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海は、悲しそうな顔で仁を見ていた。
「そうか...お前もか。」
そういうと、ポケットからスマホを取りでし、誰かと話していた。
それから1分もたたずにドアが開かれ、肌の白い青年と、顔に火傷の跡がある少年がやってきた。
3人は、部屋の惨状を見ても特に動揺することもなかった。
「やあ海、この子が弟くんかい。」
青年がそういうと、
「はいマスター、今日はわざわざ来てくれてありがとうございます。」
そう海が返す。
「さてと、取り敢えず発動条件を調べるか。」
そういうと、青年はハンカチを丸めて投げたり、指を近ずけたりしていた。
「対象は生き物で、月を媒体にした攻撃系の能力かな、あとは...。」
そういうと、青年はおもむろにナイフで指を少し切ると、血を髪に染み込ませ、遺体の方になげた。
『イザナギ』
そう青年が言うと、紙がみるみる膨らんでいき、カラスの姿になった。カラスは、じっと止まっていたが、青年が「飛べ。」というと、羽ばたこうとして、月の光に焼かれ灰になった。
「生きているものの中でも、動いてるものに限られるのか。便利な能力といえないかな。」
仁は、口をぽかーんと開けたまま、ただ今起きたことを見ていた。
「弟くん、これが僕の能力『イザナギ』だ。自分の一部から、新たな生命を誕生させられる。まあこれが本質ではないんだけどね。ちなみにそこのチビの能力は、『韋駄天』走るのが尋常じゃないくらい速くなる。」
そう言われた少年は、何か言いたそうな顔をしてぶつぶつ呟いていた。
「さて、本題に入ろう。」
そういうと、青年は真剣な顔になった。
「君には2つ選択肢がある。一つは、親と幼馴染を殺した犯罪者として生きていくこと。2つめは、今の生活を捨てて僕たちの仲間になること。じっくり考えるといい。」
仁は、今までの話の内容は、ほとんどわからなかったが、ただ「親と幼馴染を殺した犯罪者」というところだけ、頭に残っていた。
「僕は...殺してない。」
そういうと、仁は、自分の部屋へと向かっていった。
◇◆◇
「なんで言わなかった。」
海がそう聞くと、
「おう怖い怖い、とても自分のマスターに対する台詞じゃないね。」
そう青年は返す。
「まあ彼がやったとしたら、遺体なんて残らずに灰になるのは、僕の能力でわかったからね。」
「それなら「でもね。」」
海に食い気味で青年は続ける。
「復讐って不毛でしょ。」
海は黙って青年を睨んでいた。
「そんなことより、母親と親友が死んで、兄の連れてきたよくわからない男に、人殺しとまで言われたんだ。急いだ方がいいんじゃない。」
海は、舌打ちをすると、仁の部屋へと向かっていった。
「なんだよ、君も何か言いたそうだな。」
青年が少年に語りかけると、
「うるさいな、人を移動役扱いしやがって。」
そう少年が返す。
「まあ君も他人の能力の暴走に巻き込まれてるからね。気に留めるのもわかる。」
◇◆◇
仁はベッドの上でうずくまっていた。
「やってない、僕はやってない。」
そう呟くと、ポケットからナイフを取り出した。さっき机の上に置いてあったのを、回収していたのだ。
ナイフを喉に近づけた時、
「仁いるか、少し話しをしよう。」
そう声をかけられた。
「おまえがやってないことは俺もわかってる。だけどな、世間的に見ればお前以外考えられないんだよ。」
そう言われて仁の気は暗くなるばかりだ。
「でもな、母さんたちは今日何のために祝っていたんだ。お前がここまで生きてこれたことを祝うためじゃないのか。」
そう言われても、仁の心には届かない。だがそんなことは海にもわかっていた。
「まあそんなことはぶっちゃけどうでもいいんだ。
俺もな、母さんたちが死んで悲しいんだ。」
そういう海に声はかすれていた。
「俺を...俺をひとりにしないでくれ。」
今にも消え入りそうな、縋るようなこえで言われた海の言葉は、仁に深く刺さった。
「だからな、どうか俺たちと一緒に来てほしい。頼む。」
翌日、仁は覚悟の決まった表情で、3人の前に立っていた。
「僕は、貴方達の仲間になるのを選択します。」
青年は、ニンマリと笑うと、
「ようこそ『渡鴉』へ、僕らは君を歓迎する。」
この日から、仁の人生は、大きく変わっていった。