王子妃候補になりました
一瞬の登場で私の心を奪った推し様の名前はアルベリック様。我が国固有の宝石の産出で有名なヘントリクス伯爵家の三男だという。
お父様の職場の部下である彼は、現在4年目の22歳。学生にすらなっていない10歳の私に、推し様と接する機会なんてある筈もなく、お父様に頼んで推し様の姿絵を描いてもらおうか、子供の我が儘を全力で使って職場見学をさせてもらおうか、お父様に頼み込んで推し様のスケジュールを把握して遠くから見守ろうかなど、お父様を巻き込んだストーカー一歩手前のことを考えていた。
そんなストーカー一歩手前の私に幸運が訪れた。
途中退席したにも関わらず、何故か私が第一王子妃の候補に上がってしまったのだ。第一王子妃は公爵家のご令嬢に決まっている出来レースみたいなものだから気負わなくてもいいらしく、ただで良い教育が受けられると思えば良いとも言われた。
前世オタクだった私は王子妃教育がとても大変だということを知っている。それが大変だったから、お相手のことは好きでも何でもないが苦労を一瞬で壊したとぶち切れる悪役令嬢の話も沢山読んだ。
知ってはいたが、王宮に行けばまたあの人に会えるかもしれない。王子妃教育はほぼ毎日あるだろう。ほぼ毎日登城すれば、その分だけアルベリック様に会える確率は上がる。
少しくらい休憩時間はあるだろうし、幼い娘が父親恋しさに職場に遊びに行くのもたまには許されるだろう。登城用の城門は一つだし、お父様の帰りを待って一緒に帰宅すれば、尚会う確率は上がるだろう。
推し様にまた会えるかもしれないと、にへにへと笑いが止まらなかった。
そんな100%いや500%邪な気持ちで王子妃教育という大層なことを了承してしまった。
いざ彼を目にすると眩しすぎて麗しすぎて極度の緊張から近寄れず、7~8年間は遠くから眺めることしか出来ないことになるとも知らずに。
遠くから眺めることしか出来ないが、それでも推し様を愛し、愛でていく気持ちは変わらない。そもそも推しとは遠くから健康と幸せを祈っているものである。
また、見目麗しく才女として有名であり、侯爵家に婿入り出来るという超優良物件なご令嬢であるティファーナには、本来山のような縁談が舞い込む筈であったが、王子妃が決定するまではそれも出来ず、一件も縁談が入らなかった。
それはティファーナの、侯爵家の一人娘なのに自分はモテない、はぁ地味顔つら…という思い込みを助長させることになったのだが、それがなくても普段は引きこもり、夜会では壁になりきっているご令嬢をダンスに誘う殿方はそうは多くなかったに違いない。
余談ではあるが、とある公爵令嬢に決まっているほぼ出来レースの王子妃教育であるが、ついでに貴族子女のレベルの底上げをしようという思惑や、実力を見せることによって色素があまり濃いとは言えない公爵令嬢への風当たりを弱める役割もあったとかなかったとか。
公爵令嬢も当初はティファーナの美貌に王子殿下がくらっとやられてしまうのではないかと不安だったようだが、王子殿下の真摯な対応に気持ちを改め、二人で幼いながら淡い愛を育んでいる。
ティファーナに関しては、王子殿下どころか同世代の男に全く興味がなく、教育以外の王子殿下とのお茶会はすっぽかして父親に会いに行っているところに信頼が置けるとのことだった。あと王子殿下を見る目がやけに生温くばばくさいのは気になったとのこと。