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ギリシャの魔王

「フゥーハハハハハハハハハハハぁ!!」

 ドアをぶち破って入ってきたのは幼女だった。なぜかふんぞり返り高笑いをあげている。


「ぴいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!」

 俺の横ではカナタがよくわからない悲鳴を上げている。


「あたしのかなたっしゅに何をした―!!」

 手に凄まじい魔力を集中させつつ幼女が怒号を上げる。


『マスター、防御の用意を。あれはちょっとばかりまずいです』

「おい、魔法はほぼカットするんじゃなかったのか!?」

『ドラゴンのブレスは完全には防げません。魔力を回して相殺します』

「ご主人様、お助けええええええええええ」

「まて、その呼び方はなんか誤解を招く!」


 カナタが俺を主人と呼んだ。その瞬間、空気がカチンと固まったような、強烈な緊張感とともに膨れ上がる魔力を感じる。


「おい、貴様」

「あっはい」

「チネ」

 大事な決めセリフを噛んだ。みるみる間に幼女の顔が羞恥で真っ赤に染まる。


「ぴいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」

 カナタの悲鳴がさっきよりも長い。警報機のブザーか。


「龍王の英霊に申し上げる。我が名はアイリーン。汝が血脈を継ぐものなり。辱められし我が朋友の雪辱が為今ここに盟約をもって命ずる」


『アラート。あれが直撃したらボクでも大ダメージを負うと思うんだ。防御態勢をとってねー』


「リーン! やめて! やめてええええええええええええええええええ!!」

「うふふふふー、かなたっしゅ。今そこの変態から解放してあげるからねー。いい子にして待ってるんだよー」

「ちがうの、ちがうのおおおおおおおおお、話を聞いてええええええええええええ」

「うん、だからそこの変態を消滅させた後ゆっくり聞くよ」

「だめだあああああああああああああ!」


 アイリーンってあれか。ギリシャの英雄で大魔法使いの。敵味方構わず吹っ飛ばすからついた二つ名が方向音痴の魔王。

 ってか愛称呼びをするってことと呪文にあった朋友という単語からカナタと何らかのつながりがあるってことか……。


『マスター、なんかあくどいこと考えてますね?』

「いやいや、とりあえず防御態勢を取ろうか。ぬん!」

 両腕をクロスさせ、籠手部分に魔力を集中する。


「だめえええええええええええええええええ!!」

 するとカナタがなぜか俺の前に立ちふさがった。

「かなたっしゅどいて、そいつ殺せない」

「殺しちゃダメって言ってるの! ……話聞いてって何度も言ったよね?」


 カナタの顔から表情が抜け落ちる。額の紋章から魔力が身体を巡って行くのが手に取るように分かった。


「え、それって……」

「うふ、うふふふふふふふー」

「ちょ、まって、ごめん、話聞くから」


 さっきまでと何やら立場が逆転している。

「そうよね。リーンならこれくらいじゃ死なないよね。ちょうどいいから試し撃ちの的になってね」

「え!? ちょ!? いーーーーーやあああああああああああああああああああ!!!」

「マテリアライズ」

 カナタの魔力がシータの分体を核として巨大なハンマーの姿で具現化する。

「うふふふふふふふ……」

「きゃー」

 悲鳴は途中でかき消された。風切り音とともに振るわれたハンマーはぱこーんという見た目とは裏腹な軽い音を発して、ギリシャの魔王を叩き伏せていた。


「きゅう……」


 さすがにここまでの騒ぎとなれば隠ぺい結界なんかごまかしにもならない。あっという間にギルドの職員がすっ飛んできてその光景に目をむいた。

 そこには、作戦の要となる俺と、監視役として派遣されてきたカナタ。そしてカナタのハンマーに叩き伏せられてぴくぴくしている魔王の姿だ。


 ひとまず回復魔法の使い手が呼ばれ、アイリーンが介抱された。カナタのハンマーはアイリーンの魔法防御を霧散させ物理攻撃がそのまま通ってしまったようだ。


 そうこうしているうちにアイリーンが意識を取り戻す。俺とカナタの姿を見るとすごくわかりやすいふくれっ面をしていた。

 話し合いにはギルドマスターのクガネ氏も同席することになり、数名の職員が武装して同席する。

 その姿にアイリーンはやれやれと肩をすくめていた。


「で、なにがあったの?」

「うん、私ね。シロー君の眷属になったの」

 そのひとことに再びアイリーンの魔力が膨れ上がる。同時にクガネ氏の表情も険しくなる。


「どういうことですかな? キサラギ家の令嬢ともあろうお方が……」

「令嬢って言ったって知ってるでしょ? つい先月まで私が孤児だったこと」

「それは……」

「あいつらはね、私にこう言ったの。キサラギ家の一員として義務を果たせってね。そうすれば貴様も一門と認めてやろう、ってさ。なに様なの」

「そりゃー名門様なんだろ」

「ふん、それだったら私はシロー君につくわ」

「なるほどね。かなたっしゅが言ってた良い友達って彼のことなのね」


 アイリーンのその一言でカナタの顔が赤く染まる。内をいまさらだろう。



「じゃあ、あたしもシロー君? につくわー。眷属にしてくれない?」


 その爆弾発言に、クガネ氏はソファーからずり落ちた。

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