小田原の役 最終話
小田原の役終了です。
伊達政宗が登場します!
秀吉側から、北条氏直への降伏勧告はこの様な内容であった。
1.小田原城の引き渡し。
2.伊豆・相模・下総・上総北半・武蔵領地召し上げの上、上野一国安堵、川越城を本城と定める事。
3.氏政、氏照兄弟を高野山流罪。
4.一子である生姫を人質とする事。男子が誕生の場合は男子を人質とする。
5.北条氏規を堀秀政付けとする事。
6.この案を受け入れない場合は、北条家取り潰しの上、一族郎党厳罰に処す。
以上が条件であった。
ついに決意をした氏直は、板部岡江雪斎、成田氏長、北条氏忠、皆川広照などの諸将と共に、氏政、氏照を捕えにうごいたのであった。
『氏直!どういう了見じゃ!!!!』
太刀を振り回し暴れる氏政は息も切れ、目は殺気立っている。
『父上!これ以上は是非もなし!後北条家名を残さなければならんのです。秀長殿は、誰の命も望んでおらず、父上と、叔父上の流罪で和議がなるのです!!』
氏直は悲しみを胸に秘め、北条家の当主として、今しなければいけない事に向かって、一寸の迷いもなかった。
『この日光一文字、父上の血を吸いたがっておりませぬ。どうか、どうかお縄に召してくださいませ!』
日頃見た事のない覇気を氏政は、氏直に見た。
いつも自分の言うとおりに物事を差配していた氏直とは違う空気を感じた氏政は、太刀を鞘にしまい、腕を組んだまま床に座り込んだ。
『北条家当主は氏直じゃ、好きにせい。』
そして、不思議と笑いが込み上げてきた。
氏政にしてみれば、氏直を思っての行動も、ひょっとしたらいらぬお節介で、自分は早々に引っ込んでしまえば良かったとも思った。
氏直は北条家の武装解除を伝達し、氏政、氏照、氏規を伴い、秀吉に接見した。
秀吉を筆頭に、秀長、家康が脇を固め、戦国に生きる男なら、誰でも耳に入ってくる名前の部将たちが周りに連なっている。
陣所に入るなり秀吉が顔をくしゃくしゃにし、氏直に歩み寄る。
『これはこれは左京太夫殿、よくぞご決心なされた!!』
そして、縄に繋がれている氏政、氏照を見るなり、
『これこれ、お二人の縄をほどいて差し上げろ、失礼はいかんわ。』
と、芝居くさい大げさなリアクションで動き回る。
そして、打って変わって冷徹な表情で氏直に向い
『大和大納言に感謝するんじゃな、余は氏政殿、氏照殿の首は頂くつもりじゃったが、大納言が、寛大な処置をと申すのでな・・・。』
そこに家康が割って入る。
『殿下の寛大な処置、この家康は頭が下がります!氏直殿は、我が婿でもあり、家康、かさねがさね御礼申し上げます!』
今回の戦で、徳川家は見せ場がほとんどなかった。
もっぱら、戦功を上げているのは別働隊の面々と、水上封鎖軍、北方軍、秀長本軍であった。
一応家康も軍団を形成し、小田原城を包囲していた。
それだけではなく、本多正信、服部正成に命じ、彼の配下の伊賀同心を使い、謀略工作に動いたのであるが、風魔衆や、他の何者かによって、ほとんどの忍びの消息がつかない。
自身の存在を見せ付けるため、あえて秀吉の次に声をあげたのである。
『はっはっはっ、まあ確かに、武蔵大納言の婿どのじゃのう?』
秀吉は下から覗き込むように、家康の顔を眺めた。
『氏直殿、これからの働きによっては上野だけではなくさらなる加増もござろう、また家臣の録も減らさなければなるまいて、お困りになるのは必定、家臣、国人もし良ければ、堀殿にお預けいたしませんか?』
秀長は、これから減俸になる北条が、現状の家臣団を養えない事になる。それを、秀政に預ける事によって、関東の支配を秀政筆頭に親豊臣で固めたかったのである。
諸侯の列に座る秀政が大きく頷く。
家康が何か言いかけるが先に、氏直が、
『堀殿!!!どうかお願いいたします!この度の事、家臣共に罪はありませぬ!どうかお願いいたします!!』
氏直が、降伏にあたっての最大の懸案事項が、家臣、国人の処遇であった。
何せ、5分の1に領地が減るのである。
どれだけ見積もっても、家臣の半分以上は武蔵に連れていく事は出来ない、良政を民に施していた北条家の関東支配であった、課税率も戦国一の低さである。
当然家臣たちも切り詰めて生活をしているのであった。
『そうじゃ、そうじゃ、秀政殿には関東を治めてもらわにゃいかん。伊豆・相模・武蔵合わせて100万石じゃ!』
秀吉はいたずらっぽい顔で秀政を見た。
秀政も、関東で50万石位の領有は皮算用で見積もっていたが、100万石とは・・・・。
流石の秀政も驚いた表情を見せ、
『はは!殿下の仰せのままに!』
と、秀吉に頭を下げ自身の重大な役割に気づいたのであった。
この少し前、会津黒川城では奥州の雄である伊達政宗が一通の書状に目を通していた。
『三河の家康殿は何と?』
政宗の軍師であり、もっとも信頼する家臣の片倉 景綱が政宗に問う。
それに対し、政宗は・・・・・・・。
何やら、あわただしく本陣近くまで馬が駆けてくる。
転がり落ちるように、伝令将校が本陣に駆け込む!
『伊達政宗!!挙兵の様子、領地に動員をかけ、戦闘態勢に入りましてございます!!!』
諸侯が一様に目を光らせた。
戦は、知行を増やす一番のイベントである。
その中で、不気味な笑みを湛える男がいた・・・・・・。
東海の覇者、徳川家康である。