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17/22

17:ロベルトが見た世界②




 男たちの汚い手が迫りくる中、ラシェルは牢の奥でずっと静かに息を潜めていた。恐怖とは何かが違うような…………?


「止めろ! ふざけるな! ここから出せ!」


 牢の鉄格子がこんなことで開くわけがないとわかっている。だが、何かせずにはいられなかった。鉄格子を殴り、蹴る。

 拳の皮膚が剥けようと、骨から変な音が聞こえようとも。


「手が…………」


 牢の奥にいたラシェルが、入り口から遠い方の鉄格子の側に移動してきた。隙間から手を伸ばし、私に治癒魔法を掛けてくる。


 ――――こんな時まで!


「ラシェル…………絶対に助ける! 無駄に力を使うな!」

「大丈夫ですよ、ロベルト様。大丈夫」


 ラシェルは寂しそうに笑った。

 こんな時に、何故そんな笑顔をするんだ!


 いつも彼女は自分を犠牲にする。

 どんなに大変なことでも、たやすく飄々とやってのける。

 だから皆が『あの娘は言えば何でもする』と、無理難題を押し付ける。


 大切にしたい存在なのだといつも伝えているのに、スルッと躱して一歩引き、寂しそうに微笑むだけだった。


 こんな時まで、そんな顔を向けられたくなかった。

 たしかに、私は牢に入れられている。

 なんの助けにも、支えにもなれない。


 こんなにも悔しいことがあるか!

 こんなにも腹立たしいことがあるか!

 鉄格子を殴りたい。だが、ラシェルが治療してくれた。ラシェルの優しさを力を無駄にしたくない。


 ――――悔しい!


「へっ! こりゃまた感動のシーンだなぁ」

「うははは、それを俺たちが阿鼻叫喚に変えるってワケか」


 下衆な男たちが、下卑た笑いを溢しながらラシェルに近付いていく。

 その娘に触るな!


「止めろ!」


 どんなに殺気を込めて叫ぼうとも、なんの役にも立たない。


「ほらほら、ねぇちゃん、奥から出ておいで」

「怖くないよー?」

「うははは! 無茶言うなや! 兄ちゃんの目の前でイイ声で鳴いてやりな?」


 男たちが牢の隅にいるラシェルを捕まえようと、薄汚い手を伸ばしていた。

 怨嗟の言葉しか湧き出ない。

 ラシェルに聞かせたくない、醜い言葉ばかりが溢れそうになる。


「申し訳ありません」


 ラシェルがフゥと溜息を吐いて、そう呟いた。

 いったい何に謝っているんだ?


「お? 観念したか? 抵抗してくれたほうが、楽しくはあるんだがな?」

「いえ。本当に、申し訳ないと思っていますが、奪わせていただきます」


 この時、地下牢でことの成り行きを見ていた全員が、ぽかんとしていたと思う。


 ラシェルが先頭に立っていた男の胸に、そっと掌を当てた瞬間、男が膝から頽れた。


「「は?」」


 目の前で起こったことに理解が及ばない。

 なのにラシェルは倒れた男を見て、興味深そうに呟いた。 


「……なるほど、こうなるのね」


 頽れた男はやせ衰えた老人のような色と見た目になっていた。ついさっきまでは筋骨隆々としていたはずなのに、だ。


 ――――死んだのか?


「もう少し、調節してみるわ。死なない程度に」


 そう言うということは、男は生きているのだろう。

 ラシェルが残りの男二人にも掌を向けた。そして、先程の男と同じようにドサリと倒れ込み尻もちをついた。

 二人もまた老人のような見た目に変わっていた。


「調節が難しいわね……」

「魔女だ……」

「あ、あ、あ、悪魔だ」


 囚人の男たちが、騎士たちが、そう呟くとラシェルがまた寂しそうに笑った。


「ラシェル? いったい、何を……」


 ――――君は、何を隠しているんだ?




ではでは夜に!

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