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第1章−14

「……………うそ」

 潜り込んだ布団の中でリリアナが驚きに目を丸くしている。


 ラウルにプロポーズされた後、まるでふわふわと宙を浮いてるような感覚のまま帰宅し、彼女は「話したいことがある」とリリアナを無理矢理ベッドに引きずり込んだ。


「まさかとは思ったけど…結婚って」

「うん、びっくりした」

「陛下にも報告したってことは本気だもんね。嘘なわけないわよね」

「………」

「ふふっ、おめでとう?でいいのよね?」

「ありがとう?でいいのかな?」


「フハッ…アハハハハ!」

「リリー?なに?」

「だってエリーったら、アハハハハ!普通プロポーズされたらもっと幸せそうに笑ってるものよ。あなたときたら顔に『困惑』て書いてあるわよ」

「だってぇ〜いきなりこんなことになるなんて思いもしなかったし、第二王子よ!しかも2ヶ月前かな?『殿おし』が見つかったの。それがいったいどうしてこんなことになるの?」


「ふふふっ知らないわよ、私が聞きたいわ。ほんとは私に言ってないことあったんじゃないの?」

「っ……それは…」

「やっぱり。なぁんかあやしいと思ったのよ」

「だって、からかわれてるだけだって思ってたんだもの。まさか本当に…」

「だから言ったでしょ、エリーをそんなことでからかうなんてあり得ないわ」


「エリーに好きになってもらえるよう努力するなんて。かわいいとこあるじゃない、殿下」

「………」

「で、エリーはどうなの?好きになれそう?」

「それは…」

「キスされてイヤじゃなかったのよね?」

「うん。イヤでは…なかった。もっと…」

「ん?」

「もっとしてほしいな、て…思っちゃって…」

「わお!」


「リリー!!」

「ふふふっ、ごめんごめん。それが普通よ。私だってマルセロにキスされたら、もっとしたいって思うもの」

「ほんと?」

「ほんとよ」

「ってことは私は殿下のことを…好…き?」


「ねぇ、ラウル殿下って2人で話す時はどんな感じなの?エリーのマンガを読んだ後とか」

「すっごく優しい。すごく柔らかい顔で笑ってくれるし、私のマンガをものすごく楽しそうに嬉しそうに読んでくれるの」

「へぇ~」

「それに意外なんだけど、すぐ顔が赤くなるのよ」

「ラウル殿下が?」

「うん、かわいいの」

「へぇ~」

「それにモルティ様と冗談を言い合ってる時の笑った顔もね、学園で皆に見せる顔とは全然違って、すごく自然で温和で、なんだか子どもみたいに本当に楽しそうに素敵な笑顔で笑うの」

「へぇ~」

「それにね………リリー?」

「ふふふっ、アハハハハッ、ねぇ、エリーも自分でわかってるでしょ、殿下への気持ち。エリーは少し頭で考えるのをやめて、自分の心に聞いてみたら?色んな雑音を消して、自分が本当は何を求めているのか、どうしたいのか、ちゃんと心に聞いてみなきゃね。それに…」 

「?」

「リズの結婚のことを考えると、想われて結婚できるなんてこれほどありがたいことはないわ。幸せなことよ。」


 確かにその通りなのだ。顔も分からない相手とある日いきなり結婚しろと言われる。令嬢の結婚とは半ばそれが当たり前、よくある話なのだ。愛情は二の次三の次。そう思うとリリアナもエリシアも恵まれている。



 2日後、早速ラウルがメイザード侯爵家を訪れた。表向きは領地視察ということになっていたが、実際にはエリシアの父メイザード侯爵へ結婚の意志を伝える為だ。


 メイザード家はまさに青天の霹靂でパニック状態に陥ったが、ラウルのエリシアに対する真摯な気持ちを聞き、最後は皆が彼に感謝の意を伝えることとなった。


「ラウル殿下、本気なのね」

 ラウルが帰った後、リリアナがエリシアの頭を撫でながら呟いた。




 翌日、「君の友人達にもちゃんと話しておきたい」とラウルに言われ、ターシャ、リズ、そしてカーラを薔薇城2階の部屋へ招いた。もちろんリリアナも一緒だ。



「なに、なに?」

「え、薔薇城?入っていいの?」

「うん、今日は特別なの」

「なに?話したいことってなによ?」

「まあまあまあ…」

 エリシアは今から起こることを思うと、心臓は破裂しそうだし顔は発火するんじゃないかと思うほどに熱い。やいやいと質問してくる3人の目を見ることすらできない。

 とにもかくにも彼女らを部屋へ案内した。

 ーーーーー家に殿下が来られた時より緊張するんだけど!!



 ターシャが一歩部屋に入ったとたん驚いて立ち止まった。

「ラウル殿下?」

「やぁ、ターシャ・ハーベイ嬢」

「恐れ入ります」

 ターシャに続き、カーラとリズが次々膝を折りラウルに挨拶をする。


「まぁ座ってくれ。今日は堅苦しいのはやめよう」

 3人は並んでソファに座り、向かいにラウル。彼の後ろにモルティが立ち、エリシアはリリアナに肩を抱かれ3人が座るソファの横に立った。


「エリシア、おいで」

 ラウルがエリシアに自分の右隣に座るよう声をかけ、

「リリアナもそこに座ってくれ」 

 とエリシアの右斜め前に置かれたソファを示した。


 エリシアがためらいがちにラウルの隣に座った瞬間

「ウソでしょ…ほんとに?」

 リズが声を上ずらせた。


「さて、うん、実は私は先日、エリシアに結婚を申し込んだ」

「…………」

「…………」

「…………」

「「「キャーーーーっ!!!」」」

 決して広くはない応接室に3人の叫び声が響いた。

 そして次の瞬間

「エリシア〜エリシア〜嬉しい〜」

 泣き出したリズの肩を抱いたカーラも泣き出しそうだ。


「リズ…」

 思わず涙が溢れそうになり俯いた彼女の手にラウルが手を重ねる。

 そんな2人の様子を見たリズ、カーラ、ついにターシャまでもが泣き出してしまった。



 ラウルはエリシアとの婚約はまだ公表出来ないこと。しかし自分の気持ちは揺るがないし既に陛下、そしてメイザード侯爵にも話は通してある。と彼女らに説明した。


「お話はよくわかりました。私達にまでお気遣い頂きありがとうございます。友人として心からお祝い申し上げます」   

 さすがカーラだ。いつものゆっくりと優しい声で皆を代表し、ラウルに謝意を伝えた。

「カーラ・シルベヌス嬢、ありがとう。でもそんなに堅苦しくならないでくれ。これからは君たちとも友人として付き合っていきたいと思っている」



「それでしたら!」

 いきなりリズが声を上げた。その上ずった声に勇気を振り絞ってラウルに話しかけているのがわかる。

「リザベラ・メランザ嬢、どうした?」

「無礼を承知でお尋ねしたいことがございます。よろしいでしょうか?」

「もちろんだ。今日はそのつもりで君達を呼んだんだ。答えられることはなんでも答えると約束しよう」

「ありがとうございます。……殿下は…恐れながらラウル殿下におかれましては様々な、あまりよろしくない噂を耳にいたします。もしそれらが本当なら大切なエリシアをお渡ししたくございません」


 これにはエリシアはもちろん他の3人も驚いてしまった。

 リズはこのメンバーの中では常にラウル殿下を庇い味方し、ラウル推しとまで言われていたのだ。

 それが今、声を震わせてラウル本人に向かって噂の真偽を問うている。エリシアのために。


 エリシアは胸が熱くなった。なんて素晴らしい友人なのだろう。


「リザベラ…リズ…そう呼んでいいか?リズ、言いにくいことを言わせてしまってすまない……エリシアは素晴らしい友人を持っているんだな」

 エリシアが考えたと同じことを口にして彼女の顔を見たラウルはとても優しい顔をしていた。


「実はその質問は当然されるだろうと思っていたし、その話をしたくてこの席を設けたというのが本当のところなんだ。……うん、私に関して良くない噂があることは知っている。エリシアにも「ヤリ逃げしてるんだろ」て言われたしね」

「エリー!あなたそんなこと!」

「違っ!リリー、違うの!ヤリ逃げしてるって噂があるから、ヤリ逃げされるのはお断りってことを言っただけよ」

「男性の前で、ヤリ逃げヤリ逃げって連呼しないの!!全くあなたって子は」

 リリアナは姉としては口調を厳しくしているが決して本気で怒っていないのがわかる。ターシャ達3人にいたっては俯いて笑いだしてしまった。


「クククッ、いや、いいんだリリアナ。それくらいの方がエリシアらしくて俺は好きだから」

「ちょっ、殿下ッ、そんなこと皆の前で言わないでください!」 

「なにを?」

「だから、す、好きとか…」

「え?聞こえない、なに?」

「だから、好きとか……って殿下!何笑ってるんですか?!絶対聞こえてましたよね!」

 エリシアを楽しそうにからかうラウルは、その瞬間、殿下ではなく、ただただ可愛い恋人を愛でる青年だった。

 ターシャやリズ、カーラ、そしてリリアナの心の中にあった『ラウル殿下のイメージ』という名の冷たい氷が溶け始めた。


「ゴホンッゴホンッ。殿下、お話の続きを」

 モルティのその声からは「イチャイチャはいい加減にして話を進めろ」という思いが滲み出ていた。


「あ?ああ、すまない」

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