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第3章−4

「ラウル殿下がエリシアを裏切るとは思えない」

 ターシャの言葉に全員が驚いた。

「どうしたの?今までなら私が殿下を庇うことをからかっていたくせに」

「たしかに以前はそうだったわ。でもそれはラウル殿下を直接には知らなかった時のこと。あの薔薇城で殿下と話をしてからは…本当に殿下はエリシアのことを大事にしてるってわかったから」


 カーラの部屋に久しぶりに4人が集まった。もちろんこの話をするためだ。但しエリシアはいない。

 まだもう少し1人でいたいというエリシアにリズ、ターシャ、カーラは無理に会おうとはしなかった。

 ただ毎日のようにお菓子や手紙を贈っていた。

 また皆で笑って会える日を願いながら。


「ねぇ、覚えてる?薔薇城で。あの時、殿下は私達に言ったわよね『シュルバルト侯爵令嬢のことは一切何も思っていない』『彼女とどうこうなるなどこれまでもこれからも一切ない』て」

「もちろん覚えてるわ!『一切ない』!今回のことで一番にあのときの殿下の言葉を思い出したもの!」

 ターシャの問いかけにリズが前のめりになって答える。

「私もよ。あの時の殿下は嘘をついているようには見えなかった」

「そうなのよ、カーラ。殿下はむしろシュルバルトの名前が出たことに驚いていたわよね」

「うん、そう。しかもあんなにはっきり言ったのよ、『これまでも』て。それって〈過去〉の話でしょ?

 今、懐妊が確認されたってことは、遡るとエリシアと出会う前に2人には関係があったってことになるじゃない?つまりそれは〈過去〉だわ」


「うんうん、リズ、そうなのよ、私も思ってたわ。そうなると、殿下かシュルバルト令嬢、どちらかが嘘をついてるってことになるのよね。だとしたら……」

「シュルバルト令嬢がウソをついているとしか思えない」

 カーラの言葉を受けてターシャが言い切った。

「同じく」

「同感だわ」

「エリシアの気持ちを思うと、シュルバルト令嬢のウソであってほしいかな」

 リリアナが苦笑いする。



「学園はどう?」

 リリアナはこの件があってから学園には行っていない。もちろんエリシアも。好奇の目が面倒くさい、というのがリリアナの理由で、エリシアは…学園に行けるような精神状態ではないというのが理由だった。


「こないだシュルバルトを見たわ」

 リズが虫でも見つけたかのような嫌悪の表情を浮かべる。

「今までの10倍くらい威張っていたわ」

「何様って感じよね」

「取り巻きの令嬢が私達に聞こえるように言うのよ

『シュルバルト令嬢、体調は大丈夫?』

『お2人は元々両想いだったのよ』

『お2人こそお似合いだわ』とかなんだとか」

「そうそう!ふんっ、どこがお似合いよ!」

「あ〜言っていい?……やっぱり殴りたい」

 リリアナが3人の話に歯ぎしりする。

 それから少しの間、シュルバルト令嬢の悪口で散々盛り上がった。



「それにしても、なぜこんな大事なことが王室から発表される前に世間に流れたの?」

「その通り!それよ、ターシャ。私の両親も怪しんでいたわ。まずは婚約解消、それからのシュルバルト令嬢の懐妊発表でしょ、もちろん王室からの、よ。それをなぜ全部飛ばして、いきなり我々の知るところとなるんだって。ラウル殿下は…事前に知ってらしたのかしら。でも王室も混乱してるって話じゃない。ということは…」


「それが…」

 リリアナが言いにくそうにカーラの話を受ける。

「実は陛下やラウル殿下も知らなかったみたい」

「やっぱりそうなの?!」

「あり得ない!」

「絶対にシュルバルトがわざと世間に流したのよ。ねぇ…ここだけの話…」

 ターシャが3人に顔を寄せ小さな声で言った。

「実は懐妊なんてしてないんじゃない?全てシュルバルトのウソなんじゃない?」

「そう思ってる人も少なからずいるって聞いたわ。とはいえ大多数は『王室相手にそんな嘘をつくはずがない。故に本当に違いない』っていう意見みたいだけど」

 カーラも囁き声になる。

「そこよね、だって王室を謀るなんて。それって……」

 リズが眉をひそめた。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「極刑だな」

 ライナスが言った。

 ハワードの部屋でも同じようにシュルバルト侯爵の話がされていた。


「それを承知で計画的にラウルを嵌めてるってとこが…」

「おそらくまだ何か策を考えてるんだろうな…よほど極刑にならない自信があるんだろう」

「王宮付き医師の診察もまだ受け入れていないらしい。とっとと引っ張って来て確かめればいいんだ」

「そういうわけにもいかないだろ。今や我々の言動は国中に監視されてるも同じだ。慎重にならざるを得ない」

「腹の立つことだ。おおかたエリシア殿との婚約で焦ったんだろうな。卑劣極まりないやり方しやがって」

「全くだ。鼻で笑ってやり過ごしたところで、ラウルとエリシアの結婚にケチがつくことに変わりない……気分の悪い話だ。それにしてもエリシアはどうしているだろう。不憫で仕方ない」

「そうだな…ついこの間、ハワードと俺でラウルのことを信じてやってくれ、なんて言ったところなのに」

「……………」

 やりきれない思いでハワードは窓の外を眺めた。

 庭園に降りそそぐ夏の日差しと雲ひとつない空が苦しくなるほどに眩しかった。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ウロウロと部屋を歩き回るラウルをモルティが諫める。

「じっとしろよ」

「わかってる。ちょっと考え事をしたいのにイライラして纏まらないんだ」

 そう言ってまたブツブツと独り言を言いながら部屋を歩き回る。


「シュルバルトの娘との将来でも考えてるのか?」

「なっ!お前ッ!」

「……いいか、世の中には家の為に好きでもない相手と結婚している人間はごまんといるんだ。別に特別な話じゃない」

 モルティがソファに腰掛け片手に書物を持ちながら平然と言い放つ。


「ハワード様だって偶然カタリナ様と好きあったから良かったものの、そうでなければ愛のない結婚をされるおつもりだったんだ。これもお前の宿命だ。諦めろ」

「……モルティ、お前」

「いいじゃないか、お前は第ニ王子だ、必ず子どもをなさないといけない立場ではない。結婚だけして会わない抱かない愛さない。どうだ、気楽なもんじゃないか?」

「お前…お前だってエリシアを知ってるだろ。それでよくそんなことが言えるな」

「知ってるから言えるんだ。今、誰よりツラい思いをしているのはエリシア様だろうが。お前に裏切られたんだ」

「裏切ってはいない!」

「同じさ。この状況は裏切り以外何ものでもない。婚約が解消されたんだから」

 その言葉にラウルの顔が悲痛に歪む。

「それでも…今回、エリシア様は誓いの薔薇を返してこなかった。まだ彼女が持ったままだ。その気持ちを考えてやれ。そして今はじっとしてろ」


「モルティ、シュルバルトはどういうつもりだ?絶対神に誓って俺は娘に手を出してはいない。妊娠などしているはずがない」

「当たり前だ。お前との結婚が決まって落ち着いたら、《流れた》だの《勘違いだった》だの言い出すのがオチだ」

「お前…」

 思わず言葉を失いモルティをまじまじと見つめるラウルに、モルティが大袈裟に驚いた声を出した。

「おいおい、ラウル。まさか俺が本気で妊娠を信じていると思っていたのか?」

「いや、そういうわけでもないが。半々なのかな、と」

「ふざけるな!どれだけお前と一緒にいると思ってるんだ。悪いがお前のことなら陛下よりハワード様よりエリシア様よりも知っている。侮ってもらっちゃ困るんだよ。ってまぁ陛下もハワード様もお前のことを一切疑ってなんかいないだろうけどな」

 ラウルは思わず熱いものがこみ上げ、グッとこらえた。

 思えば正面切ってシュルバルトとのことを否定してもらえたのは今が初めてだ。


「お前がどんなテクニックを持っているのかはエリシア様しか知らないが」

「なッ!お前っ!……フッ、ありがとう」

 モルティの冗談に少しだけ心が軽くなった気がした。


 彼はそっと耳に埋め込まれた碧い石を触る。

 モルティが言った通り、エリシアと離れて婚約すら解消となった今、2人を繋ぐものはこの『誓いの薔薇』ただ1つだ。

 そう思うと……気づけば耳の石を触っている。それが彼の最近の癖だ。


「モルティ、父上と兄上に話したいことがあるんだ」

 心が軽くなると同時に視界にかかっていた雲がスッと晴れた。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 エリシアはラウルから貰ったネックレスを返さないことにした。

「二度と外さないで」そう言った彼の言葉は決して嘘ではなかった。彼は…少なくともこのネックレスをくれた以降は、自分だけを愛してくれていた。そのことに何の疑いも持ってはいない。そして自分も彼を愛していた。今も変わらず愛している。


 婚約は解消された。それでも…何ひとつ変わらず彼を愛しているということを伝えたい。わかってほしい。だから…


 ーーーーーこれは返したくない。それくらいのワガママ許してほしい。

 ーーーーーいつか何年か経って舞踏会かなにかで偶然会うようなことがあったら…このネックレスを付けている私を見て驚くがいいわ!「震えて眠れ!」ってやつだわ。


 ーーーーーマンガを描こう。そうよ、私にはマンガがある。仕上げなきゃ。ハワード殿下に約束したんだもの。これでも転生前は一応漫画家だったのよ。涙が出ようが、婚約者が別の女を妊娠させようが締切は待ってはくれない。悲劇のヒロイン演じて甘えてなんかいられない。描こう!


 ーーーーー転生前……


 エリシアは一瞬よぎった考えに「バカバカしい」と呟いて、机に向かった。


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