11:悪虐の限り。
王座で尊大な態度を取っているエミリアンヌを鼻で笑う。
それだけで、彼女は顔を真赤にして金切り声で叫びだす。
「その闇落ちした悪女を捕らえなさい!」
「エミリアンヌ様、貴女って本当に頭が悪いですね。書類仕事ができないのは置いておくとして、治癒魔法なんて、入ったばかりの幼い聖女見習いでもまだ癒せるし、もっと計画的に物事を考えられますよ」
――――まぁ、皆気づいてはいただろうけど。
私がそう言った瞬間、騎士たちはソッと視線を逸したから。国王陛下や教皇様も一瞬だけ覚醒したように私を見た。
きっと私の言葉でエミリアンヌの心が揺らいだから。怒りで。
「平民出の下等生物のくせに!」
「あら怖い。醜い本性が出てますよ?」
「っ――――、早くその女を捕らえなさいよ! その女はこの国を駄目にする悪女なのよ!」
悪女悪女悪女。
そこまで悪女と呼ぶならば、隠し続けていた本領を発揮してあげよう。
私を捕らえようと怖ず怖ず近付いてくる騎士たちに掌を向ける。
さっき三回試したから、なんとなくコツ的なものは見えた。
生気を吸い取るだけなら、触れずに出来る。
掌が温かくなった瞬間、止める。
「え、あ?」
「ごめんなさいね、そこで大人しくしていて?」
騎士が膝から崩れ落ちる。足腰に力が入らなくなったのだろう、尻もちをつき呆然とこちらを見つめてきていた。
たぶん、一週間程度の疲労を与えられたんだと思う。たぶん。神がそう言うから。
検証ができないので、今は神の言葉をある程度信用することにした。
『ほんと、扱いが酷いよね』
神の言葉には返事をせず、こちらに向かって来ていた騎士たちに掌を向け、次々に生気を奪った。ほとんど流れ作業のように。
次々に倒れ込む騎士たちを見て、集められていた貴族たちが泣き叫び我先にと謁見の間から逃げ出し始めた。
――――それでいい。逃げなさい。
エミリアンヌに余計な力を与える者は、少ない方がいい。
出来れば倒れ込んだ騎士たちも連れて逃げてほしいけれど、騎士は騎士の矜持があるから、この場から逃げることはないだろう。
私がここから逃げ出さず、悪虐の限りを尽くすと決めたように。
「申し訳ございません。猊下」
高齢の教皇様にはかなりきつい措置だとは思う。だけど教皇様からエミリアンヌに流れゆく金色のオーラは、尋常ではない量だ。それを断ち切りたい。
教皇様にスッと掌を向け、生気を奪った瞬間だった。
「――――ラシェル!」
見られてしまった。
一番見られたくなかった人に。
「ロベルト、さま…………」