第2章 第4話 - 自由行動とペアリング
研修旅行最終日の朝。俺は頭がガンガンして目が覚めた。
(うわ、二日酔いだ...)
昨夜の飲み会の記憶がおぼろげに甦ってくる。雫、美香ちゃん、と一緒に布団で...
俺が目を開けると、まだ雫と美香ちゃんが俺の両腕で寝ている。
(うわ、まだ寝てる...)
雫は俺の右腕を枕にして、美香ちゃんは左腕を枕にしてる。二人とも寝息を立てて気持ちよさそうだ。
(どうやって起こそう...)
「けーちゃん、起きて〜」
圭吾の声で完全に意識が戻った。
「うう...頭痛い」
「俺もだ。麗華ちゃん雪ちゃんと飲みすぎた」
圭吾も顔色が悪い。
「翔ちゃんは?」
「昨夜から戻ってない」
(ああ、そういえば恵ちゃんと消えてたんだった...)
俺は雫と美香ちゃんを起こそうか迷ってる間に、翔ちゃんが女子部屋に現れた。
「おはよう」
翔ちゃんが俺の状況を見て、驚いた顔をした。
「けーちゃん、それ...」
「起こそうと思ってるんだけど、どうしよう」
俺が困ってると、翔ちゃんが苦笑いした。
「俺たち、男子部屋に戻らないとまずいな」
「翔ちゃん、昨夜はどこに...」
「恵とちょっと話してた」
翔ちゃんがサラッと答えた。
「話って...」
「まあ、色々とな」
翔ちゃんがニヤッと笑った。
(絶対話だけじゃない...)
「雫、美香ちゃん、起きて」
俺は二人を優しく起こした。
「んー...けーちゃん?」
雫が眠そうに目を開けた。
「おはよう...あれ、ここは?」
美香ちゃんも目を覚ました。
「俺たち、女子部屋で寝ちゃったから、男子部屋に戻らないと」
「あ、そうだった」
二人が起き上がって、俺の両腕がようやく解放された。
「それじゃあ、俺は先に男子部屋に戻るね」
「うん、ありがとう、けーちゃん」
雫が眠そうに手を振った。
俺はひと足先に男子部屋に向かった。
ドアを開けようとしたところ、勝手にドアが開いて恵ちゃんが出てきた。
「あ、けーちゃん」
恵ちゃんが満足そうな顔で俺を見た。
「え、恵ちゃん?」
「おはよう♪」
恵ちゃんがサラッと挨拶して、女子部屋の方に歩いて行った。
(恵ちゃん、男子部屋から出てきた...)
俺は部屋に入って、急いで身支度を整えた。
朝食後、先生から今日のスケジュールの説明があった。
「今日は長野市内の自由行動です。善光寺、松本城など、いくつかの観光地を選んで回ってください」
「グループは3〜4人で組んでください。夕方5時に駅前で集合です」
みんなでグループ分けをすることになった。
「俺たちはどうする?」
圭吾が聞いてきた。
「4人だと...雫も一緒がいいな」
俺が言うと、雫がやってきた。
「おはよう、けーちゃん。昨夜はありがとう」
雫が微笑んで言った。
(昨夜のこと、覚えてるのか...)
「あ、ああ...」
俺は顔が赤くなった。
「私たちもグループ組もうか」
恵ちゃんがやってきて、翔ちゃんの隣に自然と立った。
「恵ちゃんと翔くんは?」
美香ちゃんが聞いた。
「私たちは別行動するの」
恵ちゃんがサラッと答えた。
(やっぱり二人だけで...)
「じゃあ、俺と圭吾、雫、美香ちゃんで4人組?」
「それがいいね」
結局、俺たちは4人で善光寺に向かうことになった。
バスで善光寺に到着すると、まず門前町を散策した。
「わあ、お土産屋さんがいっぱい」
美香ちゃんが目を輝かせてる。
「何か買う?」
雫が聞いた。
「おやきとか食べてみたい」
「いいね、俺も」
俺たちは名物のおやきを買って食べ歩きした。
「美味しい〜」
美香ちゃんが頬を膨らませながら食べてる姿が可愛い。
(美香ちゃん、本当に可愛いな...)
「けーちゃん、美香ちゃんのこと見つめすぎ」
雫が俺の耳元で囁いた。
「え?」
「分かりやすいのよ、男子って」
雫がクスクス笑ってる。
(バレてる...)
善光寺の本堂を参拝した後、おみくじを引くことになった。
「みんなで一緒に引こう」
圭吾が提案した。
俺が引いたのは「小吉」。
「恋愛運:焦らず自然な流れに任せるべし」
(自然な流れか...)
雫は「中吉」を引いた。
「友情運:大切な人との絆が深まる」
雫が俺を見ながらニヤッと笑った。
美香ちゃんは「大吉」。
「恋愛運:積極的な行動が幸運を呼ぶ」
「やったー!大吉だ〜」
美香ちゃんが飛び跳ねて喜んでる。
圭吾は「凶」を引いてしまった。
「何だよ、凶って...」
「圭吾らしいね」
雫がからかってる。
善光寺の参拝を終えて、次は松本城に向かうことになった。
バスで移動中、美香ちゃんが俺の隣に座った。
「けーちゃん、昨夜のこと覚えてる?」
美香ちゃんが小声で聞いてきた。
「え、あの...」
「私、けーちゃんの隣で寝ちゃった」
美香ちゃんが恥ずかしそうに言った。
「そうだったね」
「温かくて安心したの」
美香ちゃんが俺の腕にそっと手を置いた。
(うわ、美香ちゃんのタッチが...)
「けーちゃんって、意外と男らしいのね」
「そうかな?」
「普段はおとなしいけど、昨夜は頼りがいがあった」
(酔ってただけなのに...)
松本城に着くと、お城の美しさにみんな感動した。
「すごいね、本物のお城」
雫が写真を撮りまくってる。
「一緒に写真撮ろう」
美香ちゃんが俺の手を引いて、お城をバックに2ショット写真を撮った。
「はい、チーズ」
美香ちゃんが俺の腕に抱きついてポーズ。
(これ、完全にカップルの写真だ...)
雫がその様子を見てて、何か複雑そうな顔をしてる。
「雫も一緒に撮ろう」
俺が提案すると、雫が笑顔になった。
「うん」
今度は3人で写真を撮った。俺を挟んで雫と美香ちゃんが両側に。
(これはこれで、なんかヤバい構図だ...)
圭吾がその様子を見てニヤニヤしてる。
「けーちゃん、モテモテじゃん」
「そんなことないよ」
でも、正直ちょっと嬉しかった。
松本城を見学した後、城下町を散策した。古い街並みが風情がある。
「お蕎麦屋さんがあるね」
雫が看板を見つけた。
「信州そば、食べてみたい」
美香ちゃんも興味を示した。
俺たちは老舗の蕎麦屋に入って、名物の信州そばを食べた。
「美味しい〜」
美香ちゃんが満足そう。
「やっぱり本場は違うね」
雫も感動してる。
圭吾は途中で蕎麦を盛大にすすって、汁を飛ばしてしまった。
「うわ、やべ」
雫の服に蕎麦つゆが少し飛んだ。
「ごめん、雫!」
「大丈夫よ」
雫がハンカチで拭こうとしてるのを見て、俺は咄嗟に自分のハンカチを差し出した。
「これ使って」
「ありがとう、けーちゃん」
雫が俺のハンカチを受け取った時、指が軽く触れた。
(ドキッとした...)
蕎麦を食べ終わって、土産物屋を見て回った。
「何か買って帰る?」
雫が聞いた。
「そうですね~」と美香ちゃん。
俺は雫にお土産を買いたいと思ったけど、美香ちゃんもいるし、どうしようか迷った。
その時、美香ちゃんが別の店に行ってしまった。
「あ、美香ちゃん」
圭吾が美香ちゃんを追いかけて行った。
俺と雫が2人きりになった。
「雫、これどうかな」
俺は信州りんごのお菓子を手に取った。
「可愛いね」
「君にプレゼント」
「え?私に?」
雫が驚いた顔をした。
「研修旅行の思い出に」
「ありがとう、けーちゃん」
雫が嬉しそうに微笑んだ。
「私からも」
雫が木曽の漆器のお箸を俺にくれた。
「これ、高いでしょ?」
「いいの。けーちゃんにはいつもお世話になってるから」
俺たちはお互いにプレゼント交換した。
(雫との距離、また少し縮まった気がする)
美香ちゃんと圭吾が戻ってきた。
「何してたの?」
美香ちゃんが聞いた。
「お土産見てた」
俺がごまかすように答えた。
美香ちゃんが俺たちが持ってる袋に気づいて、ちょっと寂しそうな顔をした。
(あ、美香ちゃんにも何か買ってあげればよかった...)
でも、もう時間がなくて、駅に向かわなくちゃいけなかった。
駅前に着くと、他のグループも集まってきた。
翔ちゃんと恵ちゃんは手をつないで現れた。
でも、翔ちゃんの顔はなんだかやつれた表情をしてる。一方で恵ちゃんは朝よりも肌がつやつやしてて、満足そうだ。
「おお、ついに公式カップル?」
圭吾がからかった。
「まあ、そんなところかな...」
翔ちゃんが疲れたような声で答えた。
恵ちゃんも満足そうに微笑んでる。
(翔ちゃんと恵ちゃん、ついに付き合ったのか)
美香ちゃんがその光景を見て、急に元気がなくなった。
「美香ちゃん、どうしたの?」
雫が心配そうに聞いた。
「あ、別に...何でもないよ」
美香ちゃんが無理に笑顔を作って答えたけど、明らかに落ち込んでる。
(そっか、美香ちゃんは翔ちゃんのことが...)
俺は美香ちゃんの複雑な気持ちに気づいた。
麗華ちゃんと雪ちゃんのペアも現れた。
二人とも頬が赤くて、少し日本酒の香りがする。
「お疲れさまでした」
麗華ちゃんが上品に挨拶したけど、少しろれつが回ってない。
「麗華ちゃんたちはどこ行ったの?」
雫が聞いた。
「善光寺の周辺を散策してまいりました」
「歴史ある街並みが素晴らしかったですわ」
雪ちゃんも満足そうに答えたけど、やっぱり頬が赤い。
(この二人、昼間から飲んでたのか...)
(みんな、それぞれ充実した時間を過ごしたんだな)
帰りのバスで、俺は研修旅行を振り返ってみた。
・雫との距離が縮まった
・美香ちゃんからのアプローチを感じた
・翔ちゃんと恵ちゃんがカップルになった
・麗華ちゃんの意外な一面を見れた
・みんなでの飲み会で新しい関係性が生まれた
(この3日間で、いろいろ変わったな)
特に、雫への気持ちがより強くなった気がする。でも、美香ちゃんの積極的なアプローチも気になる。
(俺、どうしたらいいんだろう)
バスの中で、雫が俺の肩にもたれて寝てしまった。
雫の寝顔を見ながら、俺は自分の気持ちを整理しようとした。
(やっぱり雫が一番だ。でも、美香ちゃんの気持ちも無視できない...)
研修旅行は終わったけど、俺の恋愛の悩みはまだ続きそうだった。
でも、確実に言えることがある。この旅行で、俺は少し大人になった気がする。
(明日からまた学校だ。どんな展開が待ってるんだろう)
俺は雫の寝顔を見つめながら、そんなことを考えていた。