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Kanaan  作者: や
1章 序戦
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カナン戦1戦目 英国民話には豆植えたジャックと巨人狩ったジャックとランタン持って天国と地獄に出禁くらったジャックがいるわけで

「生きてたの、ダヌバンディアの狗」


 カナンは蒸発しながら笑った。


『それで? その子はお友達? またあなた、お友達をあたしに殺させるのかしら』


 カナンが俺をあごでさした。リアンが思い切り銀の鎖を引く。カナンが地面にたたきつけられ、派手に肉片をとばした。

 脳漿が飛び散る。

 悪霊がひとの形を派手に壊して見せるのは、こちらのメンタルを抉る演出だ。

 わかっていても、俺は顔をしかめた。

 容赦ない血の臭い。


「友達じゃねーよ」

 リアンは断固とした口調でNot の発音を強調し、半分に割れたカナンの頭を踏み割った。


『終わりだ、カナン!

 私はジャック、巨人殺しの四装備を纏うほうのジャック!』


 ちからのある言霊が、ヨーマン・ウォーダーズの姿を消した。

 巨人殺しジャックの四装備の一つは、透明マントだ。あれはローリングが世界に広める前からずっと、イギリスでは市民権があった。

 カナンの心臓に、銀の剣が突っ立つ。爆発的に蒸気があがった。

 蒸気によって一瞬しか見えなかった銀の刀身は、ジャック四装備唯一の武具。無敗の剣だろう。

 蒸気発生源の方から円を描くように、電柱に括られたひとの拘束が次々解けていく。3カウント後には全員が解放されてる。リアンが縄をぶった切って回ってんだろう。ジャック四装備の一つは早駆けの靴だ。

 焼けただれた人々が、地面を転げ回る。全員生きてた。そうだろう。よほどの火勢でない限り、人命は短時間じゃ燃え尽きない。

 魔女狩りの火刑エピソードには、炎の中で「もっと稾をくべてくれ」「火勢を上げて、早く楽にさせて」て叫んだとか、炎の中で何時間って単位で生きてたとか、耳を塞ぎたくなる話がいくらでもある。


 地獄絵図だったが、俺は。


 誰も死んでないことが嬉しかった。

(いやだから、嬉しいとかホッとしたとか反応をするな俺)


 ぼんよよ、と宙空から風船みたいなカーバンクルが現れた。多分宙空に見えるだけで、透明なご主人様がその辺にいたんだろう。

 カーバンクルが飛び回ると、そこから虹色の雨が降って、消化器より早く鎮火していく。

 転げてた人々が、やばい薬キメすぎたみたいに多幸感溢れる顔になって、大人しく寝ていく。

 その体には火傷がない。カーバンクルの癒しの力ってことだろうか、何にせよ祖母が無事で俺は(いやいやいやだから断じて反応すんな)


 背中から軽い衝撃があって、「あっくそかてぇ切れねぇちくしょこの××××」貴族とは思えないお下品ワードが続いた。


「スキァナン、いんのか⁉︎」

「リアンリアン。最近スキァナン名乗ってなかったから反応しづれーわ」


 軽い衝撃。背後で拘束具と格闘してんだと思う。拘束具。音がしないから何と戦ってんのかは判然としない。

 感触としてはいがいがした荒縄。火刑に処せられたカナンが、最期に逃れられなかったもの、だ。


「カナンは」

「いるよ。つーか動くなよ。無敗の剣とか名前だせぇけどすげぇ切れんぞこれやーべぇ。ああこの状況だと説得力てんでねぇわウケる」

「ウケねぇわ! ていうかカナンまだいんの⁉︎」

「ったりめぇだろこの風景何だと思ってんだ。悪霊は人間の肉体を得る最中だ。そーいう時はぁ、常に取り憑きかけの人間からエーテル吸い上げてんのー。つまり今あんたはカナンの燃料タンクだ。体構成出来るだけエーテル吸い上げたらまた来る。

 くっそ切れねぇ。思ったよりあんた憑かれかけてんだからしっかりしろよ」

「そうなの⁉︎」


 俺の声はひっくり返った。


「そうだ。だからあんただけこんなにも解放されない。カナンの心臓を潰せば終わりだと思ったのにとんだ迷惑だ。いいかてめぇ自分が誰か絶対忘れんなよ。

 自分を放すな。

 次名を問われたら今度はちゃんっっっと答えろ。

 あとはあー……」


 後ろでがつがつやってたリアンが考え込むように黙ったので、俺も持てる限りの取り憑かれたとき対策を脳内ファイルから引きずり出して、最適解を探す。

 取り憑かれた箇所に息を吹きかける。違うこれは肩になんか乗った時のアレだ。

 聖水をかける。祝詞をあげる。いやこの二つはキリスト教だからカナンにはどうか。

 ヤドリギで全身ぶったたく。

 魔除けを額に貼る。

 自分の代わりの生贄ないし依り代に悪霊を誘い込んで燃す。

 歌って踊る。

 体の自由がきかないときは全部無理じゃね。(くそが!)

 憑依霊対策の基本は、専門家に頼むことだ。

 専門家。

 Oh俺だ。


「そうだな。まず質問」

 リアンがすっと息を整えた。

 そうだ。

 こいつも専門家なんじゃねーのか。


『答えな。なんでテメェがカナンを知ってる』


 反射的に、社内資料にあったから、と


 言おうと思っ


『ソウね ェ』


 俺の口が勝手に動いた。


 俺もリアンも息を飲んだ。リアンが後ろっ跳びに距離を取った気配がする。カーバンクルがびびったようにご主人の方に飛んだ。


『これか ラ シぬ ひとに コタえる意味ッテあるのかしラ』

主な参考文献及びサイト:

「佐 藤 和 哉「巨人殺し」の(ユニオン)ジャック」

https://jwu.repo.nii.ac.jp/index.php?action=pages_view_main&active_action=repository_action_common_download&item_id=1592&item_no=1&attribute_id=18&file_no=1&page_id=4&block_id=99(2020年2月2日閲覧)

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