第3章 第2話 - 期末テストと夏休み前
期末テストが終わって、いよいよ夏休み直前。
教室は開放的な雰囲気に包まれていた。
「やっと終わったー!」
美香ちゃんが伸びをしながら言った。
「お疲れさまでした」
麗華ちゃんも上品にほっとした表情を見せてる。
「夏休み、楽しみね」
恵ちゃんが言ったけど、なんだか元気がない。
翔ちゃんは恵ちゃんから少し離れた席に座ってて、気まずそうだ。
(あの二人、まだギクシャクしてるのか...)
俺は心配になった。
夏祭りの件以来、雫との関係も微妙だし、なんだかみんな複雑な感じだ。
昼休み、俺が一人で屋上にいると、翔ちゃんがやってきた。
「けーちゃん」
「翔ちゃん、お疲れさま」
翔ちゃんが俺の隣に座った。
「相談があるんだ」
「何?」
「恵のことなんだけど...」
翔ちゃんが困った顔をした。
「最近、うまくいってないの?」
「うまくいってないっていうか...」
翔ちゃんがため息をついた。
「恵って、自由すぎるんだよな」
「自由?」
「この前も、圭吾と二人で飲みに行ったって聞いて、驚いた」
「え?圭吾と?」
「しかも、俺に何も言わずに」
翔ちゃんが頭を抱えた。
「恵ちゃんなりに理由があるんじゃないの?」
「それが分からないんだ。聞いても『別に普通のことでしょ』って」
(確かに恵ちゃんらしいな...)
「恵って、男女の友情を信じてるタイプだから、気にしてないのかも」
「でも、彼氏がいるのに他の男と二人で飲むって...」
翔ちゃんが困惑してる。
「話し合ったの?」
「話し合おうとしたら、『翔は堅すぎる』って言われた」
「堅すぎるって...」
「俺が古い考えなのかな」
翔ちゃんが不安そうに俺を見た。
「そんなことないよ。翔ちゃんが心配するのは当然だと思う」
「でも、恵はそう思ってないみたいだ」
翔ちゃんがまたため息をついた。
「どうしたらいいと思う?」
俺は答えに困った。恵ちゃんの性格を考えると、確かに悪気はないと思う。でも、翔ちゃんの気持ちも分かる。
「恵ちゃんと、もう一度ちゃんと話してみたら?」
「そうだな...」
翔ちゃんが立ち上がった。
「ありがとう、けーちゃん」
「うまくいくといいね」
翔ちゃんが去った後、今度は恵ちゃんがやってきた。
「けーちゃん、一人?」
「あ、恵ちゃん」
恵ちゃんが俺の隣に座った。いつもより近い距離だ。
「翔のこと、聞いた?」
「え?」
「相談してたでしょ?」
恵ちゃんが俺を見つめた。
「まあ、ちょっと...」
「翔って、本当に堅いのよ」
恵ちゃんがため息をついた。
「堅いって...」
「圭吾と飲みに行っただけで、あんなに怒るんだもの」
「でも、翔ちゃんの気持ちも分かるよ」
「え?けーちゃんもそう思うの?」
恵ちゃんが俺を見つめた。
「彼女が他の男と二人で飲みに行ったら、心配するのは普通じゃない?」
「でも、圭吾よ?ただの友達じゃない」
「翔ちゃんには、そう見えないのかも」
俺が言うと、恵ちゃんが考え込んだ。
「そうかな...」
「恵ちゃんは悪気がないって分かるけど、翔ちゃんは不安になったんだと思う」
「うーん...」
恵ちゃんが俯いた。
「翔と話し合ってみる」
「それがいいと思う」
「ありがとう、けーちゃん」
恵ちゃんが立ち上がろうとして、でも途中で止まった。
「ねえ、けーちゃん」
「何?」
「もし、翔とうまくいかなかったら...」
恵ちゃんが俺を見つめた。
「え?」
「慰めてくれる?」
恵ちゃんが俺に近づいてきた。
「あの、恵ちゃん...」
「冗談よ」
恵ちゃんがクスッと笑った。
でも、その目は真剣だった。
「でも、けーちゃんって優しいのね」
恵ちゃんが俺の頬に軽くキスした。
「え?」
俺は驚いて立ち上がった。
「お礼♪」
恵ちゃんがウインクして去っていった。
(え、え、え?何だったんだ今の?)
俺は混乱した。
頬がまだ温かい。
(恵ちゃん、翔ちゃんと付き合ってるのに...)
俺は不安になった。
放課後、俺は圭吾に会った。
「圭吾、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「何だ?」
「恵ちゃんと飲みに行ったって本当?」
圭吾がニヤッと笑った。
「ああ、行ったよ。何か問題でもあるのか?」
「翔ちゃんが心配してたんだ」
「翔が?あいつ、心配性だな」
圭吾が呆れたように言った。
「別に何もしてないよ。ただ飲んで話しただけ」
「何を話したの?」
「恋愛相談とか」
「恋愛相談?」
「恵が『翔は真面目すぎる』って愚痴ってた」
圭吾の言葉に、俺は複雑な気持ちになった。
「で、俺がアドバイスしてやったんだ」
「どんなアドバイス?」
「『もっと自由に生きろ』って」
(それ、逆効果じゃないのか...)
「圭吾、それって...」
「何?」
「翔ちゃんとの関係を悪化させるアドバイスじゃない?」
「そうかな?恵だって息苦しいんだろ」
圭吾がサラッと言った。
「でも、翔ちゃんは恵ちゃんのことが好きなんだよ」
「だったら、もっと恵のことを理解すればいいじゃん」
圭吾の言い分も分かるけど、なんだか複雑だ。
「まあ、あの二人の問題だし、俺たちが口出しすることじゃないな」
圭吾がそう言って去っていった。
(でも、俺は二人から相談されてるし...)
俺は板挟み状態だった。
家に帰る途中、スマホが鳴った。
雫からのメッセージだった。
「お疲れさま。夏祭り、楽しみだね」
俺は嬉しくなった。雫が夏祭りのことを前向きに考えてくれてる。
「俺も楽しみ。雫の浴衣姿、早く見たい」
すぐに返事が来た。
「恥ずかしい...でも、けーちゃんに見てもらいたいの」
俺の心臓がドキッとした。
「絶対に綺麗だよ」
「ありがとう♪今度は二人きりの時間も作れるかな」
雫のメッセージに、俺は安心した。
雫は俺との時間を大切に思ってくれてる。
「絶対に作る」
「楽しみにしてる」
俺は雫とのやり取りで、少し元気になった。
でも、翔ちゃんと恵ちゃんのことが気になる。
そして、恵ちゃんの頬へのキスも。
(あれって、本当にお礼だったのかな...)
俺は不安になった。
翌日の朝、学校に行くと、翔ちゃんと恵ちゃんがまた離れた場所にいた。
(話し合ったみたいだけど、うまくいかなかったのかな)
昼休み、俺が教室にいると、恵ちゃんがやってきた。
「けーちゃん、ちょっといい?」
「うん」
俺たちは廊下に出た。
「翔と話したの」
「そうなんだ。どうだった?」
「やっぱりダメだった」
恵ちゃんが悲しそうに言った。
「そっか...」
「翔は『俺を信用してない』って言うし、私は『束縛されたくない』って思うし」
恵ちゃんがため息をついた。
「価値観の違いかな」
「そうなのかも」
恵ちゃんが俺を見つめた。
「けーちゃんなら、どうする?」
「え?」
「彼女が他の男と飲みに行ったら」
恵ちゃんが俺に近づいてきた。
「俺は...心配するかも」
「やっぱり?」
「でも、信頼してる相手なら、話し合って理解し合おうとすると思う」
俺が答えると、恵ちゃんが微笑んだ。
「けーちゃんって、大人ね」
「そんなことないよ」
「翔より、ずっと大人」
恵ちゃんが俺の胸に手を置いた。
「恵ちゃん...」
「ねえ、けーちゃん」
「何?」
「私と付き合わない?」
恵ちゃんが俺を見つめた。
「え?」
俺は驚いた。
「翔とは別れるつもりなの」
「でも...」
「けーちゃんなら、私のこと理解してくれそう」
恵ちゃんが俺に抱きついてきた。
「恵ちゃん、ちょっと...」
俺は慌てた。
「ダメ?」
恵ちゃんが上目遣いで俺を見つめた。
その時、廊下の向こうから雫が現れた。
俺たちの姿を見て、雫が立ち止まった。
「あ...」
雫の顔が青ざめた。
「雫!」
俺は慌てて恵ちゃんから離れた。
でも、雫はもう走って去ってしまった。
「雫ちゃん、誤解してるわね」
恵ちゃんがクスッと笑った。
「恵ちゃん、なんでこんなことを...」
「本気よ。けーちゃんって素敵だもの」
恵ちゃんが俺を見つめた。
「でも、俺は雫のことが...」
「雫ちゃん?」
恵ちゃんが首をかしげた。
「ライバルなのね」
(ライバルって...)
「俺、雫を追いかけてくる」
「待って」
恵ちゃんが俺の腕を掴んだ。
「今度、二人でゆっくり話しましょう」
恵ちゃんがウインクした。
俺は恵ちゃんを振り切って、雫を追いかけた。
でも、雫の姿はもう見えなくなっていた。
(やばい、雫に誤解される...)
俺は焦った。
夏祭りまであと数日。
俺の周りの人間関係は、どんどん複雑になっていく。
(どうすればいいんだ...)
俺は途方に暮れた。