- 絵葉書の秘密2
「鳶は依頼で入った山奥である廃屋を見つけ、試しに入ってみたんだそうだ。馬鹿だねえ、さっさと帰ってくれば良いものを」
「寂しかったんですよね、お師匠様」
「こら。…その廃屋は山に住む者、妖や幽霊たちからも怯えられていてね。なんでもそこに入れば二度と帰って来れないらしいと」
「怪談話ですか」
「近くて遠いかな。そこで見つけたのがその廃屋に入ったモノの“魂を喰らって生き続ける絵葉書”さ。鳶はすぐに破棄しようとしたんだが絵葉書に棲む者にひどく懇願されたようでね。あの爺さんと相談して決めたんだそうだ。爺さんの店で喰らった魂の個数×年分療養することを約束できるなら破棄しないと」
「その年数が経つ頃には絵葉書に棲む方は死んでしまうんですか」
「いいや、力を失ってただの動く絵葉書になる予定だった。予定だったんだ」
お師匠様は再び視線を尖らせて依頼主を見た。
あんなに怒っているお師匠様のお顔を初めて見た。
「それをあんたが台無しにした」
「わ、私とその話に一体何の関係があるのです?私は」
「そこまで物分かりの悪い人じゃあないだろうが。呆けたふりをするんじゃねえ」
「彼女が…そんな妖だと本気で仰るんですか」
依頼主は震える声でそう尋ねる。
「ああ、残念ながらな。魂を齧られている自覚なんざないだろうが言い方を変えたら思い当たる節があるんじゃねえか」
鳶さまは意地悪な笑みを浮かべて依頼主の前に置かれていたもうすっかり冷めたお茶を呷った。
「俺があんたを見付けたのはどこだったか覚えているか」
「え?…すみません、記憶になくて」
「この店と駅のちょうど真ん中。道のど真ん中でただ雨に打たれながら突っ立ってた。その額縁を胸に抱いて、何を見るでもなくぼけっと」
「そうでしたか?」
「ああ、まるで何かに魂でも抜き取られているのかと思ったよ。実際そんな警戒心ゼロのあんたにはそういった類のものが集まってきてはいたが…あんた鴇に感謝しとけよ」
「…なぜです」
「だってあんたの服に染み付いたその香は妖除けのお香だ。あんたが酷い目に遭わないようずっと焚き続けてくれていたから今あんたはまだ無事でいる」
そういえば、お師匠様が言っていた普段とは違うお香。嗅いだことのない独特の香り。
「私の…ため…」