7:名案とは?
床に倒れ込み、頭を押さえつけられた状態で、聖女様を見る。
視線が合った瞬間、悲しそうな顔でスッと逸らされてしまった。
神は味方だと言ったけれど、今現在は助けに入る気はなさそうだ。
「ねぇ、ラシェル。貴女は明日のお昼に処刑場で死ぬの。どんな気分?」
「…………」
「なんとか言いなさいよ!」
ガツリと顔を蹴られた。
パンプスの尖った爪先が目のスレスレを通り過ぎ、顔に深い傷を付けた。すぐさま治癒魔法を掛ける。
「っ! 本当に憎たらしい女ね!」
ガツリガツリと何度も腹部を蹴られ、踏まれ、口から血が飛び出た。お腹が痛い。たぶん内臓が傷ついた。こっそりと、何度でも治癒魔法を自分に掛ける。
私の口から飛び出た血を見て、エミリアンヌは喜色満面。この場に正常な精神の者がいたら、顔面蒼白になっていただろう。
聖女様のように。
この状況でも助けに入りはしないのだから、聖女様を味方には数えるべきではない。
「エ、エミリアンヌ…………それ以上は…………。明日の処刑前に死んでしまうわ…………」
「フン。どうせこの女は自分で癒やすわよ。本当に、憎たらしいわ」
力いっぱい側頭部を蹴られ、脳が揺れた。耳が熱い。音が遠い。
――――鼓膜、破れたわね。
私の魔力は、尽きない。
だから、何度でも癒やす。
どんなに傷つけられようとも。何度でも治癒する。
そこだけは、エミリアンヌが正しいとも思う。
「はぁ。本当に憎たらしくて、つまらないわね。…………そうだ!」
エミリアンヌがにこりと微笑み、ポンと掌を打ち合わせた。
こてんと首を傾げて言った言葉は、どう考えても聖女から出てくる案ではなかった。
「ロベルト様の牢の向かい側に入れてあげましょう? 性犯罪者と一緒に! どう?」
「「おお、素晴らしい案ですね」」
何がどう素晴らしい案なのかわからない。聖女が、というかそんなの関係なく、普通に思い付いて実行しようなんて思い付く案じゃない。
これには流石に聖女様も慌てたようだった。
「エミリアンヌ、なんてことを――――」
「あら? 元聖女様、なあに?」
「――――何でも、ないわ」
聖女様が何かを言おうとしたとき、エミリアンヌから出たもやが聖女様の周囲を包んだ。
その瞬間、聖女様の黄色い瞳は薄暗く曇り、自我を抑え込まれたような話し方になった。だけど、次の瞬間、もやがふわりと掻き消える。
たぶん、聖女様はもやを浄化できているんだと思う。だけど、エミリアンヌに逆らうとまたもやを飛ばされて、自我を奪われる。
だから、強めに反発できないのね。
聖女様の立場も見えてきた。
「さぁ、連れて行きなさい!」
「「はっ!」」