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3話「魔法の弓矢」カット18

「さて、報告しに行かないとね」


 オルフェを始末した日の朝、私たちがコリスの街に来てクエストを果たす前のことである。私たちは「狩人たち」という現地人(NPC)血盟(ギルド)のメンバーのグループと出会った。


「君たちか、例の町へ行くのは」


 禍客の末喜という人から斡旋された仕事の依頼主に出会うのは初めてだった。巨大な木々の並ぶ鬱蒼とした森に少し入ってたどり着ける小さな空き地にて、私たちは羽帽子をかぶった一団に出会った。


「やあ、お二人さん、依頼を受けてくださるのかな」


 背の高い男が私たちに声をかける。


「私はヘイロ。お名前をうかがっても?」

雅麗(みや)です」

「私はリュシャです」


「私たちは狩猟の女神Ἄρτεμις(アルテミス)の名のもとに集った狩人ギルド。今は血盟の掟を破った裏切り者を追っている。彼の名はグラット。君たちには彼を殺してもらいたい、見つけてすぐに対処できそうならそちらの判断に任せるが、勝てそうになければ私たちを呼びたまえ。終わったら私に知らせてくれ」


 話が終わり、日の登り切らないうちに森に入ろうとすると彼らに止められた。遠くからものすごい音が聞こえてきたのである。私たちもそこで初めて見たのだが、森の木々より少し高い位置に雲が現れて、そこから巨人の脚が現れる。ヘイロさんが近くへきて教えてくれた。


「ここまでは来ない。ゲリュオンの脚さ。私たちは本来あれを狩りに来たのだ。やれやれ、裏切り者が仕事を増やしてくれた」

「はあ」

「案内人が来るまでは待っておいた方がいい。ただでさえこの森は道が複雑で、よく知った者でないとたちまち道を見失う」


 しばらくして静かになった。ゲリュオンの脚は日に何度か現れてはどこかへと去ってゆくらしい。ヘイロさんの言うには「今日はいつもより早く去ってくれた」とのこと。そうして案内人を待つ間、狩人たちの中の1人が手持ち無沙汰の私たちに商品を買わないかと話を持ち掛けてきた。


「悪いことは言わない。これはいいものだぞ、俺とエルフの職人が丹精込めて作ったんだ」


 得意げに話をする豊かな髭の壮年は詐欺師のような笑みで荷物を取り出した。


「弓、ですか」

「そう、弓だ。俺は遊牧民の出で弓を作るのは生業なんだ。そこにエルフたちが魔法陣のレリーフを刻み込んだ。魔力を込めれば弓を媒介とした魔術が展開できる」


 どうだ、とウインクまでしてみせた。

「……どうする?」とリュシャさんの方を見る。


「私は錬金術ばかりで弓とかはなぁ……」

「私、魔術操作と弓のスキル持ってる」


 口を滑らせたあと、その狩人の方を向いて「しまった」と思った。


「凄い笑顔なんですけど……」

「ぜひ買ってくれよ、悪いこたあ言わないって」


 逃げ場もない場所での押し売りである。その狩人はまさしく矢継ぎ早に「魔法の矢もつけてやろう。それと魔法が発動しやすくなる籠手もどうだ」とおまけにおまけをつけて私にターゲットを絞り込んで詰め寄ってきた。


「か、買います。買いますから」


 狩人は上機嫌になって、最後のおおまけとして自分のブロマイドを寄越してきた。


「……いらない! いらないこれは!」


 狩人は笑いながらテントの中へと戻って行った。


「さすがにいらないよ……」


 苦笑しているリュシャさんの隣で困惑している私に今度は女の人の狩人が声をかけてきた。エルフの女性だ。見た目の年齢は先程の弓矢を売りつけてきた狩人と同年代くらいである。


「とても良いものをもらったね」

「そうですか」


 彼女は頷きながら、案内人が来るまで慣らしてはどうかと提案した。


「魔法の矢はおまけ。そのままでいいから弓を構えてごらん」


 初めて触る武器なのでぎこちないかと思ったが、ゲームだからなのか私は手馴れているかのように堂に入った構えを取っていた。


「上手くない? 私上手くない?」

「武器のスキル持ってたでしょ、自動で動きに補正をかけてくれるんだよ」

「ああ、なるほどね」


 エルフの女狩人が魔力を込めてみるように言うので、その通りにすると弓と弦にかけた両手を結ぶ一直線の光の弓が現れた。


「わ、すごい」

「そのまま弦を戻すと消えるよ」


 矢を消してから、今度は少し離れた位置にある木の幹を狙うように言われた。


「才能があるよ、ど真ん中じゃないか」


 木の幹に巨大な風穴が空き、メリメリと音を倒して倒れてゆく。周りの狩人たちが好奇の視線で見物に来た。


「すごいじゃないか、もう一度やってみせてくれよ」

「やめておけよ。森をいたずらに傷つけるものじゃない」


 とうの私はというと、弓を持つ腕が重たくなっていたのに気づいた。


「あ、MPがない」

「あの一発に全部持って行かれたんだね」


 皆はその威力の理由に納得して、私に彼らのもつ弓のいろはを叩きこもうとしてきた。

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