花袋崇拝
久しぶりの投稿です。
今回から一話完結方式を辞めます。
「女子の部屋に侵入しよう。」
赤神は風呂上りにもかかわらず、脂でてかてかした顔で、堂々と提案した。
「却下。修学旅行の女子の部屋見て何が面白い。修学旅行で覗く定番は女子風呂とかだろ?」
「ハッハハハハ
馬鹿だ。馬鹿であるぞ。発地! もう、女子風呂を覗くなんて古い!」
「その心は?」
「確かに、漫画やアニメの修学旅行の定番は女子風呂を覗くことだな。だが、よく考えてみろ。女子風呂を本当に覗いたら、絶対に後悔する。」
「それは実際は女子風呂を覗くのは不可能とか、犯罪とかいう問題か?」
「違う。仮に、女子風呂を何のリスクもなく、覗くことができたとする。この時、たくさんの女子クラスメイトの裸体を見ることになる。一星や水上は素晴らしいものだろうと予想することができる。
でもな!その裸体を見た女子と学校で会ってみろ。 絶対気まずい。
あー、あの時、あんな体してたあの子ね。着痩せするんだなあ。
……ごめんなさい~。
きっとこうなる。女子を見るたびに、覗いたその女子の裸体が思い浮かんで、罪の意識にさいなまれるんだ。
健全な高校生には、女子クラスメイトの全裸体は刺激が強すぎる!」
「女子風呂を覗くことが駄目なことは分かった。なら、このまま、浴衣姿の色気づいた女子を指しゃぶりながら、見とけばいいじゃないか。」
「確かに、風呂上り、浴衣姿の女子は、エロい。
でも、それで満足していいのか。お前が健全な男子高校生なら違うだろ。」
「女子部屋を覗くことが正解ってか。」
「違う。覗くんじゃなくて、女子の部屋に入るんだ。女子の部屋の中で、何かを盗んだり、触ったりしない。ただ、女子を感じるんだ!
想像してみろ。女子の生活痕を目で感じ、残り香を肺いっぱいに吸い込む。最高だろ。」
赤神はその場で、大きく深呼吸をした。
赤神は怪物になってしまった。僕があの時、声をかけていなければ、赤神は大人しく修学旅行を過ごしていたのに。
「発地、キモッとでも思っていそうな顔だな。
でもな、この日本はキモイんだ。女が使っていた布団、羽織、リボンをすんすん嗅ぎましたって内容の小説が教科書に載っているんだぞ。これは国が女子の残り香こそ至高であることを教育しようとしている証拠だ。
日本男児よ。キモくあれという国からのメッセージだ。だから、国の犬になって、キモくなるんだ。さあ、女子の部屋の匂いを嗅ぎに行こう。」
「詐欺師か、政治家の才能あるんじゃないか。そんな馬鹿なことはやめて、そのどっちかになったらどうだ。」
「政治家も詐欺師も同じだろうが!
そんなことより、行こう。」
自分は有明の方を見た。読書をしている有明はこちらを少し見たが、すぐに本に目を落とした。
「この修学旅行も、人生も一度きりしかねえんだぞ!俺を信じろ、発地!」
「少年漫画の終盤で言ったら、心動かされてたかもしれないが、今は全く心動かないな。」
自分がそう言うと、赤神は膝を地面につけて、頭を下げた。
「頼む。どうしても入りたいんだ。今を逃してしまったら、俺は将来犯罪者になる。今ならばれても、ギリギリ許される。発地、今から生まれる犯罪者を一人減らしてくれ。」
涙交じりに懇願してくる赤神に自分はどう対処しようか迷っていた。しばらく自分は悩んで、無言になっていた。赤神の涙をすする音に耳を傾けていると、隣の部屋から大きな音が聞こえた。その後、女子の話し声が微かに聞こえてきた。
「ちょっと、輝璃。何ベランダでこけちゃってるの?」
「いやー、景色を前に乗り出して見てたら、ここから落ちそうになっちゃって。」
「輝璃、やっぱ抜けてるわね。そんなことよりも早く、露天風呂行っちゃいましょう。」
「分かった。準備するね。」
「今しかない。今行かないと、隣はがら空きだ。入るなら今、今なんだ。発地~。」
赤神は自分の足元にかじりついている。
「やめと……」
「うるせえ、行こう。」
ドンとでも聞こえてきそうな剣幕で、赤神はそう言って、自分の手を無理やり引っ張った。自分はそれに抵抗するように、踏ん張る。しかし、赤神の引っ張る力が強くじりじりと引き寄せられる。すると、有明が読んでいた本を閉じ、立ち上がった。
自分は有明が赤神の暴走を止めてくれると思った。
「発地、諦めて、女子部屋行ってこい。」
「やだよー。自分、社会的に死ぬよ。死にたくないよー。」
有明はため息をついた。
「じゃあ、俺も行こう。」
有明は赤神が持っている手と反対の自分の手を握って、引っ張ってきた。有明は諦めたようだった。
「やだ、死にたくないー。」
結局、自分は叫びながら、二人に引きずられていった。