第2章 第6話 - 雫と初デート
研修旅行から戻って2週間が経った金曜日の放課後。俺は教室で荷物をまとめていると、雫が近づいてきた。
「けーちゃん、ちょっといい?」
「ああ、何?」
雫が周りを見回して、小声で言った。
「この前話した件なんだけど...明日、二人で出かけない?」
俺の心臓がドキッとした。
「え?いいの?」
「うん。せっかくだから、どこか楽しいところに行きたいの」
雫が微笑んだ。
「どこに行こうか?」
俺が聞くと、雫が首をかしげた。
「けーちゃんにお任せする。サプライズで」
(サプライズって...俺にそんな計画立てられるのか?)
「分かった。じゃあ、明日の10時に駅前で」
「楽しみ♪」
雫が嬉しそうに手を振って帰っていった。
(やばい、どこに連れて行こう)
家に帰った俺は、必死にデートプランを考えた。
そして、美由紀リーダーのアドバイスを思い出した。
「活発な子にはパチンコ屋がいいのよ」
(パチンコって...さすがにそれは...)
でも他に思いつかない。俺は自分で考えることにした。
(雫って活発だけど、パチンコはないよな。何か楽しめそうなところ...水族館とかどうかな?)
(水族館!それだ!)
翌日の朝、俺は緊張しながら駅前で雫を待っていた。
10時ちょうどに、雫が現れた。
「おはよう、けーちゃん」
雫は普段の制服ではなく、白いワンピースを着ていた。
「お、おはよう」
俺は雫の可愛さに見とれてしまった。
「けーちゃん、顔赤いよ?」
「そ、そんなことないよ」
「今日はどこに行くの?」
「水族館」
俺が答えると、雫の顔がパッと明るくなった。
「水族館?すごく楽しそう!」
「よかった。喜んでもらえて」
俺たちは電車に乗って、水族館に向かった。
電車の中で、雫が俺の隣に座った。
「けーちゃん、水族館って行ったことある?」
「小学生の時に遠足で一回だけ」
「私も久しぶり。楽しみ」
雫がワクワクしてる様子を見て、俺も嬉しくなった。
水族館に着くと、入場券を買った。
「俺が払うよ」
「ありがとう、けーちゃん」
雫が嬉しそうに微笑んだ。
館内に入ると、色とりどりの魚たちが泳いでいた。
「わあ、きれい」
雫が目を輝かせて水槽を見つめてる。
「この魚、何だろう?」
「えーっと...これはアジかな。塩焼きにすると美味しいよ。あと南蛮漬けとかフライとか」
俺が答えると、雫が呆れた顔をした。
「けーちゃん、食べる話?」
「え、違うの?」
「水族館で魚を見てるのよ?」
雫がクスクス笑った。
「でも、それがけーちゃんらしくて面白い」
「小さい頃、じいちゃんが釣り好きで。一緒に釣りに行くたびに、この魚はこう調理すると美味いって教えてくれたんだ」
俺が説明すると、雫の表情が優しくなった。
「素敵なおじいちゃんね」
「もう亡くなっちゃったけどね」
「そっか...でも、けーちゃんが魚に詳しいのは、おじいちゃんのおかげなのね」
雫が俺を見て微笑んだ。
(雫、優しいな...)
俺の心臓がバクバクした。
次のエリアではクラゲの展示があった。
「クラゲって、なんか幻想的よね」
雫がうっとりと見つめてる。
「確かに。中華料理でよく食べるよね。コリコリしてて美味しいんだ」
「けーちゃん、また食べる話...」
雫が苦笑いした。
「あ、ごめん。じいちゃんが中華料理屋に連れて行ってくれた時に教わったんだ」
「もう、けーちゃんったら」
雫がクスクス笑った。
「でも、幻想的だよね。ふわふわしてて」
「今度は大丈夫ね」
(雫の笑顔、本当に可愛いな)
ペンギンコーナーでは、ペンギンたちがよちよち歩いてるのを見た。
「可愛い〜」
雫がペンギンを見て癒されてる。
「ペンギンって...」
俺が口を開きかけて、でも止まった。
「今度は何?食べ方?」
雫がニヤニヤしながら聞いてきた。
「あ、いや...じいちゃんもペンギンの食べ方は教えてくれなかった」
「当たり前でしょ!」
雫が大笑いした。
「あのペンギン、けーちゃんに似てない?」
雫が一匹のペンギンを指差した。
「え?どの辺が?」
「歩き方がちょっとおっとりしてるところ」
「ひどいな」
俺が苦笑いすると、雫が笑った。
「でも、可愛いから大丈夫」
(また可愛いって言った...)
そして、メインイベントのイルカショーの時間になった。
「席、どこにしよう?」
「前の方がいいかな」
俺たちは前から3列目の席に座った。
ショーが始まると、イルカたちが華麗にジャンプした。
「すごい!」
雫が拍手しながら感動してる。
水しぶきが飛んできて、雫の頬に少しかかった。
「あ、濡れちゃった」
俺は咄嗟にハンカチを取り出して、雫の頬を拭いた。
「ありがとう」
雫が俺を見つめた。
近い距離で見つめ合って、俺の心臓がドキドキした。
(この距離...もしかして...)
でも、俺は勇気が出なくて、慌ててハンカチをしまった。
イルカショーが終わると、司会者が言った。
「続いて、シャチのパフォーマンスをお楽しみください!」
「シャチ?」
雫が興味深そうに見た。
巨大なシャチがプールに現れて、ダイナミックなジャンプを披露した。
その瞬間、大量の水しぶきが観客席に降り注いだ。
「うわああああ!」
俺と雫は一瞬で頭からずぶ濡れになった。
「きゃー!」
雫も水浸しになって、髪がべちゃべちゃだ。
「ご、ごめん!前の席にしたから...」
俺が慌てて謝ると、雫がプルプル震えながら笑い出した。
「あはは、すごい水量!」
「風邪ひくよ」
俺がタオルを取り出そうとしたけど、自分も濡れてて役に立たない。
「でも、面白かった」
雫が髪をかき上げながら笑ってる。
俺たちはお互いのびしょ濡れの姿を見合って、また大笑いした。
「けーちゃん、髪がぺちゃんこ」
「雫も負けてないよ」
二人でゲラゲラ笑いながら、なんだかとても楽しい気分になった。
濡れた雫も可愛い。
ショーが終わって、俺たちはお土産コーナーに寄った。
「何か記念に買わない?」
雫が提案した。
「何がいいかな?」
俺が聞くと、雫がイルカのストラップを手に取った。
「これ、可愛い」
「じゃあ、それにしよう」
俺がレジに向かうと、雫が俺の腕を掴んだ。
「ペアで買わない?」
「ペア?」
「色違いで。けーちゃんが青で、私がピンク」
俺の顔が赤くなった。
「い、いいの?」
「うん。今日の思い出に」
俺たちはペアのイルカストラップを買った。
水族館を出て、近くのカフェに入った。
「楽しかったね」
雫が満足そうに言った。
「俺も楽しかった」
「けーちゃんと一緒だと、何でも楽しいの」
雫が俺を見つめて言った。
「俺も...雫といると、すごく楽しい」
俺が正直に言うと、雫が嬉しそうに微笑んだ。
「今度は私がプランを立てるね」
「今度?」
「また一緒に出かけよう?」
雫が俺に聞いた。
「もちろん」
俺が答えると、雫がホッとした表情を見せた。
「よかった。断られたらどうしようかと思った」
「そんなわけないよ」
「けーちゃん...」
雫が何か言いかけて、でも言葉に詰まった。
「どうしたの?」
「あの...けーちゃんは、私のことどう思ってる?」
また同じ質問だった。でも、今度は逃げたくなかった。
「雫のこと...大切に思ってる」
俺が答えると、雫の顔が少し赤くなった。
「大切って...友達として?」
「それは...」
俺が答えに詰まっていると、雫が苦笑いした。
「まだ答えは出ないかな」
「雫...」
「でも、今日みたいに一緒にいられるだけで幸せ」
雫が微笑んだ。
(俺、何やってるんだ。せっかくのチャンスなのに)
でも、俺はまだ告白する勇気が出なかった。
夕方になって、俺たちは駅で別れることになった。
「今日は本当に楽しかった。ありがとう、けーちゃん」
「俺こそ、ありがとう」
雫が俺を見つめて、何か言いたそうにしてる。
「また...」
「うん、また一緒に出かけよう」
俺が先に言うと、雫がニッコリ笑った。
「楽しみにしてる」
雫が手を振って、電車に乗っていった。
俺はホームでその姿を見送った。
(今日、告白すべきだったのかな)
でも、雫も俺のことを意識してくれてるのが分かった。
(次は...次こそは)
俺は決意を新たに、家に向かった。
家に帰ると、イルカのストラップを眺めた。
雫と一緒に買ったペアストラップ。
(雫、今頃どうしてるかな)
スマホを見ると、雫からメッセージが来ていた。
「今日は本当に楽しかった♪ありがとう」
写真も添付されていて、水族館で撮った俺と雫のツーショットだった。
俺は嬉しくなって、すぐに返事を書いた。
「俺も楽しかった。また一緒に行こう」
すぐに返事が来た。
「うん♪今度は私がサプライズするね」
俺は微笑みながらスマホを置いた。
(雫との距離、また一歩縮まったかな)
でも、まだ告白はできていない。
(次こそは...次こそは勇気を出そう)
俺は決意を胸に、その夜は幸せな気持ちで眠りについた。