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最近娘の様子がおかしい

うちの娘はとても可愛い。決して親ばかではなく、いや親ばかも多少は入っているだろうが、冷静に分析してもうちの娘以上に可愛く美しい少女はいないと断言できる。


この世の美しさを集めたような艶やかな黒い髪に、心を奪われてしまうような夜空色の瞳。大陸で主流の信仰である夜の女神の化身と言われてもおかしくないくらい幼い頃から可愛く美しかった。


可愛い可愛いと甘やかして育ててしまったにも関わらず、我が儘に育つこともなく性格は控えめで穏やかであり、多少おかしなことは言うものの、幼い頃から勉強熱心で賢く、ダンスは少し苦手なようだが、10歳にして刺繍は職人並みで女性としての強みもある。どこに出しても恥ずかしくない立派なレディに育った。


そんな娘の様子が最近おかしい。


あれは確か王子殿下のお茶会に招かれた日のことだ。

これだけ容姿に恵まれているにも関わらず、自信がなく控えめな娘は最後まで沈んだ様子でお茶会に向かって行った。何事もなければいい、注目を集めるのは分かっていたので、友達もでき、きっと笑顔で帰ってくるだろう。

本当に嫌なら体調不良を理由に帰っても良い、私を呼び出しなさいと伝えてある。

本当に体調不良の時にすぐに迎えに行けないのは困るので、そうでない仮病の時用の言い回しも伝えてある。


お茶会が始まって中程くらいか、一時間もしないうちに連絡が入った。

慌てた様子で娘の体調不良を伝えに来てくれたメイドには悪いが、娘からのメッセージは仮病ですぐに帰りたいという内容だった。

今日はお茶会終わりの娘と帰ろうと思っていたので、業務量も事前に調整済みだ。御者への伝言をお願いするためメイドは帰したが、若干の引き継ぎがあるため、誰かに娘への伝言もしてもらいたい。


うちの娘は本当に夜の女神かというくらいに可愛いので、変な男を使いに出すわけにはいかない。真面目で信頼のおける男がいいと、職場を見回して一人の部下を呼んだ。


これが運命の分かれ道になるなんて、どうして気付けようか。



「メイドが数人お世話をされていたので、戻ってきました」


私みたいな男はあの場に相応しくないので、なんて苦笑する部下は確かに見た目は良くはない。しかし、仕事は真面目で思慮深く、性格も穏やかで、見た目で苦労してきただろうにひねくれたところもない。私はなかなかに良い男だと思っている。


「どうだい、うちの娘は可愛いだろう」

「そうですね、夜の女神様かと思いました」

称賛する言葉に邪な気持ちは感じられず、やはりこの男を使いに出して良かったなと思いながら引き継ぎを済ませた。


まさか娘があんな状態だとは思わずに。



迎えに行った娘はなにやら放心した様子で、メイドが話しかけてもどこかぼんやりとしていた。これは本当に体調不良だったのかと焦って揺り動かすと、漸く私の存在に気が付いたようで、


「お、お父様、美の男神が現れました…!」


始めは、部下と入れ違いに他の男と会ったのかと思ったが、よく聞くと、神々しいや麗しいなどといった感覚的なことは置いておいて、銀色の髪の毛や水色の目は確かに使いにやった部下そのものだ。


ここ最近の沈んだ様子とはかわり、上機嫌できらきらと質問をしてくる。それが、先程の部下のことだというのは解せないところではあるが、我が家の女神が楽しそうだからまぁいいかと、その日の馬車や夕食までは思っていた。


楽しそうが、なんだかおかしなことになっているようだ、になるまでそれほど時間はかからなかった。


刺繍が得意なのは知っていたが、推しフラワー?とやらで、白百合の刺繍を刺しはじめた。

自室のクロスやカーテンでは飽きたらず、屋敷のクロスやクッション、私のハンカチやシャツにまで白百合の刺繍を刺していく。


家紋でもない花を持ち物に刺繍している男は珍しいため、不思議に思った部下に

「その花お好きなんですか?奥様からの贈り物ですか?」と聞かれたが「これ、お前らしいよ」とは言えなかった。


そんなに会いたいなら会いにくればいいと、娘を部下に会わせてみたが、「ひぇ、あっ、えっ」と私のジャケットを握り締めてパニックになりそうだったので「悪いね、娘が」と言って意図を伝えることも出来ずに即座に回収するしかなかった。


手作りのクッキーを渡すだけで倒れるんじゃないかというくらい赤くなって手も震え、結局侍女が渡している現場も見かけたことがある。


私の娘はどうしてか、可愛いのに残念なお嬢さんに育ってしまったらしい。

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