10:闇落ちの能力。
地下牢から抜け出し、単身で王城の一階を歩いていた。
私の脱走に気付いた騎士たちが捕えようと襲ってくるが、怪我をしつつも騎士たちに触れ、もやを祓い続けた。
『手際が悪いなぁ』
――――煩いです。
正気に戻った騎士たちに話を聞くと、エミリアンヌは謁見の間で王族や有力な貴族たちを集めて何かをやっているとのことだった。
毒に侵された人が増えれば増えるほど面倒なことになる。
走って走って走って、謁見の間の入り口にいた騎士のもやを払い、謁見の間に飛び込んだ。
「っ!? なんでアンタがここにいるのよ!」
「…………っ、ふぅ。それはこっちのセリフなんですけれど」
なぜかエミリアンヌが国王陛下の椅子――王座に座っていた。
国王陛下は、その横に無表情で立っている。そして反対側には教皇様。二人は誰よりも濃いもやに包まれていた。
国と教会のトップがエミリアンヌに陥落している。
――――いつの間に。
『…………ごめん。闇落ちは偽装能力が高くて……気付けなかった』
珍しく神がしおらしい声を出した。どんなときでも尊大な態度のくせに。
『ちょ、酷くない?』
もしかしたら、闇落ちは神に対抗する手段なのかもしれない。神をも騙せる能力か…………。
『…………止めてよね?』
――――まぁ、今は、その必要性は感じていませんよ。
『今は!? 今は、なの!?』
やはり神は煩い。状況を見てから騒いで欲しい。
エミリアンヌからは相変わらず煌々しく金色の光に包まれている。これだけ見たら、彼女の方が聖女だなと思う。
だけどその金色は、彼女に吸い込まれている。ということは、あの金色は周りの人たちのものなのだろう。
『正解。あれは人間の清い心だよ。大なり小なりの差異はあれど、誰しもが持っているもの。それは、人々が人々を想う心。闇落ちはそれを喰らい、毒を撒き散らかす。その毒で人々の心を侵していく。どうしょうもない存在だよ』
――――迷惑ですね。
他人を巻き込まないで欲しい。
ここまで来ても、エミリアンヌの狙いがわからない。だけどこれ以上放置も出来ない。
私はこの国に、教会に、聖女様に救われたから。
ロベルト様のおかげで人を大切に思う気持ちの他に、愛も知れたから。
全ての人に恐れられても構わない。
私の心の汚さを、残酷さを知られてもいい。
エミリアンヌを屠り、皆を元に戻してみせる――――。