陰謀の匂い
流は秀次につかえる草で、主に徳川家の情報収集を担当とする忍びである。
普段は、徳川家康の居城である駿府城に送り込んである、女中達からの情報を精査し、主君に報告するという任務についているわけなのだが・・・。
『どうも、武蔵大納言(家康)が調法している生薬に毒物が混入しておるとの事で有ります。』
報告を受けた秀次は、驚きの表情とともに、やはりととも取れる表情を見せ、
『う~む、武蔵大納言はやはり豊臣の生命線をついてきたか・・・。』
少し影のある表情をさらに深めていく・・・。
『秀次様!このままですと大和大納言様(秀長)のお命もいずれ尽きてしまいまする!!』
流が自身のもたらした情報が、どの様な流れを生むのかを勿論分かっている。
『しかし、相手は武蔵大納言、確証も無いままに詰問もできん。まして、関白様に知れたら、怒り狂い太平の天下を再び戦乱に巻き込みかねん・・・。』
というのが、当時生薬として扱われていた辰砂という物は、あの水俣病の原因にもなった水銀なのである。
これを大量に摂取すると体に害が出ると、自身が無類の女好きで、梅毒持ちの家康には分かっていた(当時水銀は梅毒の薬として、明治期まで広く伝わっていた。)
であるから、生薬の処方を教えて何が悪いと開き直られるのは間違いない。
秀次は共周りを引き連れ馬を駆った・・・・。
そう、116万石の大大名であり、寺社勢力の苛烈な大和、紀伊、和泉を治め、「内々の儀は宗易(千利休)、公儀の事は宰相(秀長)存じ候」と南海道の雄、大友宗麟を感激せしめた、自他共に認めるゆるぎない豊臣政権の№2 従二位権大納言 豊臣秀長の居城、大和郡山城に。