第2話 ささやかな日常
30分の授業も終わり、帰路に着こうとしたところである。
「ライさん、随分と優雅な出勤ですわね」
知り合いの、竹野ひじりが話しかけてきた。
「おかまお嬢言葉きもい、竹野ひじき。」
「あーあ、俺のカバーガラスのハートが砕け散った、もう友達やめる。」
「友達だったのか、知らなかったよ」
そう、こいつはただの知り合いだ。
「ひっでぇな」
顰めっ面になったひじきには正直少し笑えた。
こいつは高校一年から何故かずっと同じクラスで、特に浮いた話のないインキャぼっちだ。
まあこの私もその代表格なのだが。
「んで、なんで遅れたん?」
「俺の目の前で、人身事故。正直まだふわふわした感じで実感ない」
するとひじきは3歩下がって頭を下げた。
「そんな重いこととは知らず、大変申し訳ございませんでした。」
すごく真面目に謝られ、周りの人たちも少しこちらを見ている。
こういうとこなんだよ。別にどうってことないんだけどさ。いいやつなんだよな。
「うむ、今後は気をつけるように。」
「はい!!!」
「まあそんなに気にすることじゃないけどな。」
「いやでもよ、目の前やろ?その、怖いやん?思い出しちゃったかも知らんし。」
「別に平気だよ、現実味なさすぎてよく分からんって言ったじゃん」
「それならいいんだけどよー」
まだ申し訳なさそうにしてる。やっぱいいやつだな。
「この話は終わり。帰ろうぜ。」
「おう、焼きそば食べに行こうぜ。」
急に何を言い出すんだこのアホは。
「急に何を言い出すんだこのアホは。」
「アホはないだろ!アホは!!」
「すまん口に出てた」
「やっぱお前とは焼きそばいかねえ。」
あららすねっちゃったね。ガキかよ。私は彼のことをとても面白い人だと思う。
こんな何気ない会話でさえ人を楽しませることができるのだ。ある意味才能ではないだろうか。
「お前が奢ってくれるなら許してやる。」
「一緒に行かないんじゃなかったか?」
「だって、お前しか一緒に行く相手、いないんだもん//// 」
「きっっっも!!やめろよそれまじで。絶対一緒に行ってやらねえ」
「ぴえん」
「きも」
前言撤回だ、やはりこいつはただきもいだけが取り柄のアホだ。
そんなこんなしながら結局私は焼きそばを食って帰った。
ひじきがいうほど焼きそばは美味くなかった。当たり障りのない普通の味だった。
あいつは、どうやら常連のようで店長さんとも知り合いのようだった。
何やらごぼうを入れたらどうだの、紅生姜をラッキョウにするとかどうだの頭の悪そうな会話が聞こえてきたが全部忘れることにした。
もうすぐ今日が終わる。日は完全に落ち良い子は寝る時間だ。
私はもう少し今日起こったことについて考えてから寝ることにする。
いったいあの影のようなものはなんだったのか、あれは私の幻なのか、それとも現実なのか。
考えても何も分からなかった。
ただはっきりとあれが私を認識し、私に対して言葉を発したということだけが脳の中に直接刻み込まれた。
夜もふけ、日付が変わろうとしている頃、私は眠りに落ちた。