第1話 その少女はオセロの駒のよう
注意・この小説は不定期投稿のつもりです。いつ続きが出るかわかりません。すいません。
また、素人が書いたものなので「ん?」となるところがあるかもしれません。
私は中川祐未香。坂野塚山高校の生徒だ。
学校では成績優秀で、運動神経も上位を争う程度。
そんな生徒って友達多そうだな。そう思ったでしょ?でも私は違う。
陰キャでコミュ障、おまけに性格がブラックだから友達はいない。というか作ろうとしていない。
それは中学3年生の3学期から卒業まで、クラスメートの男5人にいじめられていたからだ。
教科書を捨てられたり、椅子がなくなっていたり、卒業証書授与では、私の番だけ妨害されたりなど…酷いモノばかりだった。
それがトラウマになって、私は友情というものを捨てた。誰かに話しかけられても、冷たい対応で追っ払う。
それを続けて1年、私は今高校2年生である。
「中川さん、この問題がわからないんだけど教えてくれる?」
「…ごめん、人に教えるには苦手なの。」
「あ、そっか…。」
いつもこんな感じで冷たく接しているが、私は何とも思わないのだ。友情関係でトラブルが起こるよりはマシ…そう思っている。
「中川の奴、今日も1人で屋上で弁当か?」
「そうみたいだな。そもそも何でこんな才女に友達がいないんだよ。」
「あー、噂だけど本人が人を避けているらしいぜ。」
「なんだよ、せっかくイイもん持ってるのに、もったいない。」
陰口なのかはわからないけど、私に聞こえるように話しているのは確かだ。まあ気にしないからいいんだけどね。
「そういえば、中川さんって部活入ってたっけ?」
「入ってないらしいよ。」
「えー!?運動神経も抜群だし、勉強もできるのに、なんでなんだろ。」
「そうよねー、もったいないよねー。」
私はよく、他の生徒からもったいないと言われる。確かにそうかもしれないが、才能を駆使するより、のんびり孤独に生きていたいのだ。
そんなこんなで学校が終わり、普段通り一人で通学路を歩いていた。
この辺りは昼間は閑散としていて、夕飯を買いに行くのか、主婦を数人見かける程度である。
今日もいつものように帰って家でゆっくりするんだろうなと思っていると…
「そこの茶色のボブカットの君、ちょっといいかい?」
突然、中年の男らしき声が聞こえてきた。
少し後退すると、路地裏に男がいた。黒いスーツに、犬の被り物を着用している中年くらいの男だ。どう考えても普通ではない。
「…私に何か用?」
「まあ、ちょっとね。こっちで話をさせてくれ。」
男は少し怪しい雰囲気で手招きをしてきた。
「いや…そう言われても初対面であるあなたに構っている暇はないの。」
繋いだ手をほどくように私はその場を立ち去ろうとした。
「いやちょっとまってちょっとまって…僕そんなに怪しくないから…話だけでも」
「あなた鏡って知ってる?」
見るからに怪しい格好しているのに声は優しさそのものだ。そんな不思議を覚えながら私はこうつぶやく。
「まあ、そこまで言うなら少し付き合ってあげてもいいけど。」
たとえ誘拐犯だったとしても、私は柔道や空手を祖父から習得しているし、腕前も本人に認められている。
だから、蹴りをくらわせれば逃げることはできるだろう。彼が強すぎなければの話だけど。
そんなこんなで仕方無しに二人で路地裏へ向かった。
「話の前に、名前を聞いておかないとね。君の名前は?」
「…なんで初対面の人にそんなこと教えないといけないのよ。」
「確かにそうだね。そりゃ見ず知らずの奴に個人情報を教えたくはないよね。」
そう男は言ってるが、結局こいつは何が言いたいのだろうか。
「でも、僕が今から言うことは、君の選択によっては重要なことだと思う。僕の提案に乗ってくれてから名前を聞くことにしよう。」
少々呆れてはいるが、"重要"っていうワードを聞いたら気になるのが人間の性である。とりあえず聞くことにした。
「そう。で、その提案って何よ。」
「君は、世の中には悪い奴もたくさんいるってことは知ってるよね?」
「そりゃもちろんよ。世の中善人ばかりではないわ。」
「僕は平和と正義を愛しているんだ。そいつらのせいで善人を汚されたりするのはホントに嫌なんだ。」
姿のわりには結構マトモなことを言っている。
「だから、君にこの街の治安と平和を守ってほしい。僕には君がふさわしいように見える。」
スカウトみたいな感じだが、わざわざその目的で他人を誘うものなのか?
「街の治安と平和を守る?何で私が?アンタがやればいいじゃない。」
「まあまあ、僕は女の子がヒロインになった方が絶対いいと思うし、人気も出るじゃん。目立つような秘策も持ってるし…」
何言ってんだこいつ…はっきり言ってキモいわね。
「なにそれ、モデルスカウトとかなにか?私そういうのに興味ないから」
「あー待って待って…その、メディアとかに直接関わることは殆どないからね。」
ここまで来ると呆れてそろそろ切り抜けたいところだが、まだ少し気になるのでもう続けて話を聞くことにした。
「それに、僕は見たんだ。君の頭脳と、身体能力、そして奥の奥に秘めたわずかな純粋な心をね。」
「そこまで見えるの?もはやストーカーじゃない。ていうか、よくバレなかったわね。」
「まあ、僕は自身が選んだ人以外には見えないからね。」
「は?どういうこと?」
「信じてくれないかもだけど、僕は妖精なんだ。平和を愛する思いから生まれた…」
そんなの誰が信じるのよ。と最初は思ったけど、よく見たら足が少しだけ浮いているし、尻尾みたいなのが生えてる。境目も滑らかだ。
「そんな思いから生まれたくせに、姿は普通におっさんじゃない。」
「…それだけは言わないでくれ…。」
男は顔を手でおさえて嘆く。可愛いところはあるみたいだ。
「それで、私に街の治安と平和を守ってほしいって?さっき自分でやればいいって言ったけど、考えてみたら、私ここ最近退屈だし、治安が悪いような場面もたくさん見てきててうんざりしてたの。」
「ん?ということは?」
すごく期待している顔をした男に、私はビクッとした。でも、ここで言うのをやめるのは気持ち悪いから私は言うのを続ける。
「協力しても構わないわ。とりあえず、目的を詳しく教えてくれないかしら?」
少し喜んだ男の顔を見て、私は多少引いたが、今までの彼の言動から、悪い奴ではなさそうだ。
それに、なぜだかわからないが逆らえない力に押されていたような気がする。言うならば、上の圧力…といったところだ。こんな変態気質の奴にそんなの感じたくもないが…
「ありがとう、そう言ってくれて嬉しいよ。ところで、君の名前は?」
「まあ、ここまで来たなら教えてあげてもいいわ。私は中川祐未香よ。あなたは?」
「ほう、祐未香ちゃんか。僕はジューダン。さっき言ったように、平和を愛する思いから生まれた妖精だよ。」
私は、これからどうなるのか気になる気持ちを抑えて、冷たい態度のままジューダンに問う。
「へぇ、よろしく。ところで、あなたの言う、目立つような秘策って何かしら?」
そう言ったあと、ジューダンは手持ちのリュックから何かを取り出した。
「これだよ。受け取ってくれ。」
私はオレンジ色の宝石で飾られた魔法の杖みたいなコンパクトサイズの棒と、メモ帳みたいなものを受け取った。
「なにこれ?」
「とりあえず、その棒を振って"ピューリーズチェンジ、メイクアップ"って言ってみて。」
いまいち状況がつかめなかった。おしゃれな棒を振って、よくある魔法少女アニメのセリフのような言葉を言えだなんて、すぐにできるはずがないのだ。
…少し心を落ち着かせてから、私は路地裏の隙間から他の人が近くにいないことを確認し、ついにその言葉を発することにした。
「…ピューリーズチェンジ、メイクアップ…。」
そう言ったが、何も起こらない。その静かな雰囲気のせいで余計に恥ずかしくなった。
「やばい…私何してんだろ…。」
「あーダメダメ。もっとかわいい声で言ってくれないと反応しないんだよね、これ。」
「え、かわいい声…?なんでよ。」
「いいからいいから!誰も見てないよ今。」
動揺しながらも、私は全ての羞恥心を捨てて、咳き込んだあと、何故か得意のカワボで叫ぶ。
「ピューリーズチェンジ、メイクアーップ!!」
その瞬間、突然自分の身体が軽くなり、謎のオーラと暖かさに包まれた。
力が強すぎて、前が全然見えない。でも、身体に何かが起こっているのは確かだ。
嵐のようなオーラが消えた後、自分の身体を見ると、見たことも着たこともない服を身にまとっていた。
フリルの付いたミニスカートの半袖のワンピースは、白を基調としていて、オレンジ色のラインも見える。
足と腕は、白色のニーソと長手袋に包まれていた。
頭には白いカチューシャがかかっていて、髪もオレンジ感が強くなっていた。
どれも私の黒い性格とは正反対だった。例えるなら、オセロの駒である。
「え…え、え!?なにこの服!?」
戸惑っていたので、思わずジューダンの方を見ると、満面の笑みで鼻血を出していた。
「…何見てんのよ変態。」
ムカついたので、私はジューダンを魔法の杖で殴った。
「ぐふぉっ!?あ、ごめん…。」
「それで?秘策ってこれのこと?まさか、衣装目当てで私を誘ったんじゃないでしょうね?警察呼ばれたいの?この変態」
流石にここまでくると、疑いたくもなる。
「あ、いや…それはただの注目集めであって、その"ピューリーズスティック"を使って実際に魔法を出すこともできるからね!」
「それは本当かしら?」
「もちろんさ。さっき渡したメモ帳に、魔法の種類と出し方が書いてるから、実践してみるといいよ」
魔法…疑いは消えないけど、ちょっとそういうのには興味あるし、試してみるのも悪くはない。
「へぇ、まあやってみるわ。えっと、まずはこの"ストレートフレイム"ってのをやってみようかしら。」
ストレートフレイムの項には、杖の先を前に向けて"ストレートフレイム"と唱えることで、直線状に炎が噴き出るらしい。
メモ帳を閉じ、私は身構えて杖先を前に向けて、
「ストレートフレイム!!」
そう叫んだ途端に、杖先から直線状の炎がジューダンをめがけて噴き出した。
「あっついっ!!僕の前でやらないでよもう!」
「あら、ごめんなさい。」
さっき鼻血を出されたし、罪悪感を感じることなくいつもの冷たい態度で謝る。
「でも、あなたの言っていることと魔法は事実みたいね。ありがたく使わせてもらうわ。街の治安と平和を守るためにね。」
「僕の気持ちを分かってくれてすごく嬉しいよ…。これから頑張っていこうね。」
改めて、ジューダンの正義感が伝わってきたのと共に、街の治安維持のためのやる気がわいてきた。
とはいえここ最近、街での治安が悪くなっていて、喧嘩やトラブルは日常茶飯事だ。チケットはもちろん買っていないのに無理やり見せられた感がある。こういうのを見てるだけでも気分が悪いから、ストレス発散と制裁には使えそうだ。
そんなことを考えていると、
「おいゴラ金出せねぇってどういうことだよ!」
怒鳴るような荒い声が小さくも聞こえた。
「…カツアゲの声だね。こういうやつは嫌いだよ。」
「私も同意よ。できるなら今すぐにでもやっつけてやりたいわ。」
「そんなこと、今の君なら今すぐにでもできるじゃないか。」
そうだった。私は魔法という偉大な力を手に入れたばかりである。
「そうね、私行ってくる!」
「ちょっと待った!魔法少女として表に出るときに守ってほしいことがあるから、聞いてくれないか?」
せっかく治安維持への第1歩だと思ったが、止めるほどならさぞかし大事なことなのだろう。
「まず、"表に出るときは必ずさっき変身したときのカワボを使うこと!"かわいい魔法少女のイメージを壊したくないかね。」
身バレしないならカワボを駆使してもいいと思う。地声めっちゃ低いし。
「そして、"ピュアな性格の魔法少女を演じること!"失礼かもしれないけど、君の今の性格じゃ、キャラ崩壊しそうなんだよね。」
キャラ崩壊は自分も苦手だ。やるからには演技も必要なんだと感じた。
「わかったわ。すこし恥ずかしいけど、私は街の治安と平和を守るって決めてしまったの。だったらそんな演技だってやってみせるわ。」
「その意気だよ!頑張ってね!」
ジューダンに見送られ、私はカツアゲたちのもとへ急いだ。
僕はカツアゲに立ち向かう祐未香ちゃんの姿を見守っている。さっきの殴りもグッときたので、彼女なら大丈夫だろう。
「おい!いいから金出せや!いつまでも抵抗してんじゃねぇよ!」
「いや、もう…お金なんてないですよ、やめてください。」
ヤンキー面をした3人の男が気弱そうなサラリーマンの男性を襲っている。痛ましい光景だ。
「あ?出せと言ったら出せや口答えしてんじゃねぇ。」
「お前なぁ、そんな顔してるってことはカツアゲしてほしいってことじゃねーか。今更拒否してんじゃねぇよ。」
こういうやつはホントに苦手だ。しかし、逆にやられることを恐れて助けることができない人は大勢いる。
彼女もその1人だったのかもしれないが、今は違う。あの眼差しはガチだ。
「待ちなさい!」
「あ?なんだお前?」
しっかりカワボを使っているみたいだ。それにしてもかわいいなぁ。あ、いけないいけない…今はそんなこと考えてる場合じゃなかった。
「あなたたち、人からお金を巻き上げて何が楽しいの?」
「なんだぁ?人のことに文句を言うんじゃないよお嬢ちゃん。」
「そんな人間のやることじゃないことをする人は、"魔法少女ゆみぽん"が許さないわよ!」
魔法少女ゆみぽん…おそらく即興で考えたのだろう。しかし、とても愛嬌のある名前で僕は気に入った。
「あー、俺を怒らせたなぁ…一発やらないと分からないみたいだなぁ!!」
ヤンキーが祐未香ちゃんの元へ駆け込む。今にも殴りそうだ。
祐未香ちゃんはどうするのか。最悪の場合は僕が何とかするしかないが…。
「ぐあっ!?」
突然、祐未香ちゃんが蹴りをかました。お世辞にも、魔法少女がやることとは思えないが、彼女の身に害がないだけマシだろう。
「な、なんだあのガキ…パワーが只者じゃねぇぞ…。」
「だが、奴も調子に乗ってるだろうな。ここは俺がかましてやるぜ!」
「くっ、来たわね…」
ここでもう1人のヤンキーが祐未香ちゃんの肩をつかみ殴りかかろうとする。
しかし、祐未香ちゃんはピューリーズスティックの先を彼の前に突き、叫んだ。
「くらいなさい!ストレートフレイム!!」
その途端に出てきた直線状の炎は、ヤンキーの身体一面を包んだ。
「うわぁっちゃぁぁぁっ!!」
アレは1200度の炎を数秒出すように仕組んである。絶対に"熱い"と言わせてやる!という意気で作ったのだ。
「うわぁ…すごい炎だったわ…。」
自身も相当威力に驚いていたみたいだが…。
「隙あり!」
気が付いたころにはもう遅い。ヤンキーのリーダーらしき男が攻撃しようとしていたのだ。
「魔法か何だか知らんが、そんなことで調子に乗るなぁぁ!!」
流石にこれはまずいか?と思っていたが、彼女はとっさにピューリーズスティックを上に振り上げた。
「エアープレッサー!」
祐未香ちゃんが習得したと思われる新しい技でヤンキーは足止めをくらっていた。
"エアープレッサー"は、強大な空気圧で相手を覆い、動けなくするという魔法である。覚えるのが早い…。
そのまま祐未香ちゃんはヤンキーに近づき、低い地声でこう言った。
「アンタ、弱い人を標的にしてたみたいだけど…そうやって弱い人だけを狙うやつが意外と一番弱いらしいわよ?」
そして彼女は、動けないヤンキーに対して、豪快な背負い投げをお見舞いした。
見事な技である。ただ、僕としては魔法でとどめをさしてほしかったが…。
「見事だったよ祐未香ちゃん!僕も感激したよ!」
「ありがとう。でもあなた、選んだ人以外には見えないって言ってたのに、どうして陰で見守っていたの?」
「あ…ごめん…。」
「自分の能力忘れてどうするのよ…。私のそばでサポートとかできなかったのかしら?」
「すいません…次からそうします…」
さっきの彼女を見てから、怒らせたらヤバいタイプなのだと悟った。
「あ、私そろそろ制服に戻りたいんだけど。」
「ピューリーズスティックの底にあるボタンを押せば変身解除できるよ。」
「あ、これね。」
彼女はいつも通りの高校生の姿に戻った。
「さて、帰りますかぁ。」
彼女ならこの街を守ってくれる。そう信じながらこれからの活躍に期待したい。
僕はそう思いながら、彼女の後姿を追っていく。
第2話に続く…かも
あとがきに目を通していただきありがとうございます。
特に言うことはないんですけど、とりあえずこういう感じの魔法少女系の物語を書いてみたかっただけです()