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- 虚の方舟

鳶はほうっと感心した声を上げ、依頼主はまじまじとアサギを眺めている。

「おや、今はまだ先住民がいるみたいだね?」

「そうなんだ。彼女には今から虚の方舟に入ってもらう予定だよ」

「おや、それはまあ…移動の手段かい?」

アサギは何かを察したように頷いて、それならしばらく僕は帯留に戻っていようと浅葱色の中に溶け込んでいった。

「さて、依頼二つ目に移ろうか。鳶、額縁を此処へ。お前は虚の方舟を此処へ」

鳶が客間に置かれていた額縁を持って来るのを見計らい、弟子が虚の方舟を私の傍に運んでくる。方舟に小さくノックをすればその音と同じ数のノック音が返ってくる。どうやら準備万端らしい。

「さて、お嬢さん。一応聞くがお前さんの依頼は《男の願いを叶えたい》だったな?」

絵葉書の女は何も答えない。しかし、私はそのまま話を続ける。

「男の願いは《絵葉書の女を元居た店に返す代わりに欠けた魂を元に戻す方法を知りたい》だ。お嬢さんは元居た店、つまり爺さんの店に帰らねばならない。しかも当初より養生期間が伸びたわけだ」

絵葉書の女は額縁を大きく揺らす。抵抗のつもりなのだろうが、額縁を持つ鳶のせいで何も出来ないでいる。

「お嬢さんには今からこの虚の方舟に入っていただく。爺さんの店までの仮住まいだ」

「入らねえっつうんなら俺がここであんたを端から焼いて炭にしちまうが」

鳶はそんな恐ろしいことを平気で宣って額縁の中の絵葉書を剥がしにかかる。依頼主の目が揺らぐ。そんな乱暴をしないでくれと言いたげな顔だ。

「さあ、此方へ」

虚の方舟の入り口を開けて絵葉書の傍へ寄せれば、お嬢さんは迷うような動作の後思い切ってその中に飛び込んだ。ちゃぽんと水音がする。私はその音を聞いて入り口の蓋を閉じた。これで依頼主は今誰にも憑かれていない空き部屋になった。

「さて、これでお前さんは空き部屋だ。アサギを常に身に着けて。どこに行くにも必ず。もし市外に訪れる際に彼を忘れたら取って喰われるかもしれません。喰われた後は私達にもどうもできぬのでご注意を。鳶や、私と一緒に行ってくれるか」

虚の方舟を持って依頼主と鳶を見る。鳶は仕方がないと大きなため息を吐きながら立ちあがり弟子に向かって帰ったら熱燗がいいなと言付けている。

「お前さんも爺さんに言わなきゃいけないことがあるだろう?支払いは全て終わってから頂きますからさあ立って。いけ好かない爺の店へ参りますよ」

依頼主もいやに重い腰を上げて客間を後にする。降っていた土砂降りの雨もいつしか止み、朝日が昇りかけている。

「おやおや、徹夜だったか」

お気に入りの革のショートブーツを履いて店を振り返る。

「昼までには帰るとするよ。昼餉を四人分頼んだよ」

「かしこまりました。皆さまお気をつけて」


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