プロローグ 『望み』
親父から譲り受けたのは星空が閉じ込められた懐中時計だった。その懐中時計には流れ星を餌とする龍が住んでいた。
昔々、語り継がれる伝記には流れ星を食す龍は元々北の空を住処としており人々にも崇められる良き関係を築いていたという。しかし其れも過去の事。龍という生き物すら空想のものとして捉えられ、信仰心も薄れ、その姿を目に捉えられる人間は殆ど存在しない。住処をなくし、生き場所のなくなった龍は偶然出会った魔術師に己を何処かに留めて欲しいと願ったそうだ。
『わたしは簡単に死ぬ事はないが、このままいけば誰にも知られぬまま淋しく孤独に、夜空の星屑となって消滅することだろう。お主と出会えたも何かの縁、わたしを何処かへ留めておくれ…』
魔術師は龍の願いを聞き入れ、懐中時計に北の空に広がる星々と共に留めた。自身がその生を全うする最後の刻まで龍と各地を巡ったという。
そうして今、龍は親父が営む骨董店に辿り着いた。龍がうちに来た日の事は今でも鮮明に憶えている。我が家に見たことも無い数の星の雨が降った。
シャランシャランと雪が舞うような軽やかで涼し気な音が鼓膜を揺らした。幼かった私はこの夢みたいな出来事をこの先も忘れないよう親父に隠れこっそり、カメラに残したものだ。その写真は今でも大切に仕舞っている。
うちに来たのも何かの縁と親父は何年か前に私に懐中時計を授けた。龍はまだ私の前には現れはしないが悔しいことに親父とは時折お茶をする仲だそうで。いつの日か自分もそんな相手になれるよう、懐中時計を磨く日々である。
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