3:本当の私。
ロベルト様の右側に寄り添い、歩きながら治癒魔法を発動させる。
後ろでエミリアンヌ様が何かまた騒いでいるが無視でいい。今はこっちに集中しなければ。
「ラシェル、ごめんね」
「はい?」
急にロベルト様が謝られたので何事かと思ったら、エミリアンヌ様の言動に注意が出来ないこと、好き勝手させてしまっていること、私が酷い目にあっているのに、いつも助けてやれないことを続けて謝られてしまった。
「侯爵家の娘なのをいいことに笠に着て、やりたい放題だ。父上の指示で我慢はしているが。正直、不快で仕方ない」
「巻き込んで、申し訳ございません」
「ラシェルが巻き込まれているんだけど!?」
「そう、ですかね?」
確かにしつこく絡まれているし、仕事は投げつけられているけれど、今のほうが都合が良かったりもする。
エミリアンヌ様が私の知らないところで重篤な誰かを癒やしたりしてしまったら、追いかけて治癒魔法の重ね掛けができなくなる。
あの人はあんな態度なのに予想外にチキンだから、重篤な人の治療はほぼしないけど。今日みたいに地位のある人が大きな怪我をしたときだけは、驚くほどに絶妙なタイミングで現れて、出しゃばって表層だけ癒やしてしまう。
「忙しいですが、楽しいですよ?」
「君は優しすぎる」
別に優しくはない。
私は私のお腹の中が真っ黒だということを知っている。
打算的に考えて、エミリアンヌ様が色々とやらかすことを報告していないし、影でこっそり動いているし、大きな秘密もある。
この秘密がバレたら、きっと私は魔女と呼ばれ、石を投げつけられるだろう。
「君の髪と瞳は、夜空のような深い色で、いつも綺麗だと思っている。君の優しさと相まって、私は――――」
「ありがとう存じます」
ロベルト様の言葉を遮って感謝を述べる。
続きを聞いたら、甘えが出てしまうから。
自分の置かれた立場を忘れてしまいそうになるから。
『あーあ。たまには甘えてあげないと。第二王子、凄く凹んでるよ?』
神の余計な一言で、心がざわめく。
「っ――――! ロベルト様」
「ん?」
「……治療、間に合って良かったです」
こんなことしか言えない自分が少し嫌い。
ロベルト様がシルバーブロンドの髪をくしゃりとかき混ぜ、ゆっくりと深呼吸をした。
どうしたんだろう、貧血による目眩でもしたのだろうか、と心配していると少し寂しそうに微笑まれた。
「いつか、君が抱えているものを私も共に抱え、君を支えたい」
「………………なん、の……話でしょうか?」
「忘れないでいてくれ。何があっても、私は君の味方だと」
「……はい」
ロベルト様に触れるだけのキスを頬にされて、頭の中が真っ白になり放心してしまった。ロベルト様はふわりと微笑みながら「ありがとう」と言うと騎士団の建物へと入って行かれた。
歩いている間に治癒は終わったし、何やら騎士団で話し合う事ができたと言っていたから、これ以上付いて歩いても迷惑なだけ。
――――書類と後処理を終わらせよう。