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10式戦車改
ロシア・ウクライナ戦争の状況を鑑みて、開発が進んでいた
砲塔上部の12.7mm機関銃はリモート化され、ドローン対処用にロック機能付きの30mm機関砲、爆発反応装甲、そしてアクティブ防護システムの取り付けも行われた
西部方面戦車隊の記念すべき第1両は試験的にAIを搭載している
と言っても運転補助、ドローン対処の補助と、対中国、ロシアの兵器知識をチャット方式で教えてくれるものだ
そして東千歳駐屯地でお披露目をした後に、西部方面戦車隊の一行は、演習に向けて駐屯地をでる
何もない北海道の風景
外を見れば辺り一面畑と言ったところだ
LAVを先頭に、16式MCV、10式戦車改、トラック2両の順で走る
「隊長、ザ・北海道って感じがしていいですね」
「あぁ」
LAVに乗っていた隊長は部下との話で盛り上がる
隊長の名は松本
もう中堅だ
10式戦車改(以降10式戦車と呼ぶ)の車長橋本は、ハッチから頭を出し、風を浴びている
前を走る16式MCVの車長岸本も同じことを考えていたようで、ハッチから頭を出す
橋本と目が合い、2人とも笑い合う
そんな平和な時間が続いていた
「うん?」
松本が声を上げる
「どうしました?」
「いや、かなり昔の車が通ってるなぁと」
「えぇ、今じゃ見れませんね」
「どっかで車好きの集まりでもやってのか?」
「さぁ・・・ほんとに昔の車が多いですね」
後部座席でスマホをいじっていた隊員が呟く
「あれ?圏外だ」
それを聞いて松本もスマホを取り出す
「あぁ、ほんとだ。あと少しで市街地のはずなんだがなぁ」
「北海道ではよくある事なのでは?」
「普通に民家もあるし、山に囲まれてないんでそれは有り得ないのでは?」
「いや、おかしいのでは?」
「地図と周りにある者が違うぞ」
「ほら、あそこには郵便局があるはずなのに無いぞ」
「ほんとだ。あっ、あそこの建物も凄いですよ」
異変を感じた3人
突如見えたドライブインに入ることを決める
「何かあったのか?」
「さぁな」
後ろのMCVや戦車の乗組員はそんな事露知らず
松本隊長が「一旦休憩を取る。トイレは無しだ」
「トイレは無しって・・・どーゆことだよ」
「知らん」
松本がLAVから降り、ドライブインの中に入る
「すみません」
「はーい」
すると奥から若い女性が出てくる
松本の姿を見ると、一瞬びっくりしていたが、直ぐに切り替える
「ちょっと電波が悪いものでね。ここは?」
「美唄の北の方だよ」
「あぁ、どうも。あ、あとカレンダーも少し見ても?日付を合わせたくてね」
「あっちに」
松本はカレンダーを見る
カレンダーには5月と書かれており、異常がないことを見て安心する
しかし、その上に書いてある西暦を見て絶句する
「せ、1967ね、年・・・?」
「何をそんなに驚いていらっしゃるの?」
「い、いえ、ご協力感謝いたします」
松本はピシッと敬礼をし、ドライブインを後にする
松本が戻る
「ま、まずい・・・」
松本はこれが夢であってほしかった
「どうでした?」
「ありえない・・・」
松本の憔悴しきった顔をみて、周りが心配しだす
「松本隊長、大丈夫ですか?」
「き、聞いてくれ」
「我々は1967年にタイムスリップしてしまったようだ」
場が凍る
しかし、真面目な松本がそう話すので冗談とは思えなかった
「そこのドライブインでカレンダーを確認したんだ。そしたらカレンダーが1967年になってたんだよ」
「見間違いでは?」
「いや、女の人も1967年と認識していた」
すると、そこへ1台の車が入る
扉から出てきた若い男がこっちを見る
サングラスを取って、「ご苦労様です!」とあいさつした後ドライブインへと入っていく
「「く、車が古い・・・!」」
「先ほどから何台か通り過ぎるが、全部古い車だ。家も!」
「隊長、ここは一旦滝川駐屯地に向かうのが良いのでは?」
副隊長である木村が助言する。木村はこの中で唯一の女性である。冷静で真面目であるが、意外と厳しくないところが他の隊員からの評価が高い
「そうだな。全員予定変更!上富良野演習場から滝川駐屯地に向かう。移動の際は周辺警戒を厳とせよ」
「はっ!」
■
「へい、奈井江交番ですが!」
交番の受話器を巡査が取る
「はぁ、軍服姿の者らがこっちに向かってきてる?」
巡査は少し怠そうに、席を立ち、交番の横にあった自転車を使って、道路を南下していく
「は、はぁっ・・・⁉」
自転車を漕いでいると目の前から車列がやって来る
「ありゃ職質できるもんじゃないよ!」
直ぐに巡査は交番へと戻る
「署長、奈井江交番からです」
「なんだ?」
「あの軍の件です」
「どうだった?どうせいたずらだろ?」
「署長ですか?至急自衛隊を送ってくれ!ありゃ自衛隊じゃないぞ!」
「なんだと⁉」
「自衛隊が持ってる装備じゃねぇ。絶対そうだい!滝川に向かってるぞ」
署長は受話器を置く。
「おい、滝川駐屯地に行け!全員出動!検問を実施しろ」
警察署からパトカーが赤色灯を照らしながら急行していく
何事かと家の窓から外を見る人たち
「大隊長、滝川警察の方が」
「お前ら、何かやらかしたんか?」
「いえ、そういうわけではな・・「言ってみぃ。警察が来るちゅーことはお前らがやらかしたってこやろ?」
そこへ警察官が入って来る
「無礼をお詫びします。直ぐに自衛隊を!」
「はぁっ?どうしたんか!」
「じ、自衛隊ではない軍がこっちに向かってきてます!」
「嘘つけぇ、上陸してんならここに来る前にバレとるやろ」
「大隊長、空挺投下と言う場合もありますよ」
「チッ、防衛省に連絡ぅ、戦車は出撃の準備だけ整えとけ」
「はっ」
「おい、車出せ。行くぞ」
小田大隊長は第10戦車大隊の大隊長である
彼は64式小銃を肩にかけると、部下と共に車で警察が待っているという場所に向かう
警察が南からの道路を封鎖して待ち構える
そこへ自衛隊のジープがやってくる
「その軍と言うのは?」
「奈井江交番からの応援の電話がちょっと前ですから、もうすぐ見えるんじゃないでしょうか」
「そうか。最初の対応はそっちでやってくれ」
「了解です」
段取りをしっかりと確認し合っていると
「き、来ました!」
「仲間の警官が声を上げる」
それを聞いて、その場にいた警察官が全員、道路の先を見る
「な、なんじゃあれ」
軍用車に加え、戦車らしきものがこっちへと向かってくる
「お、おい・・・ありゃ警察の範疇を超えてますぜ!」
大隊長は直ぐに車に戻り、無線機を取り出す
「おい、小田だ!戦車持って来い!」
防衛省の許可なしに戦車を出動させた。
これが世に出れば大問題である。シビリアンコントロールがなってない!と左系の者から大批判を浴びることだろう
しかし、事態は尋常ではない
その場で判断し、戦車が必要と考えたのだ
処分など後回しで良い。そんな考えが彼の頭の中にあった