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怪しげな依頼

「ちーっす」

 ギルドの自動ドアをくぐり、依頼が貼りだされているボードを眺める。

 ソロ冒険者向けで掲示されているのは、大体下請け案件だった。どこかのクランで受注した仕事の下働きだったり、ダンジョンアタックの雑用だったりする。

 クランはギルドから仲介手数料をとることが認められている。先日の現場もそんな感じでクラン受注分をどこかのチームが下請けし、そのチームの仕事のさらに下請けで雑用係をしたわけだ。

 雑用と言っても戦闘はある。というか、前回の任務は物資の護衛だった。食い物の匂いにひかれてやってくるゴブリンだとかスライムを叩き潰すのが仕事内容である。


「あ、アカツキ君。今日もいい筋肉ね」

 雑談にデフォで筋肉が入るこの残念美人は、ギルド受付のチコさんだった。今日も笑顔でツインテールが決まっている。 

 この人は冒険者をグレードで判断しない。その基準は筋肉だけである。だから誰に対しても同じような笑みを浮かべて対応する。

 俺たちのような下級冒険者からすれば女神のような人だった。その残念過ぎる性癖が無ければ今頃玉の輿に乗っているに違いないというのは皆に共通した意見であった。



「あ、チコさん。おはようございます」

 流れるよう袖をまくりに力こぶを見せつける。ここでうまく筋肉をアピールできれば、日によっては割のいい仕事を紹介してくれる。


「あ、ごめん。今日は上腕二頭筋じゃなくて広背筋の気分だった」

「ひでぶっ!」

 筋肉クイズを外したので今日はろくな仕事がないかもしれない。ということはさすがにないだろうが、毎回のやり取りに窓口の内側では笑い転げているオッサンもいる。


「ああ、シロー君」

「やあ、鈴木さん。お世話になってます」

「うん、ちょいとね。仕事があるんだけどどうだい?」

「仕事?」

「ああ、ポーターなんだが、ダンジョンアタックのね」


 要するにダンジョン内部で荷物持ちの仕事だ。戦闘要員のほかにサポートメンバーそしての参加も経験がある。

「報酬がね……」

 鈴木さんが差し出してきた電卓には普段の仕事より0が2つばかり多かった。え? まじ?


「もちろん金額に見合っただけのリスクはあります。しかし、今回のこの任務は貴方が適任と判断されたのですよ」

 リスクと報酬を天秤にかける。現時点ではリスクのほどは見えてこない。しかし鈴木さんが下した評価はまず外れないと評判である。

 彼の紹介してきた仕事をこなした者はみんなと言っていいほど出世していた。こなせなかったら? そんな冒険者はほぼ確実にモンスターの腹の中だ。


「ぜひ、お聞かせ願いたい」

「いいんですか? 聞けば後戻りできませんよ?」

 にこやかな笑みの裏に凄まじいばかりの圧を潜ませて言ってくる。しかしそれでも、底辺から這い上がるチャンスを見逃すわけには行かなかった。


「それでも、です」

「いいでしょう」


 メフィストフェレスのような笑みを浮かべたまま、鈴木さんはゆっくりと頷いた。背後ではチコさんが誰かの広背筋にエールを送っていた。



「金沢にダンジョンが発現しましてね。困ったことに狭いんですよ」

「なるほど、であれば重量物を運ぶのに俺が適任というわけですか」


 俺は魔力量が多く、さらに魔力での身体強化のスキルを持っている。魔力操作のスキルレベルも高い。普通ならば底辺冒険者をやるようなステータスではない、はずだ。

 ただ問題は……魔力を体外に放出できないことだ。

 だからこそ、今回のような任務で少数のポーターしか投入できない場面では一定の需要があるというわけだ。


「ダンジョンのランクは不明です。つまりに先行偵察隊というわけです」


 先行偵察隊は危険が大きい。何しろ道のダンジョンを手探りで進むわけだ。未帰還率も高い。それゆえの高い報酬なのだろう。

 しかし、何らかの成果をあげればギルドの後見ポイントは大きいし、手付かずのダンジョンには未知のお宝が眠っている可能性もある。


「参加します!」


 乗るしかない。底辺冒険者という肩書におさらばするために、俺は大きな賭けに出ることにした。


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