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間が空きすぎたようだ・・・
「ふぅ・・・」
「大丈夫かセルゲイ」
「あぁ、こんなの屁じゃない」
「というか本当に未来の兵器がここを通るのか?」
「さぁ、だが調べる価値はある。そもそもこんな山道をこの時間に通る日本人はそんなにいない」
「来た、しっかりと撮影しろ」
森に潜んでいた2人のソ連人は驚愕する
「あ、あれが未来の戦車・・・」
2両のスリムな形をした戦車、それは2人の目を奪った
「ちゃんと撮ってるか?」
「あ、あぁ」
しかし森に隠れ、偽装していた2人の存在を10式、16式の暗視装置は見逃さなかった
止まる車列
10式の12.7mm機関銃と砲塔が彼らの咆哮を向く
『五十嵐さん、敵発見です。2時の方向』
「総員停車!2時の方向だ!」
ジープから自衛隊員らが下りる
「そこにいるのは分かっている!すぐに手を挙げて出てこい」
『五十嵐さん、彼ら逃げてます』
「分かった。1班は敵を追え!」
「チッ、どうやってバレた!」
「そりゃ未来の戦車だからだろ!」
2人は森を駆け抜ける
「と、止まれ!」
パン!パン!
自衛隊員による威嚇射撃が始まる
「そこのくぼみだ」
2人はそこへ入り、身を隠す
「どこ行った!」
「分からん」
「チッ、いったん撤退!」
2人のソ連スパイは無事に逃げ切ることに成功した
まだ日が昇る前、車列は東千歳駐屯地に到着した
肩の力を抜く隊員達
車庫の中に車列を隠し、上からシートを掛けて隠す
東千歳駐屯地は滝川駐屯地より広く、きれいで設備も整っていた
防衛庁
「不審人物を逃したか・・・」
「はい。逃げられました」
「そう言えば米軍が東千歳駐屯地を視察したいと提案していたが、既に情報が漏れているようだ」
「まさか・・・」
「大丈夫だ。米軍に明かすわけにはいかない。取り合えず安全保障上の理由で視察は難しいと断っておいた。KGBとCIAが既に勘づいている。1年持つかだ」
「こちらでも対策しておきます」
■
東千歳駐屯地の建物の中の会議室
未来の自衛隊員全員と北部方面総監の高本総監と五十嵐、第7師団長の原田が同席する
「ようこそお越しくださった。北部方面総監の高本だ」
「五十嵐です」
「第7師団長の原田です」
「松本ですよろしくお願いします」
「早速本題に入るが、CIAとKGBにバレた」
「やはりあの件ですか・・・」
「あぁ、あれはソ連のスパイの可能性が高い」
「皆さんにお伝えしなければならないのが、アメリカの高官らがこちらに訪問する可能性が高いのです」
「情報が漏れたという事です」
五十嵐の報告に原田が捕捉する
「それで我々はどうすれば?」
「装備品は一時的に演習場に埋めてもらいます。変わりはこちらで用意します。それとそちらの・・・」
五十嵐は木村の方を向く
「木村です」
「貴方には調理員の恰好をしてもらいます」
「調理員?」
「未来では普通でもこの時代女性自衛官はいませんので返って目立つ可能性があります」
「車両はどうします?」
「プレハブ小屋を作ってその中に入れます」
「ぷ、プレハブ小屋ですか・・・」
「はい。仕方がありません。それと、10式戦車のダミーを作って何もないことを証明しようかと」
「なるほど」
「61式戦車の改良型を作るために模型を作っているとの口実で行けば彼らは確信が持てなくなる」
「それなら誤魔化せそうですね」
数日後、隊員を2つに分け、プレハブ班とダミー班で分ける
61式戦車が目の前にあるそのことだけで阿部は興奮が抑えきれない
「米ソ衝突時における、61式戦車の防御力向上に関する実験」と言う題名で木で作った骨組みに木の板、そしてその上に鉄板を張り付けるだけのものだ
車体部分は元の車体に沿ってそのままの感じで作り、砲塔は少し10式戦車に似せた感じで作った
「小学生が段ボールで作った戦車の形だな」
「鉄板のピカピカ感が近未来を連想させますね」
「超重戦車マウスみたいだ」
実際にこれが動くのかと言う問題だが、全く問題なかった
暫く駐屯地内を走り回り、何も知らない隊員を驚かせてしまったのはここだけの話である
「ちゃんと砲旋回もできるな」
あまりの出来の良さに満足する一同であった
一方で木村が指揮するプレハブ班は、10式戦車と16式機動戦闘車の車体の高さが想定より大きく、プレハブ小屋に収まらないと分かったので、急遽木製の小屋を目立たないところに作り、そこで保管する方式に変更した
次の日
二つの隊で交流会をすることになった
時代は1967年、まだ色々厳しい時代という事もあり、明らかに行動に差が出た
今は持てない64式小銃を触らしてもらったりする
「重いですね」
「未来の銃は軽いのか?」
「はい。これより軽くて小さいです」
「ほえー」
そんなやり取りが色んな所で行われる
一方で木村は色んな隊員から質問攻めを受けていた
「なんで自衛隊に?」とか「俺の息子の嫁にならないか?」とか色々だ
それより木村が普通に小銃を扱えることに驚いていた
「すげーな」
「あぁ、しかもかわいいし」
1日もすれば木村は駐屯地内のアイドルである
数日後、米軍の高官らが視察に入る
「よろしくお願いします」
師団長の原田が高官らを案内する
松本らは彼らは高官ではなく、CIAの諜報員であることは予想しており、予め一芝居打つことにする
まずは61式戦車の射撃訓練で一部地区の立ち入りを規制
この規制区域にプレハブ小屋を置くことで、近づけないようにする
「本当に隅々を探すなぁ・・・」
「CIAってのを始めて見ましたよ」
「あそこ、少し見てもいいか?」
「いえ、あれは・・・」
彼らが指さしたのはダミーが入っている車庫
「いや、見せろ」
「あれは防衛機密です!見せるわけには・・・」
原田を突き飛ばし、ガレージを開けようとする
「か、鍵が掛かってますので」
「では持って来い!」
「無理です」
すると、1人がどこかに電話を掛ける
数分後、高本がやって来る
「それでは」
右手には鍵を持っている
「高本さん!?」
「上の命令です。仕方ありません、しかし次はありませんよ」
そう言って車庫を開ける高本
高官らはニヤリと笑う
「なんだこれは?私らが知らない兵器があるが」
「61式戦車に即応装甲をつけた試作車です」
「はぁ?」
そう言って高官らが戦車に近づく
「登ってみてください」
「ろ、61式戦車か・・・」
残念そうな顔をする高官ら
「もういいでしょう?」
撤収していく彼ら
■
「駄目でした。あるにはあるのでしょうが、巧妙に隠されています」
「そうか。ソ連による分裂工作の可能性は極めて低い。これからは警戒にとどめて置け」
「分かりました。引き続き警戒します」
■
極東ウラジオストク海軍港
そこには複数の輸送船が並び、港には大量のT-55が止められていた
兵士が輸送船に乗り込む
「本日行うのは、クリルでの強襲揚陸訓練だ!一歩間違えれば死に至る!心してかかれ!」
米国の軍事衛星はウラジオストクで軍の移動があったことを確認する
その情報は日本にも伝えられる
「海上自衛隊の艦艇は小樽に集めろ」
「軍はどうします?」
「滋賀に配置換え予定だった第10戦車大隊は、滝川に戻るように指示」
「公安にもKGBに警戒するよう指示を出しました」
「了解、体制を整えろ」
(あの未来の自衛隊員らか・・・!)