推しを表現する語彙力が欲しい
現実味のないドストライクな容姿にとうとう前世の推しが二次元から出てきてくださったのかと思った。
前世で敬虔なオタクだった私に、神様が贈ってくれたプレゼントなのかと。
もしも(オタク的な意味合いで)来世で奇跡が起こった時のために徳は積んでおこうと、信号は守ったし電車で座席は譲ったし落ちているごみは拾っておいて本当に良かった。
呆然としている私に、そっと近付いたその人がお父様が書いたと思われるメモを恭しく差し出す。うわ、指先まで理想。
「タイラン様より半刻ほどお待ちいただきたいとの伝言を預かって参りました」
「あっ、ありがとうございます」
喋った。
いや、先程も話しかけられはしたけれど、まじまじと見ると本当に美し過ぎて、彫刻なのかななんて馬鹿なことを考えていたから喋ると思わなかった。しかも良い声…どこの有名声優よ。
手は震えていたかもしれないし、顔は真っ赤だったかもしれない。なんなら二次元からの美青年登場に(違う)びっくりして腰は抜けていたので、立てなかった。
それから半刻だったのか、一瞬だったのか分からないが、美青年に渡された紙を握り締めたまま固まっていたらしい私は、到着し心配したお父様に揺り動かされるまで、脳内で彼の姿をエンドレスリピートして讃えまくっていたのでほぼ意識がなかった。
なにあれめちゃくちゃイケメンというか、イケメンという言葉が当てはまらないくらいの絶世の美青年なに。瞳はなんだあのええとアクアマリン?ブルーなんとか?宝石知らないから全然言い喩えが浮かんでこない。流氷の濃いところの水色みたいなって全然上手く言えないけれど、静謐で吸い込まれそうな透明感のある水色。
神々しく光り輝く銀色のお髪も、この世の美しさを全て詰め込んだように美しくきりりとした顔立ちも、私の邪な気持ちなんて瞬間的に浄化されそうな透き通った瞳もとても彼に似合っている。
声も耳に心地好い優しいテノールで、その声を聞いた一瞬にして陰鬱とした世界の雲は晴れ、眩い光が射し込み天上界に誘われた。それくらい幸福度が高く、録音して永遠に聞いていたいし、録音した声は末代までの家宝に、いや国宝にしたいくらい。いくら払えば録音させてくれますか?
はあ、なにあれ美の男神の化身かな。彼の神を祀る神殿はどちら?
だから、帰りの馬車や夕食の間中ずっとお父様にテンション高く今日の男性のことを聞いてしまったのは仕方がないことだと思うの。
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「先程の方のお名前は?」
「おいくつですか?」
「お父様とどういった関係なの?」
「家族構成は」
「幼い頃の渾名はやはり天使様でしたか?」
「彼の声を録音したいのですが、録音機器の開発はまだでしょうか?」
「彼を祀る神殿はどちら?」
「夜の女神から美の男神様への改宗も視野にいれて」
「彼の生誕は領民の、いえ国の祝日にしましょう」
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父「(後半何言っているか分からなかったが、久しぶりに楽しそうで良かったな)」