」


 雫が言う。


「俺も。雫の浴衣姿、すごく可愛かったよ」


「もう、恥ずかしい...」


 雫が俯く。


「でも本当だよ。惚れ直したよ」


「けーちゃんのばか...」


 雫が小さく笑う。


 そのとき、一日中気になっていたことが頭をよぎって、俺はつい口に出してしまった。


「そういえば雫、浴衣の下って...下着つけてないの?」


 パチン!


 雫の手が俺の頬を打った。


「何聞いてるのよ、バカ!」


 雫の顔が真っ赤になっている。


「い、いや、バイト先のリーダーがそう言ってたから気になって...」


「そんなの人それぞれよ!デリカシーないなぁ、もう!」


 雫がぷりぷり怒っている。でもその表情がまた可愛くて、俺はなんだか嬉しくなってしまった。


 夏祭りの夜、俺と雫の関係は少し深くなった気がする。


 でも同時に、他の女子たちの気持ちも分かって、何か複雑な気分でもあった。


 まあ、とりあえず今は雫と一緒にいられることが幸せだ。


 明日のことは明日考えよう。


 夏祭りの夜は、そんな感じで更けていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ