第3章 第1話 - 夏祭りの誘い
7月に入って、雫とのデートが成功してから俺たちの関係は少しずつ変わってきた。
教室でも自然に隣に座るようになったし、一緒に昼食を食べることも多くなった。
でも、まだ付き合ってるわけじゃない。
(俺たちって、何なんだろう...)
そんなことを考えてる俺に、雫が話しかけてきた。
「けーちゃん、もうすぐ夏祭りね」
「ああ、そうだね」
「一緒に行かない?」
雫が俺を見つめて言った。
「え?」
俺の心臓がドキッとした。
「ダメかな?」
「いや、行きたい!」
俺が慌てて答えると、雫がニッコリ笑った。
「よかった。浴衣も新しいの買ったの」
「浴衣?」
「うん。けーちゃんに見せたくて」
雫が恥ずかしそうに言った。
(雫の浴衣姿...想像しただけでドキドキする)
「楽しみにしてる」
「私も♪」
俺たちは夏祭りの約束をした。
でも、その直後に問題が発生した。
昼休み、俺が一人で廊下を歩いてると、美香ちゃんが駆け寄ってきた。
「けーちゃん!」
「美香ちゃん、どうしたの?」
「夏祭り、一緒に行かない?」
美香ちゃんが上目遣いで俺を見つめた。
「え?」
「私、浴衣買ったの。けーちゃんと一緒に行きたいな」
(うわ、美香ちゃんも...)
「あの、俺...」
俺が困ってると、今度は麗華ちゃんがやってきた。
「けーちゃん、お疲れさまです」
「麗華ちゃん、お疲れさま」
「あの...もしよろしければ、夏祭りにご一緒していただけませんか?」
麗華ちゃんが上品にお辞儀した。
「麗華ちゃんも?」
「はい。実は、浴衣を誂えまして...」
(みんな、浴衣を買ってるのか...)
美香ちゃんと麗華ちゃんが俺を見つめてる。
「あの...」
俺が困ってると、恵ちゃんまで現れた。
「あら、みんなで何の話?」
恵ちゃんが俺たちに近づいてきた。
「夏祭りの話です」
麗華ちゃんが答えた。
「夏祭り?あ、私も行きたいわ」
恵ちゃんが俺を見た。
「けーちゃん、一緒に行こうか」
「え?恵ちゃんも?」
「翔とうまくいってないから、気分転換したいの」
恵ちゃんが俺の腕に抱きついてきた。
「慰めて♪」
(うわあああ、恵ちゃんの胸が当たってる...)
俺の顔が真っ赤になった。
「あの、恵さん...」
美香ちゃんが困った顔をしてる。
「恵ちゃん、翔くんとどうしたの?」
麗華ちゃんが心配そうに聞いた。
「あの人、真面目すぎるのよ。つまらないの」
恵ちゃんがため息をついた。
「で、けーちゃんはどうするの?」
恵ちゃんが俺を見つめた。
「あの...俺は...」
俺は完全に困ってしまった。
雫と約束したって言うべきなのか、でも他の子たちを傷つけたくない。
「けーちゃん?」
美香ちゃんが不安そうに俺を見てる。
「どちらになさいますか?」
麗華ちゃんも俺を見つめてる。
「答えて♪」
恵ちゃんまで俺を見てる。
(どうすればいいんだ...)
その時、雫がやってきた。
「けーちゃん、何してるの?」
「あ、雫...」
「夏祭りの相談してたのよ」
恵ちゃんがサラッと答えた。
「夏祭り?」
雫が俺たちを見回した。
「みんなで行くの?」
「そうそう。けーちゃんと一緒に」
美香ちゃんが言った。
雫の顔が少し曇った。
「そうなんだ...」
「雫ちゃんも一緒に行く?」
麗華ちゃんが提案した。
「でも、みんなでワイワイ行くより、二人で...」
美香ちゃんが言いかけて止まった。
空気が重くなった。
「あの...」
俺が口を開きかけた時、チャイムが鳴った。
「あ、授業だ」
みんなが慌てて教室に戻っていく。
雫だけが俺の前に残った。
「けーちゃん...」
「雫...」
「私たちの約束、覚えてる?」
雫が不安そうに聞いた。
「もちろん覚えてるよ」
「でも、みんなも誘ってるのね」
「それは...」
俺は何と答えればいいのか分からなかった。
「私、勘違いしてたのかな」
雫が悲しそうに言った。
「そんなことないよ」
「でも...」
雫が俯いてしまった。
「雫、俺は...」
俺が言いかけた時、また授業の準備の音が聞こえてきた。
「教室、戻ろう」
雫が小さく言った。
「うん」
俺たちは気まずい空気のまま教室に戻った。
放課後、俺は一人で悩んでいた。
(どうすればいいんだ...)
雫との約束を守りたいけど、他の子たちを傷つけるのも嫌だ。
でも、みんなと一緒に行ったら、雫との特別な時間がなくなってしまう。
「けーちゃん」
振り返ると、圭吾がいた。
「圭吾...」
「何悩んでるんだ?」
「実は...」
俺は圭吾に事情を説明した。
「なるほど、ハーレム状態か」
圭吾がニヤニヤしてる。
「笑い事じゃないよ」
「でも、うらやましいな。俺なんて誰からも誘われてない」
「圭吾...」
「で、どうするんだ?」
「分からない...」
「俺だったら、全員と行くけどな」
「全員と?」
「そう。みんなでワイワイ楽しめばいいじゃん」
圭吾の提案に、俺は考え込んだ。
「でも、雫は二人で行きたがってるみたいだし...」
「それなら、途中で二人きりの時間を作ればいい」
「そんなうまくいくかな」
「やってみなければ分からないだろ」
圭吾がポンと俺の肩を叩いた。
「頑張れよ、けーちゃん」
「ありがとう、圭吾」
でも、俺の悩みは解決しなかった。
家に帰る途中、俺はスマホを見た。
雫からメッセージが来てた。
「今日はごめんね。変な空気にしちゃって」
俺はすぐに返事を書いた。
「謝らないでよ。俺こそごめん」
すぐに返事が来た。
「夏祭り、どうする?」
俺は携帯を握りしめた。
(どう答えればいいんだ...)
結局、その日は返事ができなかった。
翌日の朝、学校に行くと、美香ちゃんが俺を待ってた。
「けーちゃん、おはよう」
「美香ちゃん、おはよう」
「昨日の件、考えてくれた?」
美香ちゃんが期待を込めた目で俺を見てる。
「あの...」
俺が困ってると、今度は麗華ちゃんがやってきた。
「けーちゃん、おはようございます」
「麗華ちゃん、おはよう」
「夏祭りの件、いかがでしょうか?」
麗華ちゃんも俺に聞いてきた。
さらに、恵ちゃんまで現れた。
「けーちゃん、おはよう♪」
恵ちゃんが俺の腕に抱きついてきた。
「返事、聞かせて」
三人が俺を見つめてる。
その時、雫が教室に入ってきた。
俺たちの様子を見て、雫が少し距離を置いて自分の席に座った。
(雫...)
俺は胸が痛くなった。
「それで、けーちゃん?」
美香ちゃんが俺を見つめてる。
「あの...」
俺は決断した。
「みんなで一緒に行こう」
「みんなで?」
「そう。みんなで行けば楽しいでしょ」
俺の提案に、三人が顔を見合わせた。
「まあ、それもいいかもね」
恵ちゃんが言った。
「私も賛成です」
麗華ちゃんも同意してくれた。
「うん、みんなで行こう」
美香ちゃんも笑顔になった。
でも、雫だけは俯いたままだった。
昼休み、俺は雫に話しかけた。
「雫、夏祭りの件だけど...」
「みんなで行くのね」
雫が振り返らずに言った。
「そうなんだけど、途中で二人きりの時間も作れると思うし...」
「いいの。みんなで行った方が楽しいもの」
雫が無理に笑顔を作った。
「雫...」
「私、お弁当食べてくる」
雫がそう言って、屋上に向かってしまった。
(やっぱり、雫を傷つけてしまった...)
俺は自分の判断が正しかったのか、分からなくなった。
でも、もう決めてしまったことだ。
(夏祭り当日、なんとかしよう)
俺は決意を新たにした。