12:拮抗する力。
ロベルト様が、逃げ惑う貴族たちを掻き分けて、謁見の間に飛び込んできた。
ドサリと倒れ込む教皇様と私を交互に見て、眉間に皺を寄せた。
――――あ。
心が絶望に染まる。
『ラシェル―――』
神の心配そうな声が脳内に響く。
大丈夫ですよ、と心の中で語りかけた。私はこれくらいで闇になんて染まらない。それに、今は目の前のことに集中する時。
エミリアンヌに掌を向けると、彼女も同じように私に掌を向けてきた。彼女の生気を奪おうとしたけれど、磁石の極のように反発して引き寄せられない。
右腕全体がまるで稲妻が走っているかのように痛む。
「っ……」
「忌ま忌ましいわねっ!」
「きゃっ――――」
エミリアンヌからどす黒いオーラがぶわりと溢れ出した次の瞬間、バチンという音と共に、強大な力に体全体が跳ね返された。
身体が宙に浮き、勢いよく後方に飛んでいくのが自分で解る。
この勢いなら謁見の間の壁に当たり、大きなダメージで気絶するだろう。
「――――ラシェル! ウグッ……」
予想外の声、予想外の衝撃。
「ロベルト様…………?」
私が壁に激突する直前に、ロベルト様が私を後ろから抱きしめ、壁との間に入ってくれた。
背中に感じたのは、柔らかさとロベルト様の肋骨が何本も折れる感触。
そろりと振り返ると、ロベルト様は柔らかな微笑みを湛えていた。
「…………ぶじ、だな?」
ゴフリ。
ロベルト様の口から、大量の血液が溢れた。
壁伝いにずるりと床に滑り落ちながらも、彼は私を抱きしめたままだった。
「っ!」
急いでロベルト様の腕から抜け出し、エミリアンヌに背を向けて、ありったけの力をロベルト様に送り込んだ。
死なせない。絶対に死なせない。
私はどんな怪我だって、病気だって治せる。
死んでさえいなければ。
だから、一瞬でも早く治療しなければ。
肋骨の骨折、吐血。
考えられるのは、折れた骨が肺や心臓に刺さること。
もし心臓に刺さっていたら、一瞬が命取りになる。文字通り。
「あー、あー、あー! 本当に、忌ま忌ましい女ねっ!」
後ろからエミリアンヌの声が聞こえる。何かがこちらに向かって来ている気がする。
視線と右手はロベルト様の治療をするために絶対に逸らさないと決めた。
左手には生気を奪う力を宿し、後ろに向けた。
「――――あに、うえっ!」
ドン、とロベルト様に押し退けられた。
そこからは全てがスローモーションのようにゆっくりと動いていた。
床に倒れ込みながらも、ロベルト様を視線だけで追いかけた。
膝立ちで両手を広げ、まるで私を守るかのような格好のロベルト様。
プラチナブロンドの髪から、石鹸の柔らかな香りが漂って来たのが、いやに生々しい。
ロベルト様の広い背中の右側から、赤く染まった銀色の鋒。
「っ、いやぁぁぁぁぁぁぁ!」