13:死んだら、だめ。
ロベルト様が私を庇おうとしてなのか、王太子殿下を私から庇おうとしてなのか…………両方なのか。
私に剣を向ける王太子殿下の前に立ちはだかったロベルト様。
気付けば剣が胸から背中に貫通していた。肋骨の治療も途中だったのに。
王太子殿下は剣から手を離し、時が止まったように呆然としている。
謁見の間にいなかったような気がしていたけれど、エミリアンヌがどこかに隠していた?
――――いまはそれよりも。
「ロベルト様……すぐ、助けます。死んだら、だめ…………」
ロベルト様が力なく笑った。
声にならない声で何かを言っているけれど、わからない。治癒魔法を掛け続けているけれど、胸の剣が邪魔。
「殿下! 王太子殿下!」
彼にもエミリアンヌの毒はしっかりと回っているようだけれど、もやは薄く、時々覚醒しているようにも見える。
一番近くにいて腕力のある彼に、剣を抜いてもらうしか方法がない。
「でぇんかぁ? こちらに戻って来なさい?」
「っ、ぐ……」
エミリアンヌのねっとりとした甘い声を聞いて、王太子殿下が呻き頭を抱えた。また毒を注ぎ込まれているのだろう。
これでは王太子殿下を頼れない。
でも、なぜ?
これだけエミリアンヌの毒に侵されているのに、あんなにももやが薄く、時々覚醒しているのだろうか?
『彼も時々大きな怪我をしていただろう? そして、その時は君が治療をしていたからね』
――――彼も?
『そう。彼も』
色々と辻褄が合ってきた。
エミリアンヌの毒に侵されても、もやが薄い人たちがいた。
特にロベルト様は全く感染しなかった。ずっと頭の片隅で不思議には思っていた。なぜ彼だけ正気でいられるのだろうと。
私の魔力が治療をした人たちの中で生きている。
そんなの、エミリアンヌの毒と何が違うのだろうか?
『全然、違うよ。ほら、見るんだ…………彼女の覚悟を』
――――彼女?
誰かがエミリアンヌの前に立ちはだかった。
「何よ?」
「これ以上は自由にさせません! ラシェル、こちらは食い止めます。殿下の治療を!」
「っ、聖女様…………」
老齢の聖女様が、エミリアンヌに両手を向け何かをしていた。立ち上がっていたエミリアンヌの身体がふらりと揺れ、王座にドサリと座った。
「……なに、これ…………眠気?」
眠気? もしかして、聖女様のみが使える治療の際の補助魔法だろうか?
『正解。彼女が抑えている内に。ほら、早く。長くは持たないよ』
歴代の聖女は、固有魔法のようなものを持っているという。今代の聖女様は、治療中の痛みを和らげるための睡眠魔法。
こんな使い方も出来たのね。
「なんだ……これは…………」
聖女様がエミリアンヌの意識を朦朧とさせてくれたおかげで、呻いていた王太子殿下が覚醒した。
「殿下! ロベルト様の剣を抜いて!」
「しかし、これは……」
「いいから早くして!」
地位とか立場とか全てを取っ払い、叫んだ。その気迫に押されたのか、王太子殿下がロベルト様に刺さったままだった剣の柄を握り、コクリと頷いてくれた。
――――絶対に、助けます。