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5/22

5:正解。

 



 息を切らしたロベルト様が私の方に近付こうとしたとき、エミリアンヌ様が急に起き上がり叫んだ。


「ロベルト様っ! その女に近付いてはいけませんわ!」


 さっきまでの息も切れ切れ、死にかけてます、の演出はどうしたんだろう? と本気で思ってしまった。

 

「エミリアンヌ、急に動いてはなりませんよ。毒が全身に回ってしまうわ……」

「聖女様、大丈夫です。いま御神託がありました。神が私を聖女とする、あらゆる病や怪我を癒やす力を授ける、と仰いました」

「まぁ! 神が直接!」


 クスクスと嗤い続ける声が頭の中に響く。


『だってよ?』


 ――――したんですか?


『してないってわかっているくせに、聞くのかい?』


 確かに。

 私は彼女の言動を一切信じていないし、神は一応たぶん本物の神だとも心の隅ではちゃん理解している。

 

「……どういう、事だ?」


 ロベルト様が怪訝な顔で私を見つめて来る。どう説明したものか。エミリアンヌ様は何が目的で、こんな事をしているのか。これからどんな行動を取るのか、はっきりと分かるまでは行動できない。


「ラシェル?」

「殿下、とりあえず離れてください」


 ロベルト様が騎士たちに腕を引かれ、私から離れるよう促されている。ロベルト様は戸惑いつつ状況を説明するよう命令した。


「ラシェルは闇落ちしました。もとより怪しいと思っていたのです。道を踏み外さぬよう、厳しい言葉を掛け気にかけていたのですが……まさか毒を盛るなんて…………」

「随分と――――元気、だな?」


 ロベルト様、そこは大丈夫かとか声を掛けるべきでは? でも、エミリアンヌ様は気にしていないみたいだからいいのかも。だって、なんだかキラキラとした目でロベルト様を見つめ返しているし。


「ご心配ありがとう存じます」

「……」

「私はこの瞬間より聖女になりましたから、聖女の力で解毒できましたの」

「…………ラシェルにどうやって毒を盛られた?」

「手作りのクッキーですわ。差し入れられましたので、食べて差し上げましたの」

「ラシェルの手作り――――?」


 眉間に皺を寄せたロベルト様が何かを口走ろうとしたとき、教会の身廊がとても騒がしくなった。明らかに大勢が早歩きでここに向かって来ている。

 その先頭にいたロベルト様と似た男性が朗々と命じた。


「ラシェルを捕らえろ!」

「兄上!?」

「陛下の命令だ。ロベルトも魔女に操られている可能性がある! 怪我はある程度構わない。捕らえろ!」


 何が起きているのか。

 段々とわかってきた。

 人々の回りがなんとなくモヤが掛かって見えていた。

 そしてエミリアンヌ様は、皆と反対にキラキラと輝いて見える。


 ――――闇落ちしてるのはエミリアンヌ様。


『せーかーい!』


 脳内に響き続けていた神の嗤い声と、軽い言葉。

 人生で一番、怒りが湧いた瞬間だった。

 



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