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小田原の役③

少し視点を北条家に移してみました。

天正18年4月15日現在、すでに北条方、松山城、松井田城、箱根山中城など、北条の拠点が次々と豊臣軍に攻略されていた。


海上はすでに豊臣軍によって封鎖されている。


北条家当主、北条氏直は、今回の戦はまるで勝ち目のない事を悟っていた。

『もはや是非もなしか・・・。』

この所、氏直は独り言が多い。

日ごろの心労が、若くして家督を継ぎ、嫌、継いだのはいいが、実質、父の氏政が、北条の実権を握っていると言っても過言ではない。

そんな、北条家の構図が今回の戦を引き起こしたのかもしれない。


だが、今回の北条攻めは、秀吉に難癖をつけられたようなものである(氏直は名胡桃城を乗っ取ったのではなく、すでに真田家に返還し、真田方の名胡桃城主中山九郎兵衛の書付を進上するので真理を究明してほしい旨を、秀吉側近の津田信勝、富田知信に対して弁明するとともに、徳川家康に対しても執り成しを依頼した。そもそも、秀吉が調停し、北条が領有した沼田城からは3kmほどの距離で、目と鼻の先の距離。沼田城を領する北条家から見ればまことに都合が悪く、後に禍根を残すのは火に油を注ぐのを見るより明らか。)


この様な経緯もあり、和解の道を探っていた氏直であるが、父である先代隠居、氏政の策謀で北条氏邦が宇都宮に侵攻していることから、申し開きも不可能になり、豊臣軍迎撃の準備を始めた。


北条家の主戦派部将達は、小田原城が力攻めで落とす事を不可能だと考えていて、有利な条件で講和し、豊臣家中の徳川家の様なポジションを狙っていたのではないかと思われる。

実際、豊臣軍諸侯の中にも、小田原城を攻め落とすのは難しいのでは?と、腹の中では考えている者も多かったらしい。


確かに支城、拠点は落とされるであろう、が、本体である小田原城が落ちるわけがない。

家中の意見が、2つに分かれているだけにタチが悪い。

これが、並みの城であれば、恐れおののいて、とっくに降伏論で統一出来たであろう。

しかし、この小田原城、城本体のさらに外側に全周約9キロメートルもある大外郭を設けて城下町をも包み込み、いわゆる「総構」と呼ばれる城塞であった。

なんせ、秀吉が建設した大阪城より、規模の大きい『巨城』なのである。


しかし、秀吉が小田原を包囲すると、家中の士気はかなり落ち込んだ。


何せ、上杉謙信、武田信玄ら、歴戦の兵を追い払った要因の一つである、『国もとの心配』が秀吉軍にはない。


古今東西、援軍の無い、孤立無援の状態で、大軍の包囲を打ち破った例は無いと断言できるほど皆無である。

しかも、率いる豊臣秀吉という男、築城、城攻めにおいて、正に戦国最強と言っても過言でない男が指揮を取っている。

今回の戦には、秀吉の弟である、豊臣秀長も参加していると聞いて、氏直な絶望に近い思いを抱いていた。

この秀長という男は秀吉をのぞいて、10万人規模の戦略指揮を執った日本の歴史で数少ない人物である。

しかも、兄の影に隠れているが、滅法に調略、合戦が上手い。

兄にも通じるのであるが、この兄弟は、戦術単位では、負けても、大局の戦略戦では無敗である。

あの家康でさえも、小牧・長久手の戦いでは、諸戦闘では勝ったが、最終戦略戦では完敗である。



当然、氏直は戦闘そのものより、自分たちの気付かない内に戦が終わってしまうのではないか?と、思いを巡らせているが、どうにもならない絶望感だけが、湧きあがり、腹の中を痛みが襲ってくる。


『おるわ、おるわ、蟻んこの様ではないか。』

城下を囲む人の群れ、さながら蟻の様であると、氏直はつぶやいた。


氏直の眼下には秀長の馬印である赤染め一色白熊の馬印がぼんやりと目に写った・・・・・。

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