伊達と最上
秀吉に北条家が屈したころ、伊達軍が最上領になだれ込んできた。
この血縁関係にある伊達と最上、事あるごとに争いが絶えない。
最上義光の妹である義姫(保春院)は紛れもない伊達政宗の母である。
この義姫、此度の小田原の役の最中に、政宗を殺害し、弟の竺丸を当主に据えようとしたと伝わっているが、当時竺丸は勘当されており、史実的には誤りだとされている。
だが、生家である最上家と対立姿勢を鮮明にする政宗とは馬が合わない事は事実で、後に最上家へ逃亡をする事になる。
伊達政宗は決断した。
家康の書状によると最早手遅れで、先に秀吉と誼を通じていた最上に奥羽討伐の命が下るとあった。
ならば、当主の居らぬ隙に出羽を掠め取ろうと、足がかりになる拠点長谷堂城に兵を進めた。
自身の右腕が片倉景綱であれば、左手のあの男に威力偵察には多すぎる三千の兵を預けて・・・・。
もちろん最上方も黙って侵略を許すわけもなく、笹谷峠にて、伊達軍を迎え撃つ。
『かかれ~~~~!!!』
『死ねや!!!!死ねやあ!!!』
ムカデの前立ての兜をかぶり、十文字の槍を馬上で振るう武者が進むたびに道が出来て行く。
男は戦場でつぶれた声を絞り出し、獣の様な雄たけびを張り上げる。
その光景が、最上方の志村光安の目に焼きついて、歴戦の武将である光安の闘争本能に火を付ける。
『いつまでも彼奴らに好きにさせるなよ』
つぶやく光安が睨みつける視線の先には、伊達家の猛将、伊達成実が猛威を奮っていたのであった。
『長槍隊かわせ!鉄砲隊押し出せ!』
光安の号令で、長槍隊が左右に展開し、中央に道を作る。
する手相手は穴の空いた所に吸い込まれていくが・・・。
『一時引けや!』
成実が、突出しようとした軍を50メートルほど引かせる。
『槍隊、槍上げ!!』
槍隊が長槍を頭上に挙げる。
この距離では鉄砲は届かない。
それを見て光安は、長筒隊を持ってこさせる。
『構え~~~~~~~~。』
『放て~~~~~~~~~!!!!!』
通常より火薬を増やし、銃身を1.5倍に伸ばした長筒より、銃弾が発射される。
この当時の鉄砲は現代の銃身内に刻まれている線条が無いため、運動エネルギーの効率が悪い。
で、あるから射程を延ばすには、銃身を延ばし、火薬を増やさなければならないが、これの見切りを誤ると、暴発に繋がっていくので、取扱いに注意が必要になってくる。
百丁の長筒より火線が延びて行く、届かないはずの銃弾が届いた心理的動揺は大きい。
槍隊に乱れが生じる隙を見逃さず光安が吼える!
『槍隊!掛れや~~!突けや~~~~!!!』
振り下ろした槍をそのまま突いていく最上勢。
予想以上の手ごわい相手に伊達成実は舌を打つ、
『最上に楯岡満茂、延沢満延ありと言われておるが、こ奴も中々やりおるわ』
まさに延沢満延が義光の共に秀吉へ接見に向かっている留守を狙っての進軍であった。
そうこうして居る内に、手勢が削られていく・・・・。
いったん引くしかないか・・・。心でつぶやく。
それにしても、この屈辱忘れんぞ!!
伊達の猛将、伊達成実は退却の命令を出し、本軍に合流すべく、兵を引き上げた。
志村光安、史実では長谷堂にて上杉軍を破った勇将である。