18:ロベルトが見た世界③
さっきからラシェルが一切私の方に目を向けなくなった。
ラシェルは騎士を脅し牢から出ると、騎士の胸に手を当てた。
「ひっ!?」
「大丈夫よ……」
また寂しそうに微笑む。
あの表情の意味を知りたい。
「あ、え…………私はいったい……何てことを……」
「もしかして、覚えているの?」
「…………っ、大変申し訳ございませんでした」
何が起こったのか良く分からなかった。
だだ、騎士がいつもの態度に戻ったような気がした。
ラシェルが騎士から何やら情報を得ていた。ラシェルと声を掛けても、一切こちらを向いてくれない。
「ありがとう。助かったわ」
「どちらに向かわれるのですか?」
「エミリアンヌを消すわ」
その言葉でラシェルの覚悟が見えた気がした。彼女は一人で戦地に赴くつもりだ。
一人で全てを解決しようとしている。
いつも誰にも頼らないラシェル。
頼む、私を排除しないでくれ…………。
「ラシェル、私も共に戦わせてくれ!」
――――頼む、共に。
たしかに私は役に立たないかもしれない。
聖女見習い――ラシェルの力は計り知れない。エミリアンヌの気持ち悪い力も計り知れない。
足手まといになるかもしれない。でも、君を一人きりになんてしたくないんだ。
「っ……………………」
地上に向けて歩き出していたラシェルの後ろ姿に声を掛けると、一瞬立ち止まってくれた。
だが、俯いて体の横でぐっと拳を握ると、また前を向いて歩いて行ってしまった。
ラシェルを解放した騎士に声を掛ける。今ならば話を聞いてくれそうだ。
「私もここから出せ」
「…………貴方は……いや、しかし……なぜ?」
騎士が戸惑う。
良くわからないが、操られているとか、誰が正気か味方かわからないとボソボソと言う。
「ラシェルを……一人で戦わせたくない。頼む」
「貴方は正気なのですか? 操られてはいない」
「……エミリアンヌに、だな? ということは、お前は操られていたと自覚があるんだな?」
「っ…………はい。自分の意志が捻じ曲げられているような感覚はあるのに、何故かエミリアンヌ様の命に従うことが当たり前だと感じていました」
それではまるで、エミリアンヌが闇落ちした悪女じゃないか。相手を毒し意志を操るという伝説にも近いモノ。
そんなモノと一人で戦うつもりなのか。
――――ラシェル!
騎士を説得し、ラシェルを追った。
道中に呆然としている騎士と所々にある血の跡。だが誰も怪我をしていない。
どういうことかと聞くと、何故かラシェルを襲ったと。剣で。
首を跳ね飛ばしたくなった。
「ラシェル様は一切抵抗されず……ご自身で治癒魔法をかけられ、私を正気に戻してくださいました…………いえ、私たちを……」
「っ!」
血は、全てラシェルのものだという。
そしてラシェルは謁見の間に向かったと言われて、慌てて向かった。
謁見の間に飛び込むと、ラシェルとエミリアンヌが掌を向けあって何かの力をぶつけ合っているような最中だった。
「忌ま忌ましいわねっ!」
「きゃっ――――」
――――まずい!
エミリアンヌの周りにどす黒い何かがぶわりと溢れ出たのが見えた気がした。そして次の瞬間、バチンという音と共にラシェルが後ろに勢いよく飛ばされた。
「――――ラシェル! ウグッ……」
良かった。謁見の間に入ったら、ちょうどラシェルの真後ろだった。
飛んでくるラシェルをしっかりと両腕に抱え、包み込む。
「ロベルト様…………?」
「…………ぶじ、だな?」
――――もう、絶対に怪我などさせない。
ではではまた明日ー。