8:約束が違う。
髪の毛を鷲掴みにされたまま、引き摺られるようにして、王城の地下牢へと連れて行かれた。
「ラシェル!?」
「うふふふ。少しだけ待っていてくださいませね? ロベルト様」
牢に投げ込まれ、床にドサリと倒れ込んだところで、後ろの方からロベルト様の声とエミリアンヌの声が聞こえた。
本当にロベルト様の目の前の牢屋に入れられたらしい。
騎士の力には絶対に敵わないから、私は抵抗する気はしない。
なのにここまで力任せに扱われるとなると、私はどれだけエミリアンヌに嫌われているのか。
この騎士たちの深層心理は、どれだけ人を傷つけても構わないと思っているのか。
闇落ちに毒され操られていても、心の奥底の大切な部分は侵されない。…………はずだ。王太子殿下は暴力は振るわなかったし、暴力を振るう騎士たちを非難の目では見ていた。
ただ、何故か止められない、といった感じだった。
「兄上!? 約束が違います!」
「……すまない。聖女様がそう望まれた」
エミリアンヌが高笑いを繰り返していると、ガヤガヤとした男たちの騒がしい声が聞こえ始めた。
「ああ、来たわね。汚らわしいから私はこれで失礼いたしますわね。存分に楽しまれてくださいな? ロベルト様」
ニタリと嗤い、王太子殿下を引き連れて地下から出ていくエミリアンヌの姿は、恐ろしいほど美しい見た目に反して、吐き気がするほどに醜かった。
「お前達! 何をしているんだ!?」
「……聖女様の指示です」
濃いもやに包まれた騎士たちは、虚ろな表情でそう言うだけだった。
「ひょぉぉ! マジかよ。こんな若いねぇちゃん、ヤッていいのかよ」
「俺たちへの褒美らしいぜ?」
「向かい側のあんちゃんに見せつけてやれとさ」
「ハッ! すげぇ趣味だなぁ!」
囚人服の男たちの会話で、ロベルト様がこれから起こるであろう未来を察してしまったらしい。
「止めろ! ふざけるな! ここから出せ!」
牢の鉄格子を殴り、蹴り、どうにかやって出ようとしていた。
――――あ、手が。
ロベルト様の拳から血が滲んでいるのが見えた。
牢の鉄格子の隙間から少しだけ手を出して、ロベルト様の手に治癒魔法を掛ける。
「ラシェル…………絶対に助ける! 無駄に力を使うな!」
「大丈夫ですよ、ロベルト様。大丈夫」
ロベルト様の悲痛ながらも、私を気遣う言葉に、心が暖かくなる。
「へっ! こりゃまた感動のシーンだなぁ」
「うははは、それを俺たちが阿鼻叫喚に変えるってワケか」
私は大丈夫。
ただ、このあと、ロベルト様に恐れられるのが怖いだけ。