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Kanaan  作者: や
2章 本戦
60/63

緒戦 貴族は有事に真っ先に命を差し出してこそ貴族である。

 


「……ィザー、ぉヴ、ぉヴぁぇえ、ィザーグレズ」

「待て、リアン! いんのか!? ハウス内に、リズが!」


 俺は跳びあがったリアンの足を掴んでしまった。リアンは顔面を木に強打して、俺の方を向いた時には、鼻血が出ていたし、額は割れていた。前歯は鼻血で真っ赤だ。唇が腫れ始める。目が無事で良かった。

 釈明するなら、俺は肩を掴むつもりだった。こんなに早くリアンが跳び出すとは思ってなくて、足を掴む形になっただけだ。


「マジごめ」

「っせぇ知るか! .1%(てんいちパー)でもリズがいるかもなら同じ事だ!」


 裂ぱくの怒声だった。リアンは、深夜の大運動会中の猫みたく、機敏に起き上がった。俺は今度こそリアンの肩を押さえつけた。


「階層違うんだろ!? 符術師の罠かもしれない、相手よく見ろまだでけぇ!」


 これだけ騒いでいるのに、スキァナン氏はこちらに一切関心を示すことなく、反吐を吐き散らしながら、なめくじのようにずるずる、体をひきずって、クロイドン・エッジ・ハウスに向かっていた。氏の足はリアンに射かけられただけあって、穴だらけで使い物になってない。でも進む。

 スキァナン氏は、縮んではいたが頭だけで俺の身長分長さがあった。


「リアン。あのデカさ、一撃でも当たったら無事じゃ済まない」


 リアンは俺の手をとって、社交ダンスするように自身だけ回転する。回転に合わせて掴まれた俺の手首はひねられ、捻れる。痛みに、俺の方からリアンを振りほどいてしまう。

 しまったアイキドー、と思った時には遅い。リアンはパルクールよろしく木を駆け上がり、俺はかろうじて足首を掴んだ。

 バン、と音をたてて、リアンが弾け散る。俺の顔に、確かに石のように硬質な、人間色の破片が散り落ちた。手の中には、リアンの足首から下だけが残っている。断面から鮮血が盛り上がって俺の手をしとど濡らす。なまぬるい。けど、ヒィ、と瞬いてしまえば、そこにはなにもない。

 枝が折れて、なにも掴んでない俺の手の先をかすめて落ちていった。その程度のことに、俺の肩はハッと跳ねる。


「リアン!」


 太い枝にフラガラッハを突き立てた、土気色のリアンが、樹上にいた。空いた手が、頭痛をおさえるように顔面に広がっている。表情はほとんど見えない。顔の怪我はどうなったのか。鼻血は?

 一瞬合ったリアンの目に、濃い疲労と忍耐の色が見えた。


(あるんだ。神罰には、ダメージが)


 さっきは俺の方がてんぱっていて気づかなかった。カーバンクルの癒しの力の強い事、目の前で少女が破裂してもさして動揺しないし、冷静に状況を見られる。リアンのメンタルがゴリラだったわけだ。ずっとカーバンクルと一緒にいて、息を吸うように恩恵を浴びていたのだから。

 俺はまだ車内にいた頃、髪から弓をひき、赤い無人車を射た直後のリアンを思い出した。あの時リアンが名乗ったのは、幼神だった頃のルーだ。あの時も、直後、リアンの腕は土気色になり、本人は体調を崩した。

 主神ルーを名乗る代償は、小さくはないのだ。


『……長腕のルーが。追撃をかける。敵を前にやるな!!』


 ぼぼぼぼ、と鈍い音がした。

 たちまち、粉塵が流れて視界を埋める。タスラムだ。チェーンだった腕は、長さを活かして投石を始めている。


『当てなくていい。奴の進行を阻害しろ』


 タスラムの粉塵で、リアンが霞む。見えなくなる。


「ファイア! 背中から離れてくれ、羽出す」

「カーバンクル。契約に従い翼人を。守れ。主に塵害から、げっほぇふぇふぉっ」


 ファイアが明らか不服そうにぶぅと鳴いた。

 俺は石灰で肺が詰まることはなさそうだったが、リアンに至っては咳だけが存在確認になってしまっている。


「てめぇリアン! おめーが塵害受けてねぇ!!?」

「レヴィン。ぇふっ。一回でいい。閃光弾放ったら、光った方に思い切り翼、伸ばして。同時に空砲鳴らして。位置を攪乱しろ。ぅ、」


 リアンが激しく咳き込む。短期決戦しないと、多分リアンは自分の放った技で死ぬし、咳が位置情報になって敵の不意はつけない。リアンは不意をつく気もないかも知れない。奴の目的は、親父の注意を末娘から自分に向けることだ。パパ、私を見て。


「……すんげぇ急げ馬鹿野郎!!! 粉塵爆発気をつけろよ!!!」

「風上に、行けば、げほ」


 ファイアがもそもそ、俺の背中を這って移動する。くすぐったい。乳首を踏むな。

 枝が折れる音がして、リアンの咳が遠ざかる。リアンは、上へ。昇っている。

 風上もくそも風なんかあったか、と思ったが、タスラムを投げつけているのは、そもそもリアンのチェーンが成した長腕。粉塵は基本、長腕より下で巻き起こっているもので、粉塵爆発に気をつけなきゃないのは、十中八九、銃火器扱う俺の方だ。

 そりゃ、ファイアに守れと言うってもんだ。


(クソガキ!!!)


「クソ親父! これでもあんたを斬りつけるのは、躊躇ったんだがな!!」


 リアンの怒声が俺のほぼ真上からした。


 巨大な影が俺らを覆った、と思った時にはスキァナン氏の幼稚な手に粉塵が払われている。

 フラガラッハが巨大な乳児の手から、親指以外の指を斬り落とす。


「レヴィン、避けろ!」


 真上に降ってきた中指を、俺は羽で防いだ。ぼいん、とした感触があって、足元に血まみれの指が落ちてくる。なにも掴めないくらい、ひとつひとつ短い指。氏が喰ったんだろう、赤ん坊の亡霊の指だ。

 スキァナン氏の絶叫が地を揺らす。


「ィザーグレズ、ィザー、いたい、たすけてくれ、いだいおぉ」


 氏の腕は泣きながら、逃げるように引っ込んだ。

 父親のこんな姿、リアンはどんな気持ちで。


「レヴィン! 無事だな! 敵、進行方向変化なし!」


 樹上に着地しな、リアンはフラガラッハを振るって刀身についた血を払った。

 俺の周囲に腐った血が降ってくる。


「羽虫払う程度には、脅威には反応してくれるみてーだ! レヴィン、作戦通りいくげほ!」


 その作戦、俺の出方はわかってもお前の出方を俺が知らない。

 問おうとした時には、タスラムの粉塵が俺とリアンを分断していたし、リアンの咳も遠くなっていた。

 相棒が速すぎる。


(ままよ)


 空砲を撃つため、銃から弾を抜く。俺は羽を出す。

 閃光弾、というには衝撃波のでかい閃光弾が、リズの入院する病棟の方で弾ける。

 俺は目を瞑りながら、空砲を連射し、なるべく不気味に見えるように羽をのばしてくねらせる。

 閃光弾の炸裂の中心、スキァナン氏のほぼ頭上から、粉塵が吹き飛ばされる。氏は怯えるように周囲を確認し、その後部から、


「苦しんでる時くらい、」


 リアンが跳び出す。


「寄り添ってやれる娘でいたかったんですよァ!!」」


 振り返ったスキァナン氏の外れた顎の中へ、リアンは突っ込んでいく。スキァナン氏は、ひっ、ともぶぃっ、とも聞こえるような音をたてて、跳び込んだリアンを呑み込んだ。

 自分から喰われにいくと知っていたら、俺はこの作戦を実行しなかった。ちゃんと止めた。どうりで、作戦説明からリアンの行動詳細が抜け落ちていたわけだ。

 いるかいないかわからないリズのために、俺は護衛対象をよりにもよって敵の腹ん中に叩きこんでしまった。しまったのだが。


(策は、あるんだよな!?)


 リアンがリズを前に、離脱のかなわない自爆をするとも思えなかった。

 パキ、とスキァナン氏にひびが入る。

 そのまま、神罰を受けたリアンのように、粉々に弾け散った。

 俺の前に結晶片の雨が降る。

 リザークレスの病室、少女趣味の虚構が崩れる風景とよく似て、きらきら。

 破裂したのが肉片なだけに、どの結晶もあかく、あかいが、カーバンクルの宝石よりも皮膚の色にちかいあかだ。未練の奥の奥の奥、そもそも未練の素になった希望、希望の元であった輝かしい成功体験、成功足りえた無知無力ゆえの無邪気な勝利・初めて自分と自分が選んだ仲間たちだけでたどり着いたネヴァーランドの太陽光・それをめいっぱい閉じ込めたグラスボトルがボトルごと叩き割られたみたいに、結晶片はひかり落ちていく。


 リアンを呑む、ということは、神罰をも呑むということだった。リアン自身が最強の毒。神罰くらってるリアン本人にとっても。


 瞬けば、肉色にあかい結晶に囲まれて、リアンだけが立っている。

 俺は空にした銃に素早く弾丸を込めて、周囲を警戒しながらリアンに駆け寄った。

 リアンは消耗の色も明らかだったが、静かに立って、手にした紙を見下ろしていた。

 俺が走り寄るのに合わせて、ぼんよよよん、とファイアが地を跳ね、リアンの頭に飛び乗る。リアンの細い首がファイアのほとんどない質量分、一回だけかくっと揺れた。

 リアンは手にした紙、ぼろぼろで短冊状のそれを見下ろし、動かない。


「無事か!」銃口を下に構えながら、リアンと背中を合わせ、念の為周囲を警戒する。布越しにもわかるくらい、リアンは、というかリアンの周囲の空気は、冷え切っていた。

 確かにここに、死霊がいたのだ。

 ちらりと流し見れば、リアンの手にフラガラッハがない。ということは、今は警戒を解いていいのかも知れない。


「それ! 呪符じゃねーか!?」

「うん」

「持ってて大丈夫なのか! 触ったら貼られたことになったりしねぇ!!??」

「平気」

「えんがちょお! 貸せ、素人が持ってても危ないから! 俺ほらプロだし触りたかないけどなるべくはじっこから渡せ、ていうか俺ら、勝ったのか!?」

「いや」

「負けたのか!?」

「いや」

「ていうかリズってあそこにいんのか!? おいリズ! リズ、俺! 俺昼間にちょっと話したお兄さんだけどさぁ! 入ってますかぁ!?」

「うるっっっせぇなぁあお前」

「なんだと」


 それでも俺は紳士なので、射撃姿勢を解いて、粉塵ですすけほぼブランド価値ゼロになったハイブランドジャケットを脱いで、リアンの冷えた肩を包んでやった。

 リアンがようやく、顔をあげる。ほんの一瞬呆けたように俺を見たが、すぐいつもの皮肉な笑いに戻った。


「ありがとうジェントル、服香水きっつ」

「元気で何よりだ」

「これくらい人工的な香りのが、今はいい」


 リアンはえんがちょ呪符を持ってない方の手でジャケットの襟元を引き上げ、においをかぐ。ハイブランドの香水に、気付作用があるとは思わなかった。さすが俺の選ぶハイブランド。


「呪符は伯父上のものだ。親父の上顎からのどにかけて、べったり貼ってあった。親父の中で千切り取った時ぁデカすぎて一部しか破けなかったが、実物はこんな手の平サイズかよって、思って。

 とはいえ神罰で諸共砕け散らなかった、ペラ紙でもこうして形が残るとは。さすが族長」

「呪符、なら、その符破ったら、呪詛返しで符術師が終わりじゃねぇのか」

「符の裏に肉片がついてる。遺体の頭部盗んで、直接はっつけたんだろな」


 リアンがぺろっと裏返した呪符の四隅には、黒ずんだジャーキーみたいのがついていた。

 俺は娘さんの手前、コメントもリアクションも控えたが、心っからえんがちょお、と思った。控えたが。

 リアンの声は静かで、再び呪符を見下ろす目は、凪いでいる。

 俺の目にはきったないジャーキーだが、リアンにとっては、それは親父さんだったものだ。というか親父さんそのものだ。

 俺の親父がこんな姿になったら、どんな気分だろう?

 俺のジャケットはリアンをぬくめるにはがっほがほで、対照的にリアンがひどくちみっちゃく見える。

「符術破ってからが符術師の本番、だからなぁ」リアンはトラップを確認するように、符をめくり、角度を変え、光にかざし、検分する。


「……ネクロマンサーが使う紋が、所々織り込まれてる」

「何が書かれてるか、わかんのか!?」

「詳細までは。でも、……お袋、ネクロマンサーだからさ、うち。左上、右下、中央の魔法陣の隣。見覚えのある文様があるなぁと」


 俺はのみたくもない息を呑んだ。死霊の腐肉がナノ粒子になって混じってそうな空気の中息を。


「伯父上はお袋の兄ちゃんだから。ネクロマンシーくらいかじってそうだけど。

 するといよいよ、あーあの頭、本物の、ガチ親父の遺体だったんだなって思ってな。ネクロマンシーは大前提、死体が必要だからな……。

 遺体掘り起こして、何年もこの状態だったのかなとか」

「今世界一言いたくないけど、ごめん、感傷ならあとにしてくれ」

「感傷だったら良かったんだけど。『いやなんのために?』て戦略的疑問が」


 日光にかざされると、四隅にできる腐肉の影が際立った。俺はちょっとあとじさった。


「お袋が親父の頭保存してました、なら、わかんだよ。一応夫婦だし、ま、そんな愛もあるかもなぁと」

「どんな愛でどうなってんだお前んち」

「愛した奴の脳味噌モロ見え頭蓋なんて欲しくねーよな、逆に。

 でもだとしたら……なんで伯父上が、義弟の頭異階に保存してんだ? 今回はレヴィンをリズの代わりに捕らえるための、仕掛けに使われたわけだけど。その計画、だっていつからあったんだよって。この符、簡単に破いて本当に大丈夫か?」


 俺も思考をめぐらして、身震いした。

 確かに、俺は翼人としてダヌバンディアに確認されてはいた。あのオマー爆弾テロの日に会った紳士。アレが、ダヌバンディアの族長。もうあんまり顔とか覚えてないが。


「レヴィンにけしかけるつもりで、頭蓋を保存してたって仮定すんべ。

 翼人たってレヴィンは民間人、しかも因縁ある北アイルランド人。英国貴族が狙った日にゃおめー、シティを的にして貴族資産から灰にしてくれって、リパブリカンに頭下げるようなモンぞ。IRAが活動再開したら国内に潜伏してる中東系テロリストもドサクサで暴れるだろうし、そうなりゃ国民暴動待ったナシ。ヤードもMIも軍も動員されて、次年度予算は燃え上がる。カナンが祟らなくたって、英国は内側から終わる。ダヌバンディア失脚は免れない。

 そんなん5年前だって今日だって変わんねぇ。むしろEU離脱の今時期のが国民感情デリケート。伯父貴がレヴィンに手ぇ出すのは、ハナから誰のためにもなんない。

 仮定が成り立たない」

「俺今初めてロンドン生まれロンドン育ちじゃなくて良かったと思ったんだけど」

「でもレヴィンは過去、ダヌバンディアの、おそらく伯父貴と接触してんだろ。いつだっけ」

「1998年8月15日」忘れもしない、オマーテロの日。

「となると、リズの生まれる前か。リズの生まれる前から、レヴィンは翼人の頭数として、数えられてた。ただし、カードとしては最悪、ほとんど諸刃のジョーカーとして。北アイルランド問題はさむと、英国はどうにもな。

 余計わかんねぇ。レヴィンの襲撃計画っていつから組まってた?」


 そういうことは呪符を破ってからでいいんじゃねぇか、と心から思う。

 思いながら、破られた符はどうなるものだろう、とも思った。ここは物理世界とは異相が違う。

 破られた符がふっと消え去れば、そこについてるジャーキーも消えることになると思うと、俺は何も言い出せなかった。ジャーキーは、リアンには変わり果てた父、その人なのだ。……人、なのだ。


「……リアンてめぇ怖いこと本人に訊くな。

 いつから組まれてたかわかんないなら、いつからも組まれてなかったんじゃないの。そもそも、リズが今生き残ってるのだって計算外だろ、ダヌバンディアには」

「戦場で計算通りにことなんか運ぶか。とはいえ私もそう思う。わりと、最近のぽっと出計画なんじゃねーの。リズがダメなら、レヴィンを使う。それで北アイルランドど国際問題になっても。

 でもそうなると、5年前から親父が保存されてたのは、……なして?」


 リアンが首を傾げ、ファイアが絶妙なバランスでリアンの頭にしがみつく。

 リアンの血色は、ファイアのいる辺りからじわじわ回復していた。戦法が自滅的なリアンにファイアがはべっていることに、改めて物凄く納得がいく。

 同時に、気づく。


(そうか、こいつ。こいつが今本当に問題にして、こだわってんのは)


 符を破れずにいるのは。


「5年だぞ。5年。レヴィンには、うちの親父、どう見えた? 私に似てた?

 私には苦しそうだし痛そうだしつらそうだし解放して欲しそうに見えた。ひとの親父をあんな状態でとっといたのは、なんでだ」


『貴様にはわかるまいよ』


 リアンが一瞬で殺気立つ。

 クロイドン・エッジ・ハウスの門の向こう、俺らが潜んでいた森に。目を布で覆った男が立っている。


 リアンが「族長」と突っ込んでくのと、男から首がとんだ、ように見えたのは秒にも満たない間。フラガラッハが木を一本斬り倒す。

 呪符はフラガラッハともども握り込まれ、ぐしゃぐしゃに歪む。

 森の中、木がコンマ一秒の速さで男を映しては木に戻る。男の像は観客席のウェーブみたいに右の木から左の木に伝播して、実質男がいない瞬間はない。


『バカの考え休むに似たり』

『光と速さ比べで勝てるとお思いか、ゴラァア!!』


 光神ルーの怒声の乗った言霊に、確かに、像の移動速度は緩む。

 長腕という長腕がそこらじゅうから像を捕えようと伸び、結果、森は無惨な平地になった。

 俺は銃を構えて森に向け、慎重にリアンの出方を見る。


『まだこれだけの力を出せるとは。強くなった』


 声は、呪符からだった。

 リアンが握りこんでいた符が発火する。リアンがフラガラッハごと放し、後ろとびで2歩下がる。3歩目には水膨れを叩き潰すよう、思い切り手の平をコンクリートになする。左足を軸に回転、弧を描いた血痕から、じゃあっとチェーンがとび、宙で燃え尽きようとしていた符を絡め取った。

 空気の供給をほとんど絶たれた炎は、しかしリアンの親父の脂を吸っていて、ちろちろ燃え続ける。


『答えて下さい! 親父を5年、こんな形で存在させ続けた理由は何です、何が狙いだ!? お袋はコレ知ってるんですか!?

 それはダヌバンディアの総意ですか、それとも族長の独断ですか!?

 なぁ、別に仲良し親子じゃねぇけどよ、実父が5年も生殺しだったと思ったら、こっちゃいい気はしねんだわ!』


 後半は恫喝じみて、リアンの言霊が響く。言霊を使ってでも、回答を引き出したいってこった。

 しかし男の像が何事か返そうとする前に、


 あはははははははは!!


 聞き覚えのある少女の嘲笑が、空間に響いた。


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