2:第二王子殿下。
聖女見習いの服はとにかく仰々しい。
白いデイドレスのようなワンピース、フード付きの白いロングマント、白い手袋。走り辛い。
息を乱しつつ演習場に到着すると、エミリアンヌ様が第二王子――ロベルト様に治療を施している最中だった。
ロベルト様の右腕が、縦に大きく切り裂かれていた。上腕から前腕にかけて、とても深い傷。おびただしい量の血液。
――――訓練で、何故!?
エミリアンヌ様がスッと立ち上がり、美しく微笑む。見た目だけは天下一品なので、誰もが見惚れている。
「殿下、治療は終わりましたわ。綺麗に治りましたでしょう?」
「………………あぁ、ありがとう。助かったよ」
そんなはずはない。
だって、エミリアンヌ様の治癒能力じゃ、表層の治癒しか出来ないから。彼女は治癒魔法を使えはするけど、弱い。鍛錬も何もしないから、能力向上もしない。
ロベルト様の顔を見るに、絶対にまだ傷が疼いているはずだ。
眉間に深いしわが寄り、プラチナブロンドの眉は吊り上がっているし、翡翠色の瞳は鋭いまま。
左手で右肩を強く握りしめるようにして押さえている。
なのに、誰も何も言わない。
なのに、エミリアンヌ様はぺちゃくちゃと喋り、自分がどれだけ優秀か、聖女にふさわしいかを羅列している。
少し離れたところで見ていたが、ロベルト様の顔色があまりにも悪くなりだしたので、慌てて駆け寄った。
「お顔色が良くありません。血を流しすぎたのでしょう。お部屋で暫く休まれてください」
ロベルト様の右側に寄り添い、こっそり治癒魔法を発動させる。
「あら? ラシェル、今ごろなにしに来ましたの? もう治療は終わってますわよ? これ見よがしの点数稼ぎなんてやめなさい、醜いわよ。貴女の心って、その髪と瞳と一緒なのね。卑しい身分に卑屈で卑怯な性格、本当に醜いわ」
エミリアンヌ様が周囲にいた他の方々に聞こえるように、私をたしなめながら歪な笑みを浮かべていた。
この人はどうしてこうも人を貶めるようなことしかしないんだろうか。髪や瞳が黒いことの何がいけないんだろうか。身分がどうのと言われても、普通の平民の親の下で生を受けたのだから、どうしょうもないし、卑しいとか卑しくないとか何を基準に話しているのかわからない。
隣から大きな溜息が聞こえてきた。ロベルト様に呆れられてしまった。
「エミリアンヌ嬢、少し眩暈がするのでこれで失礼する。貴重な治癒魔法を施してくれて助かったよ」
ラシェル、ありがとう。
ロベルト様が去り際に誰にも聞こえないほど小さな声でそう囁かれた。
まだ治療は終わってないのに。感触としては切れていた大切な神経が繋がっただけだった。あれでは余計に痛むし、少し動かせばまた出血してしまう。右腕が駄目になる。
「付き添います」
「ん」