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第2章 第5話 - 日本酒祭り再来

 研修旅行2日目の夜。今日は朝から観光地巡りで、善光寺や松本城を見学した。昨夜の酒盛りの影響で、朝はみんなちょっと頭が痛そうだったけど、なんとか乗り切った。


 特に雪ちゃんは一升瓶を空けたせいか、朝食でほとんど食べられなくて、先生に「体調大丈夫?」と心配された。


「ちょっと寝不足で...」


 雪ちゃんが苦笑いしながら答えてたけど、俺たちは昨夜の酒豪ぶりを知ってるから、内心ヒヤヒヤだった。


 夕食も終わって、今夜はゆっくりできる最後の夜だ。


「今日はもう酒なしで行こうぜ」


 翔ちゃんが言った。


「昨夜はヤバかったからな。特に雪ちゃんが危険すぎる」


 圭吾も反省してる。浴衣の帯もちゃんと結べるようになってた。


 俺たちは男子3人で温泉に向かった。温泉で汗を流して、今夜は健全に過ごそうと思っていた。


 温泉でゆっくり汗を流した後、俺たちは部屋に戻った。


「今夜は静かに過ごそうな」


 翔ちゃんが言った。


「そうだな。昨夜で懲りたよ」


 圭吾も同意してる。


 でも、その時、女子部屋の方から笑い声が聞こえてきた。


「あれ?女子、まだ起きてるのか」


「ちょっと様子見に行ってみるか」


 俺たちは女子部屋のある廊下に向かった。


 すると、A号室から楽しそうな声が聞こえてくる。


 コンコンコン


 翔ちゃんがドアをノックした。


「は〜い」


 雫の声だ。


 ドアが開くと...


「うわああああ!」


 俺たちは声を上げた。


 部屋の中央に、長野の地酒が数本ズラリと並んでいる。しかも、すでにみんな飲み始めてるじゃないか。


「おかえり〜」


 雪ちゃんが一升瓶を持ちながら手を振ってる。


「雪ちゃん、また飲んでるの?!」


 圭吾が驚いてる。


「今日、観光地で買ってきたんです。長野の地酒、種類がたくさんあって」


 雪ちゃんが嬉しそうに説明してる。


「麗華ちゃんと一緒に酒屋さんを巡りました」


「観光って酒屋巡りかよ!」


 俺たちは呆れた。


「麗華ちゃんも一緒に?」


 翔ちゃんが聞くと、麗華ちゃんが上品に微笑んだ。


「はい。雪さんに教えていただいて、とても勉強になりました」


「『真澄』『八海山』『獺祭』...色々な種類を買いました」


 雪ちゃんが銘柄を説明してる。完全にソムリエだ。


「今夜は健全に過ごす予定だったんだけどな」


「雫ちゃんと恵ちゃんと美香ちゃんはどうなの?」


 俺が聞くと、三人が苦笑いしてる。


「巻き込まれました」


 雫が答えた。


「雪ちゃんと麗華ちゃんの熱意に負けて」


 恵ちゃんも諦めた表情だ。


「せっかく長野に来たんだから、地酒を味わいましょうって」


 美香ちゃんが雪ちゃんの口調を真似してる。


「昨夜で懲りたよ。特に雪ちゃんの一升瓶は危険すぎる」


 圭吾が苦笑いしてる。


「雪ちゃん、今日は大丈夫?」


 雫が心配そうに聞いた。


「ちょっと頭痛が...でも、美味しかったです」


 雪ちゃんが照れながら答えた。まだ酒の話してる。


「あの一升瓶はヤバかったね。清楚系酒豪って新しいジャンルよ」


 美香ちゃんも笑ってる。


 みんなで輪になって座った。


「せっかくだから、また少し飲まない?」


 雪ちゃんが一升瓶を取り出した。


「雪ちゃん、まだ飲むの?」


 圭吾が驚いてる。


「昨夜は途中で眠くなっちゃったから」


 雪ちゃんが照れながら答えた。


「私も少しだけなら...」


 麗華ちゃんも参加表明。


 結局、みんなで再び酒盛りが始まった。


 しばらく飲んでると、雫が俺を見つめて言った。


「けーちゃん、隣に座らない?」


 雫が俺の隣の座布団をポンポンと叩いた。


「あ、うん」


 俺が雫の隣に移動すると、美香ちゃんが急に俺の反対側に座ってきた。


「私もけーちゃんの隣がいい」


 美香ちゃんがニコッと笑って俺の腕に軽く触れた。


(うわ、両側から挟まれてる...)


「そういえば、明日で研修旅行も終わりね」


 恵ちゃんが言った。


「楽しかったなあ。特に美術館での男子の猿っぷりが」


「あれは確かに猿だったわね」


 麗華ちゃんも同意してる。


「でも、一番楽しかったのは昨夜かも」


 雫が俺を見ながら言った瞬間、俺の心臓がドキッとした。


「雫も意外と大胆だったよね」


 麗華ちゃんがからかう。


「えー、私別に...」


 雫が顔を赤くしてる。


 その時、翔ちゃんが圭吾と目配せして言った。


「そういえば、俺たち、お土産買い忘れてたよな」


「あ、そうだった」


 圭吾が合わせる。


「けーちゃん、雫ちゃんと一緒に売店行ってきたら?二人でお土産選びとか」


 翔ちゃんが提案した。


「え?」


 俺と雫が同時に驚いた。


「いいじゃない、二人でお買い物」


 圭吾もニヤニヤしてる。


「でも、売店まだ開いてるかな?」


 雫が心配そうに聞いた。


「9時まででしょ?まだ大丈夫だよ」


 翔ちゃんが時計を見ながら答えた。


「私も行く!」


 美香ちゃんが急に立ち上がった。


「え?」


「私も買い忘れたものがあるの。三人で行こう」


 美香ちゃんが俺の腕を引っ張る。


 翔ちゃんと圭吾の顔が曇った。


「あ、でも美香ちゃん、雪ちゃんと麗華ちゃんの酒談義、聞いてない?面白いよ」


 圭吾が必死に美香ちゃんを引き留めようとする。


「え?酒談義?」


「そうそう、この地酒の銘柄についてとか」


 雪ちゃんが一升瓶を持ち上げて説明し始めた。


 でも、美香ちゃんは首を振った。


「やっぱり私も売店行く!けーちゃんと雫ちゃんだけじゃダメよ」


「私も行きますわ」


 麗華ちゃんも立ち上がった。


「え?麗華ちゃんまで?」


 翔ちゃんが困惑してる。


「お土産選び、楽しそうですもの」


「私も行く〜」


 雪ちゃんまで一升瓶を置いて立ち上がった。


「みんなで行った方が楽しいじゃない」


 恵ちゃんも参加表明。


 翔ちゃんと圭吾が絶望的な顔をしてる。


「あの...俺たちだけで行けばいいんじゃ...」


 翔ちゃんが必死に提案したけど、


「男子だけで行くの?つまらないわよ」


 恵ちゃんが却下した。


「みんなで行こう!」


 結局、全員で売店に向かうことになった。


 翔ちゃんと圭吾の作戦は完全に失敗に終わった。


 売店に着くと、もう閉店時間が過ぎていた。


「あー、もう閉まってるじゃん」


 翔ちゃんが残念そうに言った。


「何時までだっけ?」


 圭吾が看板を見てる。


「21時までって書いてあるね。もう21時半だから...」


 雪ちゃんが時計を見ながら答えた。


「残念〜」


 美香ちゃんが肩を落とした。


「まあ、みんなで来れて楽しかったからいいじゃない」


 恵ちゃんがフォローした。


 部屋に戻る途中、翔ちゃんと圭吾が俺の肩を叩いた。


「今日は完全に失敗だったな」


 翔ちゃんが苦笑いしてる。


「女子たち、全員で邪魔しにきやがった」


 圭吾が悔しがってる。


「でも、雫ちゃんが隣に座ってって誘ってくれたのはよかったんじゃない?」


「そうだけど、美香ちゃんも来ちゃったし...」


 俺が困ってると、翔ちゃんが励ましてくれた。


「学校に戻ったら、改めてチャンスを作ろう」


「そうだな。今度はもっと作戦を練ろう」


 圭吾も意気込んでる。


 部屋に戻ると、女子たちは再び酒盛りを再開。


「売店閉まってて残念だったね」


 美香ちゃんも心配してくれた。


 結局その夜は、みんなで最後の夜を楽しんで過ごした。


 二人きりになるチャンスは全くなかったけど、雫との距離は少し縮まったような気がした。


 俺は布団に入りながら、翔ちゃんと圭吾の言葉を思い出していた。


(学校に戻ったら、今度こそ雫と二人きりになって、ちゃんと話そう)


 そんな決意を胸に、研修旅行最後の夜は更けていった。隣では圭吾が浴衣の帯と最後まで格闘してる音が聞こえてくる。本当に変わらないやつだ。

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