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4話「湿地の戦い2」カット22

———◆◇現実世界から仮想世界へ◆◇———


「あ……」


再び目を覚ました時、その世界は極彩色に彩られた目を見張る光景で私を出迎えたのである。


色は紅葉を豊かに染め上げ、風が風景の彩りを変え、幾重にも重なっていく。透き通った川底に落ちた影と水面のきらめきが表情を変えてゆくのがいつにも増してはっきりと感じられた。


「空気が美味しい」


今日はすることが無いので血盟(クラン)に来ていた依頼をする事にし、言われた場所へ向かっていた。リュシャさんが先に行っているので合流するようにと。今回は使()()()()()が無い。顔を覆う黒衣をきつく縛り付ける。


明らかに視界がクリアになりとある異変にふと気がついた。風の中に時たま、ちらちらと控えめに反射させながら飛んでいく青白い欠片のようなものが見えるようになった。


軽やかに遊んでいるそれを眺めながら目的地であるカルラの森を目指していると、にわかに空が(かげ)り突如落ちてきたガラスの小さな粒、宙空に舞いながら柔らかな葉の表面に衝突して砕け散ったその破片を目で追う最中、ぬかるみに足を取られてようやくそれが雨だと気づいた。


数分前

———

 ◇chat:


NPC狩りの血盟「禍客」


130 末喜

雅麗(みや)さん、あなたにお願いがあります。

いまリュシャさんが追っている相手、クレイルの討伐です。


131雅麗

はい


132末喜

依頼内容は以下の通りです

対象者の名前はクレイル。幼い頃に人買い衆に入り、彼の師はその類稀なる属性魔術の才覚を見出し、彼を一流の人買いに育て上げました。その後彼は己が師と兄弟子を殺害し、人買い衆を裏切ってとある装飾職人のもとに身を寄せているとのことです。

彼が人買い衆を裏切った際に盗み出した柳の冠、彼を殺害ののち、それを取り返してください。


133雅麗

はい


———


現在


「どこへ消えた。小娘」


決して侮っていたわけではない、だがそれでも足りなかった。私はクレイルの予想外の猛攻に逃げまどっていた。


「クレイル! もうよいのだ! そこな曲者よ、私の弟子がそなたを許さないだろう。去るのだ、死ぬことになるぞ」


元人買い衆という情報をてんで理解しておらず、その脅威を失念していた。どうにかクレイルの目を盗んで木の陰に隠れたが、しかしこのままでは一向にらちが明かない。


彼が従事している現在の師と思しき老エルフが、足を引きずりながら何やら叫んでいる。


葉のすっかり落ちた大木と、大量の落ち葉が混ざった泥に足を取られるのに難儀した。私が焦っていたのはこの悪条件のみに対してではない。


元人買い衆という情報をてんで理解しておらず、その脅威を失念していた。どうにかクレイルの目を盗んで木の陰に隠れたが、しかしこのままでは一向にらちが明かない。とにかく近くに潜伏しているはずのリュシャさんを探し出さなくてはならない。


老エルフの足には血のにじんだ布が巻かれている。リュシャさんが殺すつもりで投げたナイフが逸れて足に刺さったといったところだろうか。


クレイルは私めがけて魔法で大量の水弾を飛ばしてきていたが、私を見失ってからは一発も撃ってきていない。先ほど攻撃は苛烈な印象だったものの彼は冷静だ。よく見るとオーケストラで使われている指揮棒ほどの長さの杖を持っている。


「どこだ! 出てこい!」


足が動かない、息も切らしている。相手が気づく前に整えさせたい。


視線を落とした先にわずかに破片が見えた。ころころと転がって行く先を眺めていると、人が一人隠れられそうな小さなやぶがあった。


「雅麗、雅麗……!」

「リュシャさん?」


———我等走狗也


邂逅を果たした我々をよそに、しびれを切らしたクレイルは魔法の呪文を唱え始めた。


——―血に塗れては泥を飲み、呪怨を啜る狂犬だ。殺してやるぞ愚か者ども。


湿った泥と落ち葉からにわかに光沢が失われてゆく。私は思わず視界に入ったその光景に目を奪われた。


水分が吸い上げられて、彼の周りに集まっている。水は彼の周辺にふわふわと浮きながら帯状に薄く伸びていった。何か私たちにとって非常に嫌な、都合の悪いことが起きるのは明白だが……私はその光景に思わず見入ってしまった。あろうことか平生では感じ得ないほど魅了されたのである。彼の所作と、その魔術に。


(2秒で読みなさい)私が彼の魔術と神秘の所作を美しいとすら思ったのは本来水の運動とは重力に従い上から下へ流れる液体の摂理に沿うものであるはずが今の彼が起こしている現象はその全く逆の事象でしかし単に逆に動かしているのではなくつまりこの超自然と形容するに相応しい物質の躍動は本来の水から感じられる流体の力学を全く損なうこと無く自然を超えた自然として再現してみせたのであり極彩の世界を得た状態でその光景に魅せられたのは後になって思えば不思議ではなかったのかも知れない。


私はリュシャさんが伸ばした手を掴むと引っ張られるままにやぶの中へ隠れた。


直後に大きな音が鳴る、クレイルの詠唱が終わり、魔法が解き放たれた。帯状に伸びた水はそのまま鋭い刃となって周りの木々を切り裂きながら飛び散ったのである。


先程まで自分が隠れていた大木が輪切りにされ、私達の上に降ってきた。リュシャさんが私をかばって倒れこむ。顔面に迫ってきた輪切りに思わず面食らって目を閉じてしまうが、うまく外れてくれたのと、ゲームの仕様なのか思ったほどダメージは受けなかった。


「大丈夫?」

「大丈夫、そっちは?」

「大丈夫だし」

「ほんとにぃー?」


リュシャさんが「さて」と話を切った。


「どうしましょうね」

「私あんまりゲームをやったことがなくて、どうしたらいいのこんな時」

「え、しらない」

「えぇ……」

「まあ、うまいこと考えてみましょう」


「準備はいい?」

「はい」

「走って」


リュシャさんの合図とともに私は彼らの背後に回り込むように走り抜けた。

相手の戦力はおそらくクレイルだけ、年老いたエルフのほうは放っておいてもよくて、今は依頼を達成することに専念する。


私が走り去ると同時にリュシャさんが防御魔法を展開しながら立ち上がる。クレイルたちは私が回り込もうとしたしたことも気づいているのだろう。

だが、クレイルはとりあえずリュシャさんから片づけることにしたらしい。クレイルが魔法を放つために杖を掲げた瞬間、私は背後から彼にとびかかった。


近接で戦うためのスキルは取っていないが、ある程度動きは補正してもらえるらしい。そして相手は魔法主体の職業であり、彼の現職は職人見習いである。


もみくちゃになりながらも彼を押し倒して、ナイフでとどめを刺そうとしたその時である。


「なん……」


なぜゲリュオンの足に踏みつぶされた少年を思い出す……指に力が入らない、力を込めようとするも無意識に体がためらう。


「ああ……! くそ!」


その隙を悟ったクレイルは素早く魔法を使った。先ほどの水の帯よりも小さな刃が私の顔に切りかかるすんでのところで身を躱す。「雅麗、離れて!」とリュシャさんが指示して私は逃げ出すようにクレイルから離れた。


「貴様……殺す気が無いなら何で来た……!!」

「……うるさい」

「雅麗!」

「わかってるよ!」


クレイルが殺しに来る、リュシャさんがすかさずクレイルに殴りかかり、私に金糸をひっかけた。骨と布ばかりとはいえそれなりの重さだろうに、いともたやすく私の体を引っ張り上げて引き返す。


「雅麗、あなた何か変だよ、あの子のことを引きずっているの?」

「違うよ……!」

「殺せないなら、私がやる」

「……」

「いい?」

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