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2話「伝承」カット12

 ある町に伝わる奇妙な物語がある。過去の話を元にしたおとぎ話だとも、これから起こるよくない話だとも言われている。とある男の話だ。


 とある町の町長には2人の息子がいた。兄は勤勉な警察官だ。街のみんなは兄のことが大好きだった。弟の方はというと昼間から大酒をあおって町の皆から嫌われていた。


 弟は夜の路地裏で女をさらおうとしていた時、駆けつけた兄にとがめられたのに逆上してうっかり兄を殺してしまった。


 そうして洞窟にのがれて来たんだ。


「おい」


 暗闇の中で、誰かが自分に呼びかけている。そんな声が聞こえる方へ向くと、稲光が洞窟を一瞬照らし出し、男は自分に語りかける声の正体に気づいて腰を抜かした。

 男が見たのは人間の頭蓋骨だった。


「騒々しい。ここは響くんだから静かにしとくれ」

「なんだってお前……」


 男が見たのはベールを被った人間の頭の骨だ。腰を抜かした男はそれ以上言葉が出てこなかった。


「ほう、お前なにやら臭いな。罪の匂いだ。誰か殺して来たか。そうさなあ、お前に親しい、家族か」

「待ってくれ。お前は一体なにものだ」

「お黙り! 今は私が聞いているんだ。全てが終われば好きなだけ聞いとくれ。子どもじゃないんだ。今は弁えてもらうよ」


 ゴホンと骨は咳き込むと、先ほどの話の続きをした。


「お前さん、家族を殺したね?」

「そんな,そんなはずはないんだ。兄貴はあの日非番で」

「お前さん自分の兄弟を殺したのかい。おおー! そいつはなかなか」

「殺してなんかない! いや……でも兄貴じゃあない」

「嘘をお吐き! 私にはわかる。お前の魂を見れば一目瞭然さ」

「知らないんだ!」

「でも誰も殺してない証拠なんて無いだろ」

「殺した証拠も……!」


 ふと気づくと、男の手はまだ血に濡れたままだった。ナイフはどこかへ捨てて来たからここには無い。


「その血まみれの手で殺した証拠も何だって? 鹿を捌いていたとでも言うつもりかい。いいか、お前さんは私の言うことを聞くしか無いんだ。お前さんが殺した兄とやらの仇として首を刎ねられたく無けりゃあね」


 男はそのまま黙りこくってしまった。そして、洞窟から吹き込む風が鳴る音に紛れてつぶやく。


「どうしろって?」


 骨はフッと笑うと、ゆっくりと言って聞かせた。


「私の後ろに、どうやら来たようだ」


 男は顔を上げると、骨の背後には恐ろしくて巨大な影があることに気づいた。

 巨大な犬の影。そして、頭が3つ生えている。


「け……け」

「この洞窟の主人さね。常に腹を空かせているんだ。人間の魂が大の好物さ、ちょうど今のお前さんのような醜く罪にまみれて脂ぎった魂がね」


 男はすっかり度肝を抜かれてその場にすくんでいた。骨は不敵に笑いながら話し出す。


「怖がるこたない。私たちの願いを三つ叶えてくれりゃあいいだけの話さ。それでお前さんは自由の身だ」


 男は渋々いうことを聞いた。


「何をしたらいい」

「そうさなあ、まずは主人の首輪の鎖を解いてもらおうか」


 男は驚愕した。この化物を繋ぎ止めている鎖を解けというのか。


「大丈夫さ、願いを叶えてもらう相手を食い殺しゃしない」


 本当だろうな、聞くだけ意味のないことのように思えて、男はおずおずと三つの頭にかけられた三つの首輪に触れてみた。骨が上って見てみろと言うので恐る恐る巨大な犬の背に乗って見ると、鎖と首輪を繋ぐ部分に鍵がかかっていた。


「鍵は」

「そう、それなんだが」


 鍵は失われてしまったと骨は言った。男はいてもたってもいられなくなって、ナイフで鍵をこじ開けようとしたのだ。


「そこにある」


 骨がポツリとつぶやくと、男の手には捨ててきたはずのナイフが握られていた。男は躊躇うこともなく鍵穴にナイフを突き立ててこじ開けた。


「よくやってくれたね」


 それじゃあと、骨は少し改まった様子で言った。


「お次だ。3羽の鶏の心臓を捧げておくれ」


 男はすぐにその骨の言う通りに3羽の鶏を盗み出してきては壊れたはずのナイフで心臓を抉り出した。


「よくやった」


 影はそれぞれの頭で3つの心臓を平らげる。骨が高い声で何やら呪文を唱えると、ぼんやりと銀色の冠が宙に浮かんだ。


「その冠が谷底に落ちている。拾ってきておくれ」


 男は洞窟の崖際に建つと、地の底に光輝く王冠と思しきものが見えた。しかしその姿ははるかに小さく、降りてゆかなくてはならなかった。

 男は半日かけて崖の底へ降りてゆき、輝く銀の王冠を手に入れた。そしてまた半日かけて登ってきたのである。


 男が登りきると、骨と三頭の犬の影がうやうやしく男の前に並んでいた。


「どういうことだ」

「これまでの非礼をどうかお許しください。王様」


 男はどうも彼らの言っている訳が分からず、首をかしげていた。


「あなた様は我らが王となるべき存在なのです」

「……」

「王におなりください。理にまつろわぬ我らの王に」


 仄暗い洞窟の中で、リュシャさんは私にその話を言って聞かせた。


「それで、その話の続きは‥‥…?」

「分からない、この洞窟の近くの街に伝わるお話なんだって。でも誰も続きは知らなかった、一人、木こりのおじさんだけが意味深に笑ってお茶を濁してはいたけど。多分イベントを進めたらあの人が教えてくれるんだとは思うよ」

「それで」

「いるんだよ、その町に。町長の息子で警官の兄を持つ放蕩息子が。私はとあるクエストでそいつを殺しに」

「へえ」

「友好NPCを暗殺するクエストを出し合ってるクエストでね。私が参加してるプレイヤーギルドでそう言うのが出てるんだ」


 なんでそういうクエストが出ているのか気になっていたが、リュシャさんは「ノリじゃない?」と詳しく知らないようだった。


「何て名前のギルドなの?」

「禍客っていう、NPC狩りの悪党衆をコンセプトにしてるギルドだよ。入る?」

「いいの?」

「うん、参加者募集中」

「入る」

「わかった、チャットがあるからそこに入って承認されたら加入だよ」


———◇◆仮想世界から現実世界へ◇◆———


 ◇chat:

NPC狩りの血盟「禍客」


230 リュシャ

じゃあそれでお願い


231 末喜

わかりました


ー〈ID:2937193691 設定名:雅麗 が入室しました〉ー


232 雅麗

よろしくお願いします


233 リュシャ

やほー


234 末喜

よろしくお願いします。加盟希望ですか


235 雅麗

はい、そうです


236 末喜

承りました。ここに入った時点で加盟と認めます。出入りは自由で特にペナルティなどはありません。リュシャさんからお話は伺っておりますので、まずは2人でクエストに行ってきてください。


———◆◇現実世界から仮想世界へ◆◇———


「あの管理人ってどうやってNPCの情報を仕入れてるんだろう」

「さあ、他のNPC殺害のクエストを出しているNPCもいるから、そういう()()がいくつかあるんじゃないかな」

「ふーん」

「じゃあそういうことで、その放蕩息子を殺す算段をしようか」

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