婚約破棄に無関係の外野
ちっと友人が舌打ちする。
「どうした?」
「あれ」
彼が顎をしゃくる先に見えたものに、舌打ちの理由を察する。
「うわ」
「こんな所で正気か?」
「いつもの事ながら目障り」
学園の中庭の生垣に隠れるように、王子殿下とアバズレ女がちちくりあっている。
王子には婚約者もいるってのに、よくやるよ。
本人達は幸せパラダイスなんだろうが、無駄に気を使わされるこっちの身にもなってほしい。
本当に目障りだ。
とはいえ、同じ男からしたら、ちょっと気持ちもわからんではない。
ほら来た。颯爽と現れた婚約者令嬢が、扇子を開いて王子とアバズレ女を見下ろす。もう高飛車。
「殿方にみだりに触れてはならないと、以前もお話しましたわよね?殿下にも、お立場に合った振る舞いをなさいませと、お話しましたわよね」
言ってる事は100パーセント、婚約者令嬢が正しいって俺は思うよ。
でも俺だったら、こんな上から目線でネチネチ文句言ってくる女は嫌だ。言い方ってあるじゃん?
彼女、一言で言えば高飛車なんだよな。
政略結婚だから王子個人には興味ありませんって態度も、はっきり言ってシラケる。
いくら政略結婚だからって、俺が王子の立場なら泣いてる。正直婚約者があの高飛車女であれば、浮気したくなる気持ちも分かる。
だが、何故そのアバズレ女を選んだのか。その点だけは共感出来ない。
「ふぇぇん、怖いですぅ」
「お前、また彼女を泣かせて!いい加減にしないか!」
「それは私のセリフですわ」
いや俺らのセリフな。あんたら3人ともいい加減にしろ。
いつもの茶番に気分が悪くなった俺達は、中庭ランチを諦めざるを得なかった。
時々噂が流れてくる。
高飛車女がアバズレ女の持ち物を捨てたとか、水をかけたとか、突き飛ばしたとか。
信じたのかって?大抵のやつは信じてないと思う。
だってあの高飛車女だぜ?
アバズレ女の持ち物や、ましてや本人なんて、汚らしくて触るのも嫌!とか思ってそうな、あの高飛車女が、こんなお粗末な嫌がらせするかよ。
そもそも高飛車女は、高飛車なだけで性格が悪い訳ではない。人をいじめるような女じゃない。
せいぜい高飛車女の事が気に入らない誰か、あるいはアバズレ女が流したデマじゃないかな。
知らんけど。そこまで興味もないし。周りもそうだったようで、その手の噂は話題に登っても、3日と持たず消えていく。
アバズレ女、高飛車女、王子。
もう興味もないしどうでもいい。
勝手にやってろ。
今日はいい天気だし、あの3人もいなくて清々しい中庭で、昼食をとっていると。
遅れてきた友人の1人が慌ててやってきた。
「そんなに慌てて、どうしたんだ?」
「ヤバイ話聞いちゃった!」
「ヤバイ話?」
日直だったから、先生に報告に行くとかで遅れて来た彼が言うには、職員室からの帰りにある空き教室に、王子とアバズレ女がいるのを見つけた。
関わりたくないのでスルーしようとすると。
「卒業パーティで婚約破棄するって」
「はあ?」
「嘘だろう?」
「本当に言ってたんだよ!」
友人を疑う訳では無いが、そこまでだったとは、あのバカ王子。
でも、それが事実なら迷惑千万。あの3人と俺達は同じ3年生で、つまり卒業パーティは俺達みんなのパーティなのであって、そんな茶番に付き合わされるなんて、たまったもんじゃない。
どうにか阻止出来ないものか。
でも関わりたくない。であれば、誰かにやってもらおう。
というわけで俺達は、密かにこれを噂にして流した。
他の噂はあっという間に消えたが、これに関してはみんな看過できなかったようで、あっという間に広がった。
ここまで広まれば高飛車女の耳にも入っただろうし、彼女の周辺が動いてなんとかしてくれるだろう。
でも念の為、卒業パーティは俺達卒業生みんなのパーティなのだから、何があろうともパーティを楽しもう!ということにした。
そして迎えた卒業パーティ。
「ミーシャ・タカビーノ!貴様との婚約を破棄し、私はこのエローラ・ズレビッチと、新たに婚約することを、ここに宣言する!」
喧騒に包まれていたパーティ会場が、一瞬で静まり返った。
俺達もドン引きと驚愕で黙り込んだが、パーティを楽しむと決意した俺達の結束は硬かった。
「そういえばお前って財務部に配属決まったんだって?」
「マジかよ!おめでとう!」
「すごいな!エリートコースじゃないか!」
「ありがとう!勉強頑張って良かった」
「くーっ!おれも真面目にやってれば!」
俺達が雑談を再開すると、周りも婚約破棄に関わりたくなかったのか、すぐに元の喧騒を取り戻した。
ちら、と様子を伺うと、無視された事にバカ王子とアバズレ女は困惑し、高飛車女は何やら考えている。
「き、貴様ら!」
バカ王子が何やら喚くので、また静まり返る。
「王子たる私の宣言だぞ!貴様らは受け入れなければならない!」
うっわ、コイツ本当に最悪。
高飛車女との婚約破棄はそこそこ問題だが、アバズレ女との婚約はどうでもいいので、もう好きにしたら?
という気持ちの俺達は、友人の「せーのっ!」を合図に、声を揃えて言った。
「「「「「「「 御意 」」」」」」」
これでいいんだろ。どうせ俺ら下級貴族に出来るのは、御意かハイしかない。
俺達はすぐに雑談を再開した。
バカ王子はまたポカンとした。
そして高飛車女は、喧騒に紛れてバカ王子に何やら言うと、さっさと身を翻して退場した。
取り残されたバカ王子とアバズレ女は顔を見合せて、狐につままれたような顔をしながらも、2人仲良くお菓子を取りに行った。
全く、最初からそうしてろよ。パーティを悪用するんじゃない。
序盤からちょっと嫌な雰囲気にさせられたものの、あっという間に巻き返した卒業パーティは、実に楽しいものだった。なんか知らんけど、勝った気になった。
その後。
高飛車女はやはり出来る女だったようで、しっかり根回ししていた。
高飛車女は公爵家の一人娘だったので、婚約破棄したなら別の相手を探す必要があるが、美人だしお金持ちの公爵家なので、勝手に集まるだろう。
高飛車女が嫌がらせしたとかの噂も、誰も信じてないしすぐ消えたし、証拠もなかったので、なんかもうなにもなかったことになった。
そして王家から莫大な慰謝料をもぎ取ったらしい。公爵家怖い。
王子は数々の言動を問題視されていた。実はかなり前からだ。今回のがトドメになって、離宮に幽閉になった。下手に外に出したら、周りが迷惑だからだろうか。
王太子は既に結婚してるし、バカ王子は第3王子だったから、バカ王子が失脚してもどうにかなるさ。
アバズレ女も一緒なのは、一応は親の情け?
まぁでも、国の金で死ぬまで仕事せず、広い離宮で食っちゃ寝出来るんだから、贅沢な身の上だと思う。
アバズレ女はカッコイイ王子様と贅沢な暮らしをするのが目的だったと思うから、ちょっとあてが外れたかもしれないが、それでも貧乏貴族よりは絶対いい暮らしだと思うね。
さて、学園も卒業して迷惑なメンツが大人しくなり、心機一転。
今日は初出仕だ。到着した王城を見上げる。
すげー。本当に俺合格したんだ。本当に俺、今日からここで働くんだ。
ぽけっと王城を見上げていると、衛兵らしき人に声をかけられた。
「新人、初日から遅刻する気か?」
「えっ、あ!」
「頑張れよ新人!」
「ありがとうございます!」
婚約破棄なんて、当事者からしたら大事件なのはわかってる。でもさ、外野を巻き込むなって話だ。
特にああいう偉い人達は。
俺達は振り回されながらも、なんとか生きていかなきゃいけないんだから、偉い人はしっかりして欲しい。
俺達は「その他大勢」だけど、俺達にだって自分の人生がある。
俺の上司になる人、その上のもっと偉い人が、そこの所わかってくれる人だといいな。
期待と不安を抱えながらも、俺は新しい一歩を踏み出した。
婚約破棄ものを見てて、大体が「固唾を飲んで見守る」みたいな描写だけど、絶対中には「早く終わらないかな、めんどくさい」と考えてる人がいるんじゃないかなと
酔っぱらいつつのリハビリ