残念な男
『私はあなたのことが好きです』
君たちは異性に借りた消しゴムのカバーを外したらそんなことが書いてあったらどんなことを思い浮かべるだろうか
そのまま見なかったことにする?
貸してもらった本人に『これなに?』と聞く?
『ふーん』という感じで見るだけ見ておく?
残念な男はそのどれにも当てはまらなかった
この時、残念な男はこの愛の告白のようなものを本当に『自分』に向けたものと思い込んだ
そして残念な男は行動が早かった、いや、早すぎたのだ
翌日の放課後早速残念な男は例の生徒を呼びだして自分から愛の告白をした
『消しゴムのメッセージを見たよ、実は僕も前から好きだったんだ。僕と付き合ってほしい』
するとその生徒はどうだろう、なぜかフリーズして固まっている
残念な男はここで一つ勘違いをした
-彼女はいきなり好きな人に告白されて戸惑っているんだ-
残念な男は少女漫画の告白シーンで見たようにそっと生徒を抱き寄せようとした
しかし残念な男が生徒を抱き寄せることはできなかった
何故かって?
生徒が一歩下がってお辞儀をしていたからだ
『ごめんなさい』
そうただ一言だけ
この時残念な男は全てを察してしまった
そもそもあの消しゴムのメッセージは自分に宛てられたものではないということ
フリーズしていたのは好きでもない人間に告白されて戸惑っていたということ
そして最後に
今の自分は消しゴムのメッセージを自分に宛てられたものだと勘違いをし、いきなり告白をしてくる頭のおかしいとても『残念な男』だということだ
幸いにも消しゴムを貸してくれた生徒は言いふらして回るような人ではなかったらしく残念な男の残念過ぎるエピソードを知っている者は『残念な男』を含めて二人しかいない
その後二人が会話を交わすことはなかった。
*
そしてその『残念な男』というのは僕のことだ
田中翔、容姿普通、勉学だいたい平均、運動能力平均レベル、人望はまぁそこそこ
いたって普通の高校生だ
俗にいう『モブ』っていうやつなのかな?どうでもいいや
何故さっきまでとても痛い残念な話をしていたのかというと今、前と同じような状況にいるからだ
大切なことなのでもう一度言おう
『残念な話』と同じような状況にいるのだ
経緯を簡単に説明するとこうだ
僕はいつも通り遅刻ギリギリ危機一髪な状態で校門を通った
早く学校に着いてもやることないしギリギリまで寝ていたい派だ
いつも通りロッカーに革靴をしまって上履きを取り出そうとしたとき一つの封筒のようなものが落ちてきた
嫌な予感がした
嫌な予感がしたが見てしまった以上放置するわけにはいかない
封筒には『田中君へ』と短く一言、差出人は書いていないがとてもきれいな文字だ
普通の人はこれを見たら告白なのでは?と思うだろう
実際僕もこれは告白に近いようなものだと思う
だが僕は違う!!!
僕は一度犯した過ちは二度と起こさない
この封筒は『田中君へ』としか書かれていない
つまりこれは僕に向けられたものではなく隣の『田中君』に向けたものだろう
彼はイケメン、学年3位の頭脳、バスケ部エース、そしてとても優しい
こんな彼がモテないはずもなく毎日のように告白されているらしい
同じ『田中』として誇らしいよ
彼曰く告白を受けるつもりは全くないらしいが
僕は封筒を『田中君』の下駄箱に入れて教室に急いだ
*
翌日登校をするとこんな噂が流れていた
『あの田中和人が女子生徒に振られた』
…
……ん?
…………え?
恐らく昨日の封筒の件で間違いないだろう
でも何かがおかしい。
そもそも田中君は『告白を受ける側の人間』ではないのか?
なのになんで振られる?意味が分からない
変わった性癖の女子生徒がいたもんだな
告白をすると見せかけて振るというのが性癖なのかな?できるだけその女子生徒とは関わりたくないなと思いながら田中君に合掌した
「田中君、どんまい☆」
*
それから何日か経った日、『田中君振られる事件』から大体1週間くらい経った頃のことだ
また僕の下駄箱に封筒が入っていた
差出人は書いていない
『田中』という文字が見えたのでまた『田中君』の下駄箱に入れてあげようとしたとき
『田中』の後ろに文字が続いていることに気づく
翔
田中翔
僕の名前だ
僕宛てのラブレターだ
僕はうれしかった、初めてラブレターを貰うのだもの、うれしいにきまって……
……
もう一度封筒を見てみる
字の書き方的に『田中君振られる事件』の女子生徒と同一人物だと考えられる
つまり『田中君』の次のターゲットにされてしまったのだ
いうならば『田中2号告白失敗事件』かな
冗談じゃない
僕はそんな遊びに付き合っている暇はないんだ
その封筒を丸めて近くのごみ箱に捨てる
玄関で時間を使い過ぎた、担任は厳しい人だから遅刻判定だな
と思いながらゆっくり歩く
*
その後日から女子に変な目で見られたのはなぜだろうか?
批判コメがあると興奮する