15:最終決戦。
今日、何度目かの覚悟を決めた。
【人は、みな尊い。
すべての民の命は、平等である】
私たち聖女見習いは、そう教えられてきた。
癒やしの魔法を持った者は、すべからく教会に所属し、すべての民を平等に想い、病や怪我を治癒することが当たり前だと思っていた。
八歳で聖女見習いになって十五年、ずっとそうあるべきだと思っていた。
だけど、もういい。
隠し続けていたこの力を使うと決めたからには、全力で挑む。
――――覚悟なさい!
スッと両方の掌をエミリアンヌに向けた。
ありったけの力を込める。
やはりと言うべきか、先程と同じく反発してエミリアンヌの生気を引き寄せられない。
ならば、他から力を持ってきて上回るだけ。
先程の感覚を思い出す。
無我夢中だったけど、気付いたこともあった。
地下牢で吸い取った囚人たちの生気、謁見の間に入るまでに吸い取った生気など、先ずそれらから出ていき、治療に充てられていた。それらがなくなってから、私の生気がロベルト様に渡って行った。
自分の生命力を攻撃力に変換すればいい。
『それをして、どうなるかは…………神であるボクにも解らないよ?』
――――はい、承知しています。
たとえこの命が尽きようと、エミリアンヌだけは許さないし、逃さない。
「っ!? どこからそんな力が――――」
反発しあい拮抗していた力が徐々に崩れだした。
エミリアンヌの薄汚れた生気が僅かに流れ込んでくる。吐きそうだった。胃の奥底をぐじゃぐじゃにかき混ぜられているような、内臓を素手で触られているような気持ちの悪いもの。
そんな気持ち悪いものを自分の中に入れながら、自分の生命をどんどんと削っている。
とても妙な感覚だった。
遠くでロベルト様の声が聞こえる。
何を言っているのか、解らない。声がちゃんと聞こえない。
ただ、生命力を変換すれば変換するほど、エミリアンヌの生気を大量に奪えるようになった。
「やめてよ! せっかくここまで来たのにっ!」
エミリアンヌがどんどんと年老いていく。
シワシワになり、腰が曲がり、やせ衰え、自慢であったろう金色の髪の毛が白くなり、パラパラと落ちた。
ドサリと床に倒れ込んでも、奪うことは止めなかった。
エミリアンヌが骨と皮のようになり、パラパラと崩れ始めた。
「い………………や……」
はくはくと口が動いているが、もう何も聞こえない。
エミリアンヌの崩壊は進む。
そして、砂になり消えた。
――――終わった。
そこで私の意識はブツリと切れた。